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偽りの仮面、沈痛の少女

作者: 六条菜々子

 まだ高校生の時、私は我慢が出来なくなった。

 あまりこういう言葉は使いたくないけれど、『無理』と言ってしまった。それを偶然聞かれてしまった。決して誰かに言うつもりはなかった。そんなことの為に独り言をつぶやいたわけじゃない。でも、このまま胸の中に留めておくことも出来ないと分かってしまった。

 そうでもしないと、本当に自分が壊れそうだった。


 彼は、私に優しい言葉をかけてくれた。私の存在を了解してくれた。しかし、私はそれを否定した。自分が自分を否定していた。気持ちが悪かった。

 口に出し、外に吐き出すことで、今度は違和感を覚えていた。これは何だろう。まるで新しい発見をしたかのようなものだった。それは、自分が自分ではなくなったような感覚だった。

 そんな私とは反対に、彼は静かに座っていた。その表情は、何かを悟ったかのようだった。

 彼は私に尋ねた。辛いのか、と。私は辛くないといった。彼は微笑んだ。

 卑怯だと感じた。こいつは卑怯だ。私の心に入ってくるような気がした。まるで静かにゆっくりと流れていく水滴のような感じであった。音もたてずに彼は私の心に近づいてくるのである。

 何も話していないのに、彼は私を否定してくれなかった。そして、気付いてしまった。私は自分を否定しているのではなく、拒絶しているのだと。私と私の心はつながっているはずなのに、まるで他人同士が無理に肩を寄せ合っているような感覚だった。

 途端に苦しくなった。呼吸がしんどくなった。それは本当に起きているわけではなく、いわば心の呼吸がしづらい状況なのである。まるで胸を締め付けられているようなものだった。

 彼は私の心を読んでいるような感じだった。『無理』と聞かれてしまったけれど、何故そう言ったのかを聞いては来なかった。それゆえに彼はもう気づいているのではないかと思うようになった。

 そして彼は私の方を向き、なぜそんなに苦しそうなんだ? と言った。私はそれに対しての回答を持ち合わせてはいなかった。

 なぜ私は苦しいのか。なぜ彼は私に興味を示しているのか。なぜこんな質問をしたのか。私の頭の中は『なぜ』で埋まっていった。疑問は疑問につながり、それに対しての答えは存在しなかった。


 『私とは一体なんであろうか』


 私の心は平穏を望んだ。私の頭は変化を求めた。たったそれだけのことなのである。相反する二つの考えが、私を蝕んだ。そして引き裂いてしまったのだ。


 『心と体はつながっていないのだろうか』

 『心とは一体なんであろうか』


「あなたは自分が怖いのですね」

 彼は微笑みながらそう言った。自分が怖いというのはどういうことだろう。確かに毎日いろいろなことを無意識に考えてしまう自分が恐ろしいと思うことはある。考えなくてもいいことを考えてしまう。こう言いかえることも出来る。

 ここで私は疑念が確信に変わった。彼は私の心を読んでいると。しかし、心とはなんだろうか。

 ただ一つ言えることがあった。今の私は心が苦しいのである。

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