108曲目
1曲、2曲……数的には10曲以上は熱意を込めて歌っただろうか。
夏休みに突入して外の気温が上がり、燦々と照らし熱を与え続ける太陽の下で体の中にある気力を根性で振り絞って歌い切ると、すでに顔やら着ている服が噴きでた汗でびっしょりとなっていた。
気力を振り絞った割にはその成果はあまりいいとも悪いとも言えない。
なぜなら、僅かに投げ銭が歌の途中とかに指折りで貰えたのだ。
だいたいは10円玉やら100円玉やらばっかだが、ある意味嬉しい。
しかし長く俺の近くにいるのを嫌い、すぐに距離を取って歌を聴いており、俺が歌を歌い終わってそちらの方向を眺めるとすぐにそそくさとどこかへ行ってしまうしなんだか曖昧な心境だ。
成果が悪いというのは。9枚のチケットに変動がない。
それがライブを見るまでの弾き語りでもないとか、知り合いやソロ時代のときに世話になったヤツみたく用事があるのかどうかは定かではないものの、今現状はまさに現実は非常であると突き付けられたようなもんだ。
簡単で簡潔に今のこの状況を言い現表せるなら、一進一退。
「……なぜだ」
自分でも理解はしていたが、まったく相手にしてもらえない。
俺の弾き語りを遠くから聴き終わればその場で立ち去るのがザラだ。
ひどいヤツになると、俺が遠くから興味本位か怖いもの見たさで聴いている人に声をかけただけで、悲鳴を上げたり顔面蒼白になって逃げて行きやがる。
「うーん、やっぱり見かけが怖いのかなぁ? 頭真っ赤だし、顔もいかついし……でも陽ちゃんの弾き語りってやっぱいいって思えるんだよね~。ギターのストロークも荒々しいし歌い方もがなり気味だけど、ソロで活動していたときよりも上手くはなってるし」
おいおい、なんだその曖昧さは。
褒められているのか貶されているかも判断し難い。
「やれやれ、俺も弾き語りをしているときけっこう注目されているから気分もよかったが、なんか素直に喜べねぇな。第一、人を見かけだけで判断して決めつけるなんて、なんて連中だ。それよりケンの方はどうなんだ? 俺がだいたい5曲くらい弾き語りをしているときはそこら辺で聞き回ってたのは見ていたけどよ。いつの間にか俺の方を見てばっかりいたが、ちゃんとチケット売りをやってたんだろうな?」
「ご、ごめん。最初は話しかけたりしたんだけど、やっぱ用事があるとか興味が無いとか言われちゃって。それを訊いてから、なかなか人に声をかけづらくなっちゃって……」
どうやらあまりかんばしくない結果だったようだ。
そのせいで作業も滞り気味でまた委縮してしまってる。
「路上ライブをして俺は弾き語りができる、そして道行く人々も注目させては引き寄せる2つの行為をすることは俺自身別に構わないけど。チケットを全然さばけない俺ばっかりに恥をかかせるな。お前も頑張って行動してしっかり恥をかいてくれ。それこそが、俺たちバンドのメンバーである善行なんだ」
「ちょ、ちょっと、恥をかけって……もう。ひどいなぁ、それ」
不平不満を曇り顔でぶつくさ言いながらも、ケンは駅前の路上にむらがる従来の人の流れに逆らわず、身を任せるままに混じり入った。
ああそうだ、弱気で引っ込み思案でオドオドしたアイツも行動してるんだ。
よし、俺もこうなったら人の選り好みをしている余裕はないぞ。
路上ライブなりなんなり、路上を歩く人々に手当たり次第に声をかけてやる。
「悪い、急いでるだろうけどちょっといいかな?」
「えっ? ええっ? あの……もしかして、私?」
ちょうど俺の前を意気揚々と通りかかった子を、ちょっと強引に呼び止めた。
見た目と気分は、いかにも夏休み中で遊びに行こうという学生さんの感じだ。
その子は俺の見た目を間近で見た怖さで身を引いてしまうが、ここは前進だ。
「どこかに遊びに行こうとしてたの? けっこうアウトドア派なキミにちょっといい話があんだけどさ。キミ、ロックとかライブとか興味ない? 実は俺さ、初のバンドを組んで今度ライブハウスでライブするんだけど、デパートとかで買い物するよりも楽しい楽曲を聴かせてやるぜ?」
「ええ~、私、そういうの興味ないです」
俺の手を振り払ってさっさと目的地へ行こうとする。
そこで引くわけにはいかないと感じ、振り払わないようにする。
「あ、ちょっと待ってくれよ。じゃあ俺の曲を1曲でもいいから聴いてっ……」
「はあ、もう、なによっ? あんまりしつこく付きまとうなら人を呼ぶわよ?」
「おい、いきなりそんな大きな声出すことないじゃねえか。俺はキミにただ……」
瞬間、話しかけているその子は顔を強張らせてしまう。
なにやら俺から変人でヤバめのオーラでも感じ取ったんだろうか。
腕を掴まれたその子は一気に泣き顔になりながらも周りの見渡す。
「誰かっ! 変な人に絡まれてて怖いですっ。早く誰か来てくださいっ!」
「ちょ、おまっ!? おい、やめろって!」
通行人たちが、みなこっちを不審そうにジロジロ見ていく。
中には歩きながらもヒソヒソと話したり怪訝な顔色で訴えてたりする。
イカン、こんなとこ知り合いにでも見られたらあらぬ誤解を招いて……。
「あっ……」
瞬間、俺の背中に罪悪感にも似た感覚が、這いよる感覚が刻まれた。
そう、俺にとっては聞き覚えがあり柔らかい天使の声色が耳に届いたのだ。
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