誰彼
たそがれ時の事を、『誰そ彼』と言ったのは誰だったか。
日が暮れていく。皇は学園の屋上に一人、佇んでいた。下界を見下ろす。…丁度最終の学園バスが走り去って行く所だった。
「寒いな…」
しかし応える者は居ない。皇は風にたなびくマフラーを結び直すと、屋上階段へ続く扉へ向かって行った。
…ザザッ。
草むらを掻き分け歩く音。布津は歩きながら煙草を咥えた。立ち止まり火を着ける。
―…フゥゥー…
紫煙を吐く。任務前の日課のようなものだった。ニコチンが体内を巡る。頃合を見て火を消した。
布津の左手には黒い棒の様な物があった。
―――刀だ。
布津はその刀を、重さを確かめるように握る。
柄を下に向け脇に抱え直すと目の前に佇む学園に目を向けた。
夕闇に浮かぶその姿は、さながら牙城の様だった。
冷えた空気が、身を切り刻む。ふと、懐中時計を取り出し時を確認する。まだ早い。
音も無く布津は歩みを再会した。夜の帳はほぼ下りつつあった。
――裏門に再度人影。神崎と一条だ。
「そろそろだな…一条?お前そんなものを持って行くのか?止めとけ」
一条はどこから調達してきたのか、ショットガンを持っていた。一瞬考える素振りを見せたが、直ぐに草むらに投げ捨てた。
神崎はそんな所に捨てて良いのか…と思ったが、直ぐに余計な思考を捨てた。この暗さだ。誰も気が付くまい。
「行くぞ。ターゲットは甲と乙の二人だけだ。お前は乙を狩ってくれ」
一条はうなずくと、坂を下っていった。
「さて、狩りの時間だ…」
神崎は反対の坂を登って歩き出した。




