103曲目
ライブでのチケット50枚という初バンドの俺らには少し荷が重い試練。
そこでまたソロとして多用していた路上ライブで客寄せとライブの宣伝をしてやると、そんな楽観的かつ熱血的な手段もできる俺はともかく、ケンはたとえ相手が他人だとしても繊細で優しく、頼みごとやお願いがあっても踏み込めないし気も押しも弱いからな。
ましてや誰かになにかを売りつけるなんてのは苦手中の苦手なはずだし。
上手くいくのかなって顔つきを出してネガティブ真っ逆さまだな……。
「おいおいケン、そんなに暗い顔を出すなよ。大丈夫だって、そんな心配はすんなっ! 俺もアコギを持って駅前近くの路上でまたアコギ生ライブとかで人集めやってみるつもりだしよ。1人でなんでもやってみようって考えずに、俺と2人してその辺でチケットを売っ払っちまえばいいじゃねえか。俺は俺にできることをやって、お前はお前にしかできないことをすればいい。単純だろ?」
「ええっ!? よ、陽ちゃん。えっと、またいつものようにアコギのみで路上ライブをするのはいいかもしれないけどさ……。そ、その辺でって、もしかして道を通る知らない人にチケットを売るの?」
「お前はたしかに友人関係は広いと思うが、その中でライブやバンドに興味があるヤツっているのか? それに、知り合いで買ってくれそうな人だっているのかよ? だいいち、俺の絶望的な交友関係はお前も知っているだろ?」
「う、ううん。ちょっと思いつかないけど……」
どうやら当ては浮かばないようだ。
ま、そんなに都合のいいのがあれば苦労はしない。
「だろ? じゃあ、知らないヤツにライブの宣伝をしてチケットをサバくしか方法はないだろ? 俺は今も昔もやり方は変わらないからいいけどよ。いやー、懐かしいぜ。路上ライブでカバーとオリジナルを引っさげてはノルマ5枚とかでも1か2枚しか買ってくれず冷めた目で見られた貪欲で貧困とした日々の暮らし。ま、ありゃイヤな気持ちにさせられたぜ」
脳裏の中で思い出が泉のように湧き出てくる。
春夏秋冬関係なしに朝のきまった時間にいつもの路上ライブ場所に出向き、機材もなんもなく背中に背負ったアコースティックギターの入ったギターケースと己の喉のみで勝負に挑んでは、朝から晩まで居座って弾き語りをしていると変なヤツに絡まれたり警察から追われていたんだっけ。
荒削りでがなる弾き語りに見向きもされないのはあたりまえ。
今時音楽なんて流行じゃないと吐き捨てバカにされるのも日常茶飯事。
ギラギラする熱意と心に刻んだ決意でなりふり構わず弾き語った毎日。
俺はまた、バンドとして自分の流儀に戻るんだ。
シンガーソングライターも続けて、バンドマンとしての新たな俺。
チケットという山場があっても、絶対に売りさばいてみせてやる。
とにかく、外に出てたくさんの人にライブの宣伝をしていけば、なんとかさばけないことはないだろう。
こういうときは"下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる"っていうしな。
世の中ライブを楽しむ物好きだっているんだ、無駄じゃない。
ライブのチケット1枚1500円(1drink込み)だ。
俺とケンが任された枚数は12枚で、もしこれが売れなければ、その分は全部自分の負担になるわけだ。
学生にこの値段を払うのは辛いし、絶対に売り切らなくちゃな。
「なあ、ライブハウスでの予約をしたときにチケットって貰ったんだろ? 今ソレ持ってるんだったらちょっと見せてみろよ」
「ああ、貰ったぜ。ちょっと待ってな」
封筒からチケットを取り出し、全員で等分に分ける。
けっこう派手な文字などで描かれているライブチケットだ。
みんないきなりライブするとかライブ出演場所をもう少し考えろとかぶつくさ言ってたけど、いざ初となるライブチケットを受け取るとなんだか感慨深げだ。
俺もやはりそうだ。
初めて組んだバンドでライブハウスに立つ、気持ちも嬉しくなる。
50枚の重みを1人1人で売りさばき、華々しいライブデビューを果たすんだ。
当の俺も、12枚って難関を強いられても熱意と根性で激売しきってやるぜ!
「うわ~、これがライブハウスのチケットなんだ。なんだか表面の文字とかイラストとかも派手だし、本格的でいいね~。それに渡されるほうじゃなくて渡すほうって考えると、なんだか関心深くなっちゃうな」
「うん、たしかにな。こうして見てるとなんだか売るのがもったいないようだな。1枚だけ記念にとっておくか」
「なあ、お前ら。初めてのバンドでライブハウスでのライブ出演で、チケットを見ては感心するのはいいけどさ。売れないとその分自分で負担しなきゃならないんだから、1人でも多く客を呼びたいんなら、できれば任された枚数分売り切ってくれよ。1500円ってけっこうバカにできないからなぁ」
「わかってるわかってるって。ライブチケットで浮かれてる場合じゃねえし、バンドとしてはコレを売って本番のライブでカッコよく決めるのがセオリーなんだ。陽太もケンも宗介も、任された枚数分さばくのは困難だと思うが? その点、オレなんかこれだけの枚数じゃ足りるかどうかわか……んっ?」
と、自信満々な自慢を言おうとした瞬間、言葉を失い時間が僅かに止まった。
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