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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
103/271

102曲目

 音楽業界の中では世知辛く、それでいて試練を課せられる使命である。

 俺らがライブに出るためには、チケットノルマをまず越えなきゃならない。

 バンドとしてライブ出演しなきゃと思い、ケンが疑問そうに呟く。


「ねぇ、チケットノルマってどのくらいなの?」

「なに、たいしたことはない……と、言いたいところなんだがな。そのライブハウスは"白神郷(しらがごう)"の中ではかなり有名なとこでさ。"LIVE(ライブ):ALIVE(アライブ):SOUND(サウンド)696"っていうとこで通称は"LAS(ラス)696"って言われててさ。ノルマが50枚だとさ。少しきついが、4人で分担すればなんてことないだろ? メンバー1人だいたい12枚で、その中で2人は13枚くらいのノルマになるな」

「「「ごっ……!?」」」


 チケットノルマ50枚という、初結成したソルズロックバンドで初ライブハウスをするのに有名なライブハウスで出演するのと、キチガイめいた枚数を聞くとメンバー3人は絶句する。

 出演するバンドは4つのかなり腕の立つバンドで、動員数が300を超える大きなライブイベントとのことなのだが、夏休み最終日で迎えるバンドコンテストはそれすらも小さく見えるほどのビックなイベントなので、俺は"イケるだろう"とけっこう軽い感覚で予約したのだ。


 先ほどから俺に向けて暁幸や結理が、あまりにも先のことをなにも考えずに決めているので『バカ』と連呼されているが、そんな俺でもライブハウスでのルールや事情というのも心得てはいるつもりだ。


 金は掛からないが警察の厄介になりかねない駅や地下にスーパーの前で行う路上ライブとは違い、本格的でちゃんとしたルールに乗っ取って演奏ができるライブハウスに出演をする際は、さまざまな形でお金が発生しそのなかでも最も代表的な仕組みとして『チケットノルマ制』というのが存在する。

 さっきも珍しく心配そうな顔つきで結理も言っていたが、チケットノルマとはライブハウスでライブに出演するにあたって、主催者から演奏者(演者(えんじゃ)とも言う)へと課せられるチケットの最低限販売ノルマのことだ。


 普通のライブハウスはだいたい20枚前後がノルマの相場である。

 もちろん有名なとこでは30枚や40枚前後もあったりするが、動員数が300人越えで50枚ともなるのだから、客寄せも大変で練習も血反吐を吐くほどしないと立てないような立派なライブステージと機材ばっかなんだろうな。


 そこから俺は何故か暁幸と結理からきつくお説教される。

 稔は助け船も出せずに見守ってケンも宗介もしばらく放心状態に近い静観で俺を見ているが、さすがにいきなりハードルを上げすぎたかなと反省するとこもあってか、口酸っぱく説教する2人の言葉に横やりも入れずに聞いている。

 カップラーメンができる時間帯を、勢いのまま説教されてやっと終わる。

 アイテテテテテっ、椅子の上に正座させられる気持ちにもなれよな……。


「まあ、こうなっては仕方がない。……ここは頑張ってノルマをサバこうか」

「ぜい、ぜい、はぁ、はぁ……あ、ああ、わかったよ。こんの、頭のおかしいロックバカがっ! 世間知らずもいいとこだぞ。"LIVE(ライブ):ALIVE(アライブ):SOUND(サウンド)696"つったら、動員数最高で300以上でそのライブハウスから色んなバンドが世に出したほどの有名なライブハウスだろうがっ! お前なぁ、ロックバンド【Starlight(スターライト):Platinum(プラチナ)】だってそこでライブを演奏()ったこともある歴史の深いとこだぞボケナスっ! やれやれ……まあ、オレが一声かければ芽愛(めい)はもちろん、ライブを見に行きたいって女の子はいくらでもいるからいいけどさ」


 ソルズロックバンドや新メンバーのリズム隊2人の目は俺に向けて"無茶なことをしやがって"って感じで、ジーッと見てくる。

 それでも宗介はため息交じりに了承し、暁幸は怒りながらも了承する。

 なぜか説教とゲンコツも追加され、食らった俺の頭から今にでも煙が出そうだ。


 たしかに暁幸なら、ライブチケットをサバくのも楽勝そうだ。

 彼女と取り巻き連中もあれだけいるんだから、声を掛けて売り出して終わりだ。


「チケットノルマの多さに少し驚かされたが、うちの檀家と旅館関係にもそういうのが好きでよく話をする知り合いがけっこういるのでな。1人あたり12から13枚か。うむ、任されたチケット枚数分なら、こちらもなんとかなるだろう」


 おお、宗介も意外に顔が広く交友関係もよさそうだ。

 頼もしい限りだし、これならチケットをサバけるだろう。


「うわぁ~、2人とも頼もしいなぁ。あ……じゃあ、当てがないのは僕たちだけだね。バンドで50枚だから相当きついも思うんだけど、ある意味、困難な逆境を(くつがえ)せる力を付けれるからいい機会かもしれない」


 ケンは未来に絶望したかのように心細く言う。

 たしかに逆境を覆すにはいい機会だが、これは序盤にでは難関の壁だろう。

 それに俺とケンも、ライブやバンド、ましてやパンクロックに近い音楽が好きな知り合いってのがあんまりいないからな。


 俺は1人で路上ライブもしていたし、ここは1度昔の形式も取り入れるか。

 また洋楽のカバーとオリジナルなどを披露して挑戦してみるのもいい機会だ。

 1度夢を諦めた人間がどん底から這い上がって演奏()る底時から、見せてやる。


「――俺は、絶対に有名になる。コンテストでも優勝して、夢を叶えてやるっ」


 とだけ呟いたのは、ケンはおろか稔たちにも聞こえはしなかった。





ご愛読まことにありがとうございます!

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