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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第二章 シナーラ
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95 パフォーマンス

 『さあ!始まりました。今年の最大イベント卒業トーナメント!』


 今日は、卒業トーナメント初日。俺たちは、チームに与えられた控室で試合の準備をしている。


 開会式は、学園長やほかの魔術師協会のお偉いさんが挨拶をして終わった。


 俺たちはその後すぐに試合があったのですぐにこの控室に入った。


 「椎名、緊張してる?」


 楓が俺の顔を覗き込んできた。


 「してないよ。むしろ、暴れたくてうずうずしてる。」


 俺がそう返すと、楓はにんまりと笑って俺の頭の手を置く。


 「分かった。でも、一回戦は戦っちゃだめだよ。」


 楓はそのまま俺の頭をなで始める。


 「ちょ!やめろよ!俺は子供じゃないぞ!」


 そう、この二年間、俺の身長が劇的に伸びることはなく、下手をしたらまだ小学生と間違われるほどの身長しかない。


 「入場お願いしまーす。」


 俺たちが戯れていると、係の人が俺たちの控室を訪れ、準備をするように指示する。


 「はい。」


 俺は一応リーダーなので、返事をして部屋を出る。


 俺達が会場へ向かう途中、案内の係の女性が口を開いた。


 「この試合、相手はあの一条家の次男です。負けても、気落ちしないでください。相手が悪かっただけなんですから。」


 それは、俺達が負けることを前提とした言葉だった。


 「確かに・・・。」


 俺は冷静に係の女性の言葉を肯定する。


 「相手が悪いですね。」


 俺はそう言って、不敵に笑った。


 もちろん、この相手が悪いというのは、一条のチームに向けたものだ。


 「ま、見ててくださいよ。」


 俺は到着した会場への入り口で振り返ると、女性に向かってほほ笑む。


 「今からあなたが見るのは、ただの試合じゃあない。」


 俺は女性に背を向け、会場に足を踏み入れる。


 「革命だ。」



 『それでは早速選手の解説です!』


 会場に愉快な実況の声が響く。


 『まずはこの人!第五チームのリーダーにしてあの一条家の次男!錫杖を使った陰陽術において右に出る者はいないと言われている天才!一条雅也!』


 相手チームのいかにも陰陽師と言った金の錫杖を持っていた男が錫杖を持った右腕を掲げる。


 『続いて・・・・・。』


 その後相手チームの説明が終わると、俺達のチームの解説になった。


 『砲術における魔弾の変換効率、発動速度共に天才級!しかしその性格のため実践では全く使い物にならない正にお荷物!佐村紫音!』


 俺たちのチームの解説には、明らかに悪意が宿っている。しかし、俺達にその解説は、滑稽にしか聞こえない。


 紫音は俺が与えた覇王の弓を取り出し、ガンスピンを始める。それはガンスピンというにはあまりにも美しく、バトンを操るようだった。そのパフォーマンスに、ほとんどすべての観客は見入ってしまった。


 『つ、続いて魔術の知識は研究者をも凌ぐ!しかし発動させることができない欠陥品!神藤楓!』


 楓は無言で俺が渡した杖--特に名前はなかったが、楓は『エファナスタシー』と名付けたそうだ。--を構え、それに魔力を込める。


 すると、楓が頭の中で思い浮かべた魔方陣が具現化する。今彼女が回思い浮かべたのは・・・・。


 『深紅の・・・・、薔薇?」


 そう、バラの花びら一枚一枚を魔方陣とした装飾用の魔法、薔薇庭園ローズガーデンだ。この魔法は、ただ薔薇の幻覚を見せるだけの魔法だが、それはこの紹介の場面で使うには最適の魔法と言えるだろう。


 『つ、次は圧倒的な魔力量!しかし発動される陰陽術は吹けば消えてしまうほどひ弱!落ちこぼれ中の落ちこぼれ!夢宮スミレ!』


 スミレはにっこり笑うと四枚の札を取り出す。そしておもむろに会場に落ちていた石を拾うと、それを宙に放る。


 「加速之護符!」


 スミレが一枚目の札の能力を発動させる。すると、ゆっくり宙を舞っていた石は加速を始める。


 「吸魔之護符!」


 スミレは二枚目の札を使って、石に何かを付与する。


 「放魔之護符!」


 三枚目の札を使うと、スミレから魔力があふれ出す。しかしその魔力は石に吸い込まれていく。これは二枚目の札の効果だ。


 「最後!散魔之護符!」


 スミレが最後の札を使うと、石に吸収されていた魔力が全て爆発したかのように散っていく。しかもその魔力はそれぞれの属性の色をしていたため、正に花火のように空中を駆け巡った。


 『さ、最後にこのチームのリーダー!入学早々にまぐれで三条の長男を打ち破った運のいい男!繭澄椎名!』


 紫音達のパフォーマンスがあまりにも衝撃的だったのか、解説の声は若干震えている。


 俺は一歩前に出ると、優雅に一礼する。この礼はレムナットにいた時に覚えた魔族流の臣下の礼だ。


 俺が礼をすると、後ろの空間が上下に分かれる。そして、そこから武軍のすべてが顔を出す。その数は千。一見すると少ないように見えるが、その一人一人がありえないほどの魔力を放出しており、圧倒的な存在感を与えている。


 武軍の兵士たちは綺麗に整列をする。


 「「「「「我らは剣なり!」」」」」


 整列が終わると、武兵たちは声をそろえて合唱する。


 「「「「「我が主が作りし剣なり!」」」」」


 武兵たちの合唱はなおも続く。


 「「「「「ゆえに我々は・・・・・。」」」」」


 武兵たちはそこでいったん言葉を止める。


 「「「「「我らが主のか障害を悉く打破しよう!」」」」」


 武兵が自身の武器を掲げながら言い放った。


 「「「「「いつか来る!」」」」」


 しかし、彼らの合唱はまだ終わっていなかった。


 「「「「「我らが主とその仲間が揃うその時まで!」」」」」


 それは、俺がもう考えるのをやめいていたこと。もうあきらめていたことだ。しかし、彼らは諦めていなかったらしい。すべては俺のためにそのためだけに俺の仲間・・・・・。ルキ、レナ、カミール。この三人に合わせると宣言したのだ。


 「ありがとよ。」


 俺はそう言って武軍を収納に戻す。


 「さあ、始めようぜ。」


 あっけにとられている会場全体に響く声で俺はそう言い放つのだった。

ちなみに、エファナスタシーはギリシャ語で革命という意味です。


本当は違う発音かもしれませんが、自分にはそう聞こえたのでこの名前にしました。



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