101曲目
身体を鍛え、技術を磨き、独創的を育てる。
若い頃にしか出来ない。未知なる人生論。
喫茶店内にかくある拍手と口笛が飛び交う中、俺は椅子へと戻る。
マスターも俺にサムズアップし笑顔で応え、どうやら許されたようだ。
俺が皆のとこへと近づき椅子に座ると、暁幸に頭を掴まれわしわしされる。
「お前、よくあんなオリジナル曲を作りやがったな。中々、いや、めっちゃいい歌詞だったぜ。アコギの弾き方もエレキっぽいフレーズも多かったしな。俺から評価がでるとかいい方だぜ? つーか、なんであんな弾き語りでパフォーマンスもできるってのに、バンドではあんな下手くそになるんだよ?」
いつまで経っても上から目線で腹が立つが、俺はいま気分がいいから止めよう。
稔もケンも宗介も、独創的楽曲の出来を褒めてる中、結理が訝し気な顔を出す。
「はぁ……本当に、ソロとして弾き語りをするアンタの力はよくわからないわ。あんなに人のことを想って歌が歌えるんなら、一々反応して威嚇したりケンカを売ったりしないでよね。ったく、そんなよくわからない情緒だから稔にも冗談紛いの告白を断られたり嫌われたりするのよ」
ソロだと上手いのにバンドだとド下手、まさしく事変だ。
的確に図星を突かれて、思わず俺はうろたえて口ごもる。
理由となる思い当たりが多すぎて、言い返せる言葉も制限される。
「うっ……だ、大丈夫だし! いつか絶対振り向かせて見せるさ!」
「むっ? では、今嫌われているというのは、お前自身認めるということだな?」
「ははっ、陽ちゃんはなにしろ、稔ちゃんには半径から2から3メートル以内に近寄れないし体を触ったりするのも禁止っていう鉄則ルールがあるからね」
意気込む俺を見てるケンが、俺と稔との間にできた規則を口にする。
「半径から2から3メートル?」
「体に触れられないって……なんだそりゃ?」
奇妙なルールを聞かされた暁幸と宗介は思わず頭の中に"クエスチョンマーク"を浮かばせ、事情を知らない2人が不思議そうな顔をしている。
俺の顔を見てくるが、まあわざわざ恥と後悔と屈辱を説明する必要もない。
失敗の経験を得た俺は喫茶店で最高のひと時を送るお客さんに手を上げて、"ちょっと大声を出しますけどすんません!"と断りを入れてから挙げた手ともう片方の手を合わせ、急激に圧縮された空気が隙間を通って空気が外に出た瞬間に、ソレが急激に広がって振動が伝わる音が出る。
「いいんだ! ソロとバンドとの違いが大きくても、目の間に絶対飛び越せない壁が立ちふさがっても、思いっきりブチかまして壊せばいいんだ! しがらみもわだかまりも全部、俺の色と音楽で塗り潰せばいいんだ! 本番のライブでバンドの中のてっぺん取って、絶対稔を俺のカッコよさと生き様のすごさに気づかせて、好きだって振り向かせて見せるっての! そのためにも、今度のライブはガツンと決めて勢いと熱気を滾らせて、精一杯俺たちにできる演奏をするんだからな! お前ら、わかったか!?」
雄々しく宣言する言葉を訊いて常連のお客さんやバンドマンからも拍手される。
見た目と言動は怖いけど音楽で本気の心をもちいて人々を楽しませる、エンターテイメントなパフォーマンスをするんだなと思い込んだ初来店のお客さん方も、同じく"頑張れ"という気持ちを込めた拍手を送る。
気の優しいお客さんはそのまま"ライブにも行くよ"などと声を掛けてくれる。
バンドで演奏ってく活動方針はいいが、理由は完全に自意識過剰だろう。
そのせいか、俺以外のメンバーの想いも、元からだがバラバラで協調性が無い。
「おいおい、お前の抱く恋心のためにバンドをやるのかよ?」
「やれやれ……陽太はバンドを私物化しているとこが多いな」
「なにを言う。だって俺が中心でできたソルズロックバンドだぞ!」
「よくもまあいつもそう大口ばっかり叩いては空元気な自信を出すわねぇ」
ソロの俺とは見方も接し方もぜんぜん違う、熱い手の平返しだ。
なぜこうも俺の熱意や決意、それに思い描く夢の目標はみんなに届かないのか?
好きな女に歌を届けたいと願い、両想いになりたいと、思っては如何のか!
しかし、さっきからギャーギャーとゴチャゴチャうるさい連中だ。
俺のことをおかしな人を見る目で見ては反感を問う、日常茶飯事だ。
まあいい、そういった執着めいた反論も稔が俺のことを好きにさせるのも、今度のライブのステージに立っては俺のカッコいいリードギター&メインヴォーカルでいいとこを見せてやれば大人しくなるだろうし、俺と稔との甘い未来も待ち受けているのだろう。
俺が心中でそう考えると訝し気な顔を止めた結理が今度は心配し出す。
「でもさ、アンタらライブ出演するのってライブハウスなんでしょ。アタシとしては無謀だと思うけど、言っても仕方ないしね~。それにライブハウスに出演するとなると、ライブチケット全部買取でしょ? チケットノルマ、全部サバけるわけ? 人徳とか演奏の腕とかがないとしんどいと思うわよ」
チケットノルマ、バンドの序盤である壁となり思わず俺たちは黙り込む。
白神郷でも他の地域でもそうだがライブハウスでのライブのチケットは、基本出演バンドやデュエットやソロシンガーソングライターの全部買い取りだ。
チケットをサバけたその売り上げが俺らの取り分になる。
つまり逆の発想で考えるとなると簡単な話なのだが、もしライブのチケットが売れ残った場合、そのライブチケット分の金額は、俺たちバンドマンや出演する人々が自分で負担しなければならない。
だからこそ、学生やら社会人のバンドやら夢を追い続けているミュージシャンたちは血眼になって売り出し路上ライブをしたり、バイト先や会社に友人たちなどに頼み込んだりしてチケットノルマ以上の売り上げを頑張っているのだ。
まったく、なにかしら"金金金"と先に言えば音楽は二の次と、バンドマンとしてこの世の中はほんと世知辛いよな。
この夏休みに入ってから晴れてバンドマンとして活動でき、同じ悩みと辛さを共感する俺は、何気なく天井を仰ぐ。
ご愛読まことにありがとうございます!
ブックマークや感想など、宜しくお願いします!




