Prologue
薄暗い建物の中で、光と闇が交差し点滅していく。
弦の音が弾かれ終わり、打楽器のシメによって音が消える。
煌びやかなスポットライトが消えても、割れるような歓声が轟く。
けたたましい爆音がスピーカーから流れた後、ステージを照らす照明が消え、バンドはステージから悠々と観客席に向けて投げキッスや手を振りながら嬉しそうに降りて行った。
それでもまだ観客席でそのバンドのファンであろう女子供がキャーキャーと黄色い声を上げて狂う様に叫んでいる。ちなみに俺もやかましく叫んでいるそいつらと同年代なので女子供みたいなものだ。
観客で激しいロックを聴かされ全身に刻まれたビートにより火が点いたのか、女子供と同じく男子供もワーワーと叫び最高だとかイカしてるだとかの声援を送っている。
ライブハウスの中はすでに爆音状態で観客とバンドで一体化している。
それはそれで素晴らしいことだ、なにもおかしいとこはない。
音作り、ステージ映えも魅せ方も、どこも目に余るとこはない。
けれど、俺はなにか間違いじゃないかと心の底から思っていた。
今ステージ上で激しいパフォーマンスと共に楽器を掻き鳴らしたり叩いたりして演奏していたのは、【THE:ONHAND】と言う最近巷で名前が挙げられており、演奏面が讃えられかなり人気が出ているポップロック系の四人バンドだ。
名前の由来は聞いたことがない。もしかしたらカッコいい単語を並べて『これで良いんじゃね?』と軽々しく決めただけでバンド名の意味なんて無いのかもしれない。しかし無名から一気に巷で名前が上がるほど人気を出し始めてまさに旭日昇天の勢いで成り上がった人気バンドの一つ、と俺は風の噂で聞いている。
ライブステージに立ってのその演奏と激しいパフォーマンスでステージを熱気と心躍に空間を包み込む【THE:ONHAND】の評判は伊達じゃなく、演奏が終わりそいつらが去った後の無人になったライブステージでさえ、超満員の観客からは絶え間なく惜しまない拍手喝采と歓声が送られていたが、きっとステージ裏でそいつらもその二つを聞いて、サムズアップしているだろう。
後ろからもそうだが特に尋常じゃない前の方は女の子のファンが我先にともみ合うように詰めかけていて、絶叫マシーンに乗った時や肝試しなどでお化けにでも会ったかのように上げる悲鳴みたいな黄色い声々は、両耳の鼓膜を激しく刺激しており"うるせぇ"としか思えない。
俺はその活気に満ち溢れ笑顔と称賛をする姿勢が見受けられる光景を、ライブハウス内にある観客席の一番後ろから、どこか遠くの外国内で行われている戦争やら核実験やらを報道するニュースとかを見ているみたいな気持ちでつまらなそうに眺めていた。
「へぇ~、今のそんなに凄いのか? なにがそんなに良かったんだ?」
それが俺にはさっぱりわからず、興味も湧かなかった。
演奏もパフォーマンスも確かに悪くは無かったし、大盛り上がりだ。
それでもあんなに黄色い声でキャーキャー騒ぐほどのもんだったのか?
……とか平然とした態度で言うと先輩に怒鳴られぶん殴られそうだがな。
"てめぇにロックのなにがわかるんだよ!" とか言いながら説教されそうだ。
実は今演奏していたロックバンドは、俺が昔つるんでいた先輩のバンドなのだ。
中学の時"とある事情"で荒れていた俺にも風当たりよく接してくれそのまま流れで仲良くなった先輩がバンドを組んで、一ヶ月に数回とライブ活動などをしていったらそれがずいぶん反響があり評判がいいと言ったので、スマホの連絡帳から先輩の名前を押し着信しバンドや音楽などの世間話をしがてら連絡してみたら、今日行われるロック系のライブに招待してくれたのだ。
先輩が組んだバンドは主にロックコードなどを掻き鳴らし歌うパンク系の曲調が多いのは知っていたが、今回演奏してくれた楽曲のほとんどが聴きやすいさわやかな曲ばかりで、俗にいうポップパンクというジャンルだろうか?
興味が薄れてしまった俺にはそんなこと別にどうでも良かったが、とにかく先輩たちが演奏していた曲は大体が軽快ながらもラフな曲ばっかりだった。
演奏自体は、考えていたよりも完成度が高くイケていた。
楽器を演奏する他のメンバーもかなりライブ経験を積んでいるのかステージにも観客の煽りにも慣れてる感じで、ステージ上でなにをするにしてもそれなりの絵になっておりバンドマンを象徴していた。
中学高学年だった頃の先輩はもともとスラッとした顔立ちで体つきもスポーツマンとは違う引き締まった筋肉をしていたが、ライブステージ上ではスプレーなどで固めたロック系を漂わせる髪型とライブ衣装のせいでずいぶん垢抜けて映った。
【THE:ONHAND】の他バンドメンバーもみなロック衣装を身にまとっているがさわやかな容姿の持ち主で、世間一般的に言うとイケメンってタイプの顔立ちにスタイルだろう。
よくもまぁ、メンバー集めから始めたにしてはこんなにイケメン揃いで割かし演奏センスも良い奴らを揃えたもんだよな、世間って俺が考えているより狭いんじゃねえの?
俺はつまらなそうにまたライブハウス内の会場を見渡すと会場にはやたらと女の子や女の人のファンが多いけど、確かにこれならその理由も納得してうなずける。
けれども……本当に。
「はっ! だからなんだってんだよそれがよぉっ……どれもこれも保身的に考えて演奏してて、すっげぇつまんねぇ」
ああ、そうだ。そんなもんが一体全体なんだっていうんだ?
週刊雑誌にも取り上げられる見た目をしたイケメンメンバーで若い女の子や容姿の良い女の人が集められてそれなりにライブが映えるステージが納得がいくレベルでできたからってなんなんだ?
なぁ、俺が好きだったロックってこんなレベルか?
俺が手にしたかったバンドってこんなに薄っぺらい感じなのか?
……俺の目指していたロックって、これが正解なのかよっ?
そりゃ、普段パンクロックやグランジロックしか聴かない俺がこういうポップパンクやちょっとかじった程度のパンクロックを入れたジャンルをあんま聴かないのは確かなんだけど、別に俺はそのジャンルが"聴くに堪えない"とか言う程に嫌いってわけじゃない。
一つの音楽ジャンルばかり聴いてるから耳が肥えていないんだってはっきり言われたらそれまでだけど、俺はどうもこういったモノはピンと来ない。
……ああ、今俺、嘘吐いたわ。前言撤回だ。
正直に言って、こんなのクソッタレな出来損ないの演奏だ。
それも吐き気を催す極悪どころじゃなく、最悪のひと時を味わった。
簡潔にまとめれば、大事な時間を割いてまで聴きに来るんじゃなかった。
そんな体たらくでぜんぜん心にグッと来ない堕落の演奏だった。
あんなんで世間にチヤホヤされるとか、マジでありえねーわ。
「はぁ~あ、まいったなぁ。今からどうすっか……帰ろっかな」
俺は頭に手をやってぶっきらぼうに掻き面倒そうに考え込む。
実は先輩からはライブが終わった後で俺たちのいる楽屋に来いと言われている。きっと会えばライブの出来やら演奏の感想を訊かれるのであろう。だが、こんなワクワクもしない演奏を聴かされて激しく燃え盛る炎を冷たい水で消されたような気持ちで一体どんな感想を言えばいいのか俺にはさっぱり見当も付かない。
『うっす先輩! 一応ステージ見てましたけど、なんかライブもパフォーマンスも煽りも曲調も何から何まですっげぇファッ〇ンでしたね! アレはある意味尊敬するッスよ!』
……って、雲一つない満面な笑みで裏表なく言ったら、仲の良い先輩は冗談とか思って大いに笑いながらも感想を受け止めてくれるのだろうか?
ガンジーレベルの心の広さがあればイケるだろうが、どうなんだ?
そりゃ俺だってまさか、腐り切った真実を突きつけられて"好きな音楽"と疎遠気味になって落ちぶれていた自分に相談に乗ってくれたりかわいがってくれた先輩にケンカをふっかけたいわけじゃないんだ。
今日のロック系ライブだって、せっかくの厚意で特別に誘ってくれたんだ。
俺だってそれぐらいの礼儀と心得、人情は弁えている。
先輩は基本的に人当たりが良く面倒見も良いし気心優しい人だ。
決して悪い人じゃないし、話もしやすい。
「……チッ、だっせぇ曲を弾いて歌いやがって。クソ、あーめんどくせーぜっ」
俺は馬鹿うるさいライブ会場の中、舌打ちをし悪態を吐く。
仕方がない、軽く挨拶だけして言葉少なにさっさと帰ろう。
俺は煮えたぎる怠惰とつまらない演奏を聴かされてすっかり重い気持ちのまま、次に演奏しに出てくるバンドのセッティングをしているライブ会場を後にした。
注意事項1
『創作』が3割で『真実』が7割。
連載物の現代音楽系小説となっております。
投稿はなるべく毎日18時以降に投降するよう心がけます。
注意事項2
とあるラノベ作家に憧れて書き始めました。
完結できるように努力していきます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。