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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
100/271

99曲目

ライブバーでの生アコギで弾き語りライブ。

シンガーソングライターには御用達な場所。

 女にフラれたウチのベーシストが突っ伏してピクピク動いている。

 俺がなんか生暖かい目を向けていることに結理は呆然としている。

 そりゃそうだ、今俺はコイツに向けてる目は人外に向ける目だからな。


「ちょ、ちょっと陽太。その変な目を向けるの止めなさいよね!? はぁ……まったくアンタらも面白くない話で盛り上がるモノよね~っ。男子や女子にフッたのフラれたのって、大げさよねぇ。別に命がなくなるわけでもないのに、そこまで深刻な悩みとかでもないでしょうに」


 当の結理は俺の視線を止めさせた後、まったく意に介していない様子だ。

 異性から、ルックスがいいヤツの告白されたってのに、この動じなさはどうだ。

 男女が異性に恋するという情緒が不安定で、欠陥しているんじゃないだろうか。


 確かにコイツは男にもモテるがこの性格からか女からも信頼が厚い。

 勉強などは空っきしな方だが、姉御肌と言うのか? 頼られ感がすごいのだ。

 たいがいの男が告白しても"ナヨナヨ"とか"グチグチ"とかでバッサリだろうし。


「ま、大好きな彼女がいるにもかかわらず、暁幸の底知れぬ女好き症候群はとりあえず放置安定だな。なあ、そういえば、結理の浮いた話って俺ぜんぜん聞いたことがないんだよな。たいてい聞くのは"ベース"のことか"二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)"のことか、あとは今流行のアイスとかスイーツくらいか。ぜんぜん男と付き合いたいとか言わないけど、お前まさかレズじゃないだろうな?」

「はーっ? なぁにその言い草は? しょうがないじゃない、釣り合うような男を探すつもりもないし、私は今バンドのことで色々と考えなきゃいけないことがたっくさんあってそれどころじゃないわよ。あと、アタシがレズだったら、とっくに稔に手を出して既成事実を作ってるわよ」


 何気なく、あっさりと爆撃発言を出す。

 あまりにも自然すぎて聞き流すレベルだ。


「へぇー……えっ?」

「んなっ……!?」


 一瞬俺の身が凍りつき、鳥肌が立ち、思わず絶句してしまう。

 その瞬間、俺の脳裏には稔と結理とのいけない絵面と艶めかしくヤバいセリフやその先の展開まで鮮明に描き浮かびそうになって、慌ててその百合的な展開を繰り広げるソイツを力の限り振り払った。


「ふっ……ふふふ、ふっざけんなっ!? おいテメェゴラッ! ま、ままままさか稔に、えええエロいこととかしてないだろうな!? もしシてるって言ってみろ。いくら性格がひん曲がって悪いヤツでも女だと思って手を出さなかったが、俺の拳が真っ赤に燃えてお前の顔面に幻の右ストレートをぶっ放すっ!」


 俺の顔がみるみる内に真っ赤になり、猛烈に意見を申し立てる。

 もちろん俺も男だし女に手を出すような真似はしたくないが、致し方ない。

 片思いとはいえ、俺の大事な稔をそんな如何(いかが)わしい趣味にさせるか!


「あ、陽ちゃん、顔が真っ赤になってるよ?」

「違うわ! 赤くなってない! 熱気が3倍になってるわけない!」


 ケンに正論を突きつけられて俺は思わずわけわからないことを言い出す。

 こちらから出したカードで思わず手痛い目にあってると、室内が暑いのか両手で顔もとをパタパタと仰いでいる稔がキョロキョロと恥ずかしそうな感じのジト目でこちらを向き、ほんのり頬を赤らめている。


「もう、なってるよぉっ! 熱川君。ヘンな妄想とかしないでよね?」

「フンッ! 陽太、アンタが最初に言ってきたことをただアタシは返しただけなの。それにそんなに顔真っ赤にして怒るくらいだったら、人のことを考えもせずに気安くレズだなんて誹謗中傷をするのはよしなさいよね。アンタ、こんなこと見知らぬ女性に言ってみなさい。二つ返事でビンタ飛んで来るわよ」

「クソッ、ガッデムッ! ファッ〇ン! ハッ、うっせー黙れ、この性悪女め」

「ね、ねえ2人共、あんまりおじさんのお店で騒がないでよ~っ。それに声も大きいし言動も危ないから、周りのお客さんに迷惑だよ」


 見ると、喫茶店内の窓側に位置するテーブルにいた女子大生っぽい女の4人連れが、騒がしく喚きたててるこっちを横目で見たりガン見したりしてはヒソヒソ話していた。

 睨みつけて威嚇して黙らせてやろうと試みると、カウンターからニコニコした笑顔で見ているマスターが"待ってました!"と言わんばかりに浮かれており、なにやらカウンターのテーブルに喫茶店とは違うメニュー表を取り出した。

 俺はそれに見覚えがあり、ウッとたじろいではうろたえる。


 俺がそのことについて謝ろうとしたが、時すでに遅し。

 マスターはカウンター越しから女子大生4人連れに視線を向ける。

 彼女たちもダンディーな視線に気づくと、彼はまた執事みたいにお辞儀する。


「淑女のお客様がた、こちらは私の娘の友人でしてね。少しばかり嫌なお気持ちにさせてしまったこと、マスターである私から心よりお詫び申し上げます。そんなお気持ちのしるしといたしまして、こちら、本店のオリジナルブレンドのコーヒーになりますが、料金に反映させませんのでご安心ください。稔、悪いんだけどお客様の方へと持ってってくれるかな?」

「う、うん。わかったよお父さん」


 稔は椅子から立ち上がり、カウンターの上に置かれた父特性オリジナルブレンド入りのティーポッドを手に取り、彼女たちの方を振り返ってはそのままトコトコと窓側のテーブルまで小走りで向かう。

 女子大生4人はなにがなんだかわからないといった表情を浮かべている。

 しかし稔が持って来たオリジナルブレンドのコーヒーのティーポッドで空になっているカップに注がれ、香ばしくそれでいて少し甘みを感じさせる香りが漂い鼻をくすぐられ、さらに無料だということにすっかりイヤな気持ちを無くしていた。


 そう、俺だってここまでなら俺も文句は無いしいいことだ。

 俺はカウンター越しにいるマスターの方を見ると、まるで招待してあげようと言わんばかりの笑みと人差し指である方向を差しておりそちらを向くと、有名な音楽人などの記念写真などが飾られている壁の近くに喫茶店の装飾品として飾られているアコースティックギターがギタースタンドに立て掛けてある。


 その近くにはご丁寧に譜面台とギタイスもあり、弾き語りに最適だ。

 なにかを悟った俺はマスターの方へと視線をゆっくり戻し、重々しい口を開く。


「…………あの、マスター。マジですか」

「うん。マジじゃなきゃ、こんなことはしないよ?」


 俺とマスターの短い発言が静まり返る中、彼はまたお客さんたちに向き直る。

 今度はマジックショーを始めようとするマジシャンのような振る舞いをだす。

 俺たちや常連であるお客さんたち以外、もちろんこのことをよく知らないでキョトンとして頭の中に"クエスチョンマーク"を出している暁幸と宗介に、初来店であろう周りのお客さんたちも何事かとマスターに注目する。


 俺は観念したように椅子から立ち上がり、案内された位置に行き準備する。

 そんな最中で稔とケンは"頑張ってね"といった言葉を短く答え、結理は"ざまぁみろ"と捨て台詞を吐いてからマスターのとこへと向かい、彼から喫茶店のメニュー表と似ているが少し印象が違うメニュー表を手に取って、そのまま周りで優雅なひと時を満喫するお客さんやら暁幸と宗介のとこへとソレらを手渡すと喫茶店の窓すべてのカーテンを閉めにとりかかる。


「心地よい夏の陽射しと流麗たる音楽との調和、コーヒーと軽食で彩られた気持ちの良い食事をしに来てくださったご来店のお客様。今日も喫茶店兼楽器スタジオ『エテジラソーレ』にご来店していただき、誠にありがとうございます。今日はそんな紳士淑女の皆様に、心と体にも、夏の太陽のようなエネルギーを貰っていただければと思います。さて、それではそんな楽しみを与えてくれる子をご紹介いたしましょう……熱い太陽の様に輝こうとする音楽の探究人、熱川陽太(にえかわようた)君です」


 マスターが綺麗に指パッチンを鳴らすと、同時に俺の上にあるライトが点く。

 本当にマジックのようで暁幸らは驚き、お客さんらも"おおっ"と声を漏らす。

 瞬間、常連であるお客さんたちが一斉に拍手をし出すと、それに感化された初来店のお客さんたちや未だに状況がよくわかってない暁幸と宗介も同じく拍手をし出し、異様なメニュー表を手渡し終わった3人も先ほどまで座っていた椅子へと戻っては腰かける。


 マスターも嬉しそうにこちらを見ては拍手をしている。

 この人は……優しそうに見えてけっこうえげつないよな。


「……えっと、どうも、陽太って言います。今からちょっとしたアコギ生ライブを、コーヒーと軽食で優雅なひと時を満喫しているお客さんたちに届けましょう。みなさん、お手元のメニュー表からどうぞ。楽曲の雰囲気をお選びくださいませ」


 そう、これはマスター公認の喫茶店で行われるアコギ生ライブである。

 俺は小学高学年以降から世話になり、今では慣れた口調でそう言い出す。

 チューニングも滞りなく終わらせた俺は、ただリクエストを待つのみだった。




ご愛読まことにありがとうございます!

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