苦戦
皇は学園敷地の端にある、湖のほとりに佇んでいた。とうに日は落ち、刺す様な寒さが立ち込めている。目の前にある湖はさながら、犠牲者を引きずり込む底無し沼の様相を呈していた。
「…うぅ~、さみぃ。ちっと運動でもするかっ」
皇は湖に身震いすると、屈伸を始めた。
「ほっ、よいっ」
…傍から見たら間抜けだな、と思うが誰もいる訳が無いので気にしない。
そんな時だった。
ガサッ
皇はそちらを見ると身構える。…そこには革ジャンを着た屈強そうな男が立っていた。この暗闇であろう事か黒いサングラスをかけている。異様な空気に一瞬気圧されたが、皇は構え直す。
「よぉ…んじゃ、サッサと始めようぜ?」
ギリリ…と皇が拳を握り締めた直後だった。
いきなりサングラスの男がその体躯に似合わない速度で突進してきたのだ!
「うおッ!?」
皇は一条にラリアットの要領で首にかけられた手により地面へと引き倒される!次撃が来る事に身を固くした。…が、衝撃は来なかった。
一条はそのまま距離を取ると、そのまま立ち止まる。
「余裕しゃくしゃくってか。へっ!今度はこっちから行くぜぇ!」
皇は立ち上がりつつクラウチングスタートの姿勢から、一気に一条へと突進!渾身の一撃を繰り出す。
…!?
皇のボディブロウは的確に一条を捉えていた。
…手応えがおかしい。まるで鋼鉄を殴っている様だ。人を殴った時のあの嫌な感覚とは違う。
プロテクターでも着けているのか、と思った瞬間に世界が反転した。
「ガッッ…ハ!」
背中から投げ落とされた皇は空気を求めて喘ぐ。一条は追撃せず一定の距離を取ったままだ。
皇が体制を立て直し立ち上がる。
「ナメやがってぇぇ!」
今度は顔面を狙っていた。だが拳は空を切る。そこへ丸太が転がってきた様な足払い。無様に転がる。
「…ってえ…なッ!?」
今度は追撃があった。プレスの様なストンピングを躱すと再び立ち上がる。
…畜生…強い…。布津よぉ、後頼むかも…。
ポチャンッ
その時、湖から何かが跳ねる音。一条が一瞬気を取られたのを皇は見逃さなかった。
「隙有りィィ!!」
一気に距離を詰め、狙いすました徹甲弾の様な一撃が一条の顔面を振り抜いた。




