106曲目
友達や知り合いって大切なんだな……。
そんな気持ちを思い出させてくれる場面。
※1
タイトルを戻しました。
稔たちにもチケットを渡して完売を目指そうよ、と。
考えてみると、チケット完売に近いのは必然に頼れる部分が多い。
俺はまた同じことを訊かされてるし、受け答えも億劫になってしまう。
ケンはずっとそう主張し続けているのだが、俺は断固として反対だぞ。
俺だって最初こそチケットをさばこうと思ったとき、真っ先に結理や稔たちにもチケットを渡してライブに来てもらおうと脳裏で考えてしまったが、すぐにそんな甘えに近い手段を斬り捨てた。
俺が断固として反対する理由は至って簡単だ。
結理たちは、だって二時世代音芸部のメンバーだからだ。
演奏する腕もバンドとしての実力も客の感情を一気に湧き上がらせる心もあるヤツらは、夏休み最終日に迎えるバンドコンテストに出演する最大の難関であり最高の好敵手なんだぞ。
「俺たちはもう自分たちのバンドを組んで活動を開始できたんだ。そして結理や稔たちも二時世代音芸部バンドで音楽と真剣に向き合い、あのとき演奏った鐘撞大祭ライブでだって集客も連取も本気で挑んで出し切ったんだ。そんな認めれる敵から施しを受けるような真似はしたくないって何度も何度も言ってるだろ」
熱い日差しが照らす太陽の下、熱苦しい熱意を口に出す。
それを見てて少しだけいつもの爽やかな笑顔に戻るケン。
「ん~っ、陽ちゃんはそう言うけど。別に結理ちゃんたちは敵じゃないと思うけどなぁ。だってそれだと、稔ちゃんも僕たちの敵ってことになるんだよ? 陽ちゃんは稔ちゃんから施しを受けても嬉しくないって言うことになるよね」
まーた爽やかなコイツは、言うに事を欠きやがって。
ケンはまるで拗ねた子供のように口を尖らせて不服そうに言う。
しかもその顔つきを見るに、きっと俺の弱点を突いたつもりだろう。
冷静に事を見据えるのに、けっこう子供っぽいところもあるヤツだ。
コイツのこういった仕草をクラスの女子に言わせると、そんな甘え上手な子供みたいに接するとこも可愛いのだそうだが、俺にはその感性も概念もよく理解しがたいモノだ。
ま、こう考えてまごまごしてても意味を成さないな。
チケット手渡しはもう希望の軌跡は見えないとふんだ俺は、道なりの椅子に立てかけたギターケースのチャックを下へと向けて開け、中からアコースティックギターを取り出す。
中身が無くなったギターケースを自分の目の前である地面に置いては、路上ライブのとき僅かに投げ戦で入れられたように広げて、その中に手渡し用で持っていた9枚のライブチケットを投げ入れる。
「ケン、お前はひとまず硬い頭でいいアイディアが浮かばずに、逆境に打ち勝つことを放棄して"楽しよう"って考えは今すぐゴミ箱に捨てちまえ。そりゃ、結理たちなら、俺らが"ライブを見に来てくれ"って頼めば文句を言いつつもライブチケットの1枚や2枚買ってくれるだろうさ。それに、アイツは何だかんだ言って、優しい面もあるからな」
ま、そりゃそうだ。
性格はひねくれて人の不幸をネタにし笑ったりしてても、結理はあれで面倒見のいい姉御肌なヤツだから、女子軽音部を筆頭に知り合いから友達の女生徒にも声をかけてくれたりもするだろう。
アイツも顔が知れて広いし、人望も熱いから相乗効果がきっとスゴイはずだ。
稔は言うまでもなく女神の力を授かった天使の生まれ変わりだ、きっとそうだと俺が勝手に思っているがたとえラノベ的展開じゃなくても実際に稔は誰よりも優しく、健気で、気持ちを汲んでくれる可愛い子だ。
それこそ両親から小遣いを前借りしてでもチケットを買ってくれるだろう。
俺とケンの両方から、合計2枚も衝動的に買ってしまうかもしれない。
だからこそ、そんなヤツらから買ってもらうのは、気に入らないのだ。
「けどな、俺はそういう安易な道があるからって、険しい道のりから目を逸らして流されるままってのは俺の心が許せねぇんだ。それに、音楽を最初に始めた俺から発端で広がって音楽好きの親しい相手だからこそ、金絡みの面倒やしがらみを勝手気ままに押しつけたくはない」
「うーん、それは僕だってわかるし一理あると思うんだけど……でも、そっちのツテを封印しちゃうってなると、僕たちは本当にライブチケットを買って見に来てくれそうな知り合いや友達はいないんだよ? 陽ちゃんだって、ソロのときにお世話になったり一緒に競奏したっていう知り合いだって、その日は用事や仕事があるとかで全滅だったんでしょ?」
ケンはもう希望の軌跡が絶たれたみたいに不安な顔をのぞかせる。
同じ悩みの境遇である俺は、ケンを安心させるように雄々しく笑いかける。
それと同時に路上ライブの実戦も開始しようと思い、右の膝上にボディを載せて左手はギターネックを握り指版でコードを押さえ、ピックを持つ右手でサウンドホールの中心に上から下へと振り下ろしピッキングをすると乾いた音が鳴り響く。
「ケン、ここは逆に考えてみようぜ? それこそ碁盤を裏返すようにな。お前さっきから知り合いとか友達とか言ってるけど、まずそういった身近の人間に限定するからダメなんだ。世の中には、端から端まで、こんなにたくさんの人間がゴロゴロいるじゃねえか」
俺はその場で両手を力一杯広げる。
心躍り気分も最高潮に達する夏休みがはじまったばかりの駅前には、我が世の春が来たとばかりに道をかっ歩する若者たちがひっきりなしに俺たちの目の前を横切っていく。
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