107曲目
昔は路上ライブにチケットさばき。
こういうのが今だとほぼ規制がかかる時代。
今の時代だと動画をYouTubeにUPが妥当だ。
そんな前提を覆して己の道を行くお話。
駅前に来てからチケット完売を目指して、熱血なる行動に移していく。
俺たちのいるそこには、デートやら買い物やらで駅前の路上を歩いている人々。
ありきたりで日常に埋め尽くされた世間に突然路上で、いきなりアコギの音が鳴り響いて奇妙だと感じ、道歩く若者たちはこちらをしかめっ面で怪訝そうやら呆気にとられ"なんだ?"と僅かに興味心に駆られたりして覗き見ている。
「ええ~? も、もしかして、今から知らない人に声を掛けたりするの? 陽ちゃんはここで路上ライブでカバーやオリジナルを弾き歌っては客寄せしたりして、まさか僕がチケット売りみたいにするってことは……な、ないよね?」
ははっ、いやはや、ケンのように勘のいいヤツは嫌いじゃねえな。
だがこういうことは苦手なケンは、実行する前から怖じ気づいている。
「そんな辛気臭くて幸せも逃げそうな顔をすんじゃねえよ。どうせ喋ったこともない知らない連中ばっかりなんだし、ライブに呼んでからは二度と会うかまた会えるかどうかも曖昧なんだから大丈夫だ。安心してチケット売りに専念しろって。第一、知らないヤツらなら話をして"興味ない"とか言われたり、"行きたくないです"とか嫌われたって全然構わないだろ? だから多少強引で勢いある売り方だってできるしな。ほら、俺を見てみろ、こうしてアコギ一本掲げて路上ライブをしながら知らない連中にチケット売りさばこうとしているんだぞ?」
「そ、そんな~。僕はそういうことはしたくないよ……」
俺の熱意ある説得でもケンは浮かない顔を浮かべたままだ。
ここはケンの心情を武器にするんじゃなく見た目に視点を置こう。
「あ、ほらよ? ケンは顔もいいし身なりも整ってるから、道行く若い女にちょっと声を掛けてさりげなく爽やかオーラを出せば、きっとすぐに立ち止まってお前の話を興味津々に聞いてくれるぞ。そしたらすかさずライブチケットを売りつけて満面の笑みを出してやるんだ。それでバッチグーよ!」
「ええっ!? や、やだよそんなの。というかそれって、違法じゃないの?」
ケンは訝し気に俺へと返答をもとめる。
たしか"白神郷"から近い東京方面の地域では、怪しげな路上スカウトがたくさんあって、最近では悪徳なスカウト詐欺が多発しているので注意が必要だというのを訊いたな。
ま、俺たちのやることはスカウトとかじゃないからいいと思われる。
たとえそういうのが禁止だと言われるのはそういう都心部ばかりだ。
ここも確かに都心部とも言えるとこはあるがほとんどが田舎みたいなとこだし、俺たちのしていることは"白神郷"の伝統的で繁栄している音楽なんだから、近視や違法とかはきっと田舎染みた温厚な志で許されるであろう。
「グチグチ下らないことばっか言ってないで、まずは年上の色気あるお姉さんタイプや包容力のあるお姉さんタイプにターゲットを絞って声をかけてみろ。お前の性格と爽やかで優しそうなオーラを全開に出して、相手の母性本能をうまくくすぐれば、案外簡単にチケットを買ってもらえるかもしれないぞ」
俺はギターでカバー曲である洋楽のコードを確かめながら言う。
「そんなこと言われても……もう、陽ちゃんは無茶苦茶だよっ」
弱気なケンは完全に萎縮してしまっている。
下を向いて俯き気味になり、僕には無理だよって感じを滲み出す。
沈む太陽に覗かせる虚無感に満たされ、虚勢すらも張れないでいる。
「いいから頑張れ、お前ならできる。そうじゃないと、俺らで残りのチケット分全額かぶることになるんだぞ? だから自信を持って頑張れ」
「うう、それはどっちもイヤだなぁ……」
未だに曇天気味な顔つきを出す。
駅前で出される喧騒と蝉の唄声を聞いてから、ケンの肩を叩く。
体がビクッとし俺の方を見たケンの目を見据えて、俺は燦々と笑う。
「ケン、もっと胸を張ってみろ、なんてったってお前は俺の最初の友人であり、共に音楽を始められた熱い魂を持つんだからな。お前は考え過ぎて本当の実力が見えていないんだ。余計なことを考えねぇで、自分が『こう』と心の中で思って火が灯されたことをしてみろよ! 最高にロックで気持ちのいいもんだからよ」
たとえそれが虚影の自信でもいい、虚勢でもいい。
なにがなんでもやってやるって空の自信でも、空白の熱血でもいい。
ちっぽけな存在の俺たちが今やるべきことを、一身に必死でやり遂げる。
それだけがバンドとして活動するための、進化の過程となる道筋だろう。
「……わ、わかったよ。それじゃ陽ちゃん、ちょっと言って来るね」
ケンはチケットを手に持ったまま近くにいる人に近づいて話をし出す。
心細いだろうが実行に移せたケンを見て、俺もうかうかしていられない。
俺はアコギをもう一度構え直して、自前の譜面台を立たせ、歌詞ノートを置く。
そして駅前の傍に備え付けである椅子から立ち上がり、自分の前を見据える。
そこには未だにこちらをまるで道化師でも見るかのように、路上の道を横切りながらもそれぞれの感情を向ける目が多数あるが、肩掛けのギターストラップを自分の肩に掛けた俺はそんな不平不満な気持ちすらも焼き切ってしまうようにコードを掻き鳴らす。
俺のいる路上に、燦々に輝く太陽に似合う乾いた音色が鳴り響く。
横目で見て歩いている人も今度は凝視して俺を見ている。
そんな中俺は肩の力を抜き、体内にある空気を吐き切って一気に吸う。
「おはざッス! ソロ活動でシンガーソングライター『陽太』改め、新たな一陣の風として巻き起こる"ソルズロック"の創立者であり先駆者となるソルズロックバンド【Sol Down Rockers】のリードギター&メインヴォーカルの熱川陽太だ! 煩わしい目で訴えかける前にその耳と心で聴いてくれ、まずは一曲目……"Sum41"の"Pieces"だ!」
たった1つのアコギから乾いた音とともに、太陽の下で歌と弦音が響く。
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