88 カフェにて
「雪姉?」
思わぬところで雪姉に会った俺は、変な声を出してしまった。
「椎名、なんでここに?」
「いや、今日出かけるって言ったでしょ?それ、買い物をするためなんだよ。」
「なるほど。でも、なんで女の子と一緒なの?しかも三人も。」
「そ、それは・・・・・。」
俺は雪姉の質問に、言いよどむ。
俺は、学校のことをあまり雪姉に話してない。なぜなら、魔法を使う魔法学院のことを話したら、何処でぼろを出すかわからないからだ。
そのため、俺は必死に言い訳をしようと、頭を働かせる。
「文化祭の衣装を買いに来たんです。」
そこに、紫音の援護が来た。
「文化祭?」
雪姉は、首をかしげる。
「聞いてないんですか?来月文化祭があるんですよ。」
楓が、文化祭について説明する。
「へぇ!椎名、なんで言ってくれなかったの?私も行きたい!」
「ダメ!絶対ダメ!」
俺は雪姉のお願いを全力で拒否する。
「なんで?いいじゃない!」
雪姉は食い下がるが、若干とはいえ魔法を使っている魔法学院の文化祭は、一般人の雪姉には見せられない。
俺は雪姉にこちらの世界に来てほしくないのだ。
「ま、いいや。で、何するの?」
雪姉は、あっさりと引き下がる。
俺はほっとするが、かすかな違和感を覚える。
「椎名君のクラスは、コスプレ喫茶をするそうですよ。ほら、このキツネにコスプレするつもりです。」
今度はスミレが、いつもとは違い丁寧な言葉づかいで雪姉に写真を見せる。
その写真は、先程の試着して出の写真だ。
「わぁ!可愛い!」
「あぁ!やめろよ!」
俺は、スミレからケータイを取り上げようとするが、スミレは立ち上がり、ケータイをかかがる。
身長の低い俺では、スミレが掲げている高さには届かない。魔法を使えばどうにでもなるが、雪姉がいる前で魔法を使うことは憚られる。
そのため、俺はぴょんぴょん飛び跳ねながらケータイを取ろうとする。
「もう!椎名って本当にかわいい!」
俺がスミレからケータイを取り上げようと奮闘いていると、ふいに後ろから抱きしめられた。
犯人は勿論雪姉だ。
「わぁ!やめろ!俺はもう子供じゃないんだから!」
「そんな外見で何意を言っているのかしら?」
雪姉は俺のことを頭からつま先まで見渡して、口角を緩めながらそう言ってきた。
「うぐっ!見てろ!すぐに、雪姉よりも大きくなってやる!」
俺はそう啖呵を切る。
雪姉は、女子のほうでは身長が高いほうだが、それでも百七十ちょっとしかない。男の俺なら、百八十はいくだろう。いや、行ってくれなくては困る。
と言うわけで、雪姉の身長など、高校を卒業するぐらいには抜いている予定だ。
「ふふふ。頑張ってねぇ。」
雪姉は俺のことを抱きしめ、撫でながらそう返した。
「それで、その子たちは?」
ひとしきり撫でまわされた後、雪姉は紫音たちのことを聞いてきた。
「部活で一緒の奴らだよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
雪姉は、品定めをするような感じで三人を見つめる。
「そういうあなたこそ、誰なんですか?」
楓が、雪姉に対して質問する。
雪姉は三人に向きなおる。
「私は、椎名の保護者の高遠雪と言います。いつも、うちの椎名がお世話になっています。」
雪姉はそういうと、頭を下げる。
「あ、私は佐村紫音です。」
「私は神藤楓。」
「夢宮スミレだよ!」
それぞれが自己紹介をした後、楓が恐る恐る口を開く。
「えっと、苗字が違うんだけど・・・・・どういうこと?」
俺と雪姉は一瞬暗い顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、いきさつを説明する。
「なるほど。そういう理由があったんですね。すみません。言いづらい事を言わせてしまいました。」
楓は、そう言って深々と頭を下げる。
「いえ、いいのよ。」
雪姉は優しく微笑むだけだ。
紫音とスミレが話さないと思ったら、紫音は静かに涙を拭いていた。スミレに至っては号泣していた。
「お、おい!そんなに悲しい話じゃなかっただろうが!?」
「悲しくないなんて、そんなことないよ。椎名君は、大切な人を二回も失っているのよ?」
落ち着いてきていた紫音が、俺を抱きしめながらそう言った。
本当のことを言えば、俺が大切な人を失った回数は、二回よりも多い。
レムナットを含めれば、片手では数えられないほど存在する。
しかし、それを知るのは俺だけでいい。彼女たちが知ることはない。
「いいんだ。俺は、確かに大切な人を失ったけど、まだ大切だと思える人がいるから。」
俺はそう紫音を諭す。
「そう、あなたは強いのね。」
「そんなことないさ。」
俺はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「さ、こんな話はおしまい!それで、注文はどうするの?」
雪姉は手をパンパンと叩くと、注文を訪ねる。
「あ、じゃあ私はロイヤルパフェ。」
「私は三段チーズケーキ。」
「私は限定七色マカロン!」
三人は、それぞれメニューの中でも、そこそこ高いものを注文した。
「俺はコーヒーでいいや。」
俺は飲み物だけを注文する。
「手、言うかお前らそんな高いもの頼んでも大丈夫なのか?」
「何言ってんの?あんたが払うのよ?」
「は?」
楓の発言に、俺はぽかんと口を開ける。
「ごちになります!」
スミレは満面の笑顔で俺にいって来る。
「ご、ごちになります。」
紫音は、遠慮気味に言ってくる。
「待て!なんで俺が払うことになってるんだ!?」
俺の抗議に、楓は当然といった様子で答える。
「まさか、レディーの私たちに払わせようとしてる?」
「じゃ、請求は椎名ってことで!」
「ちょ、雪姉!」
雪姉は、元気よく注文を裏に持っていく。
そうして俺は、総額二千八百円の支払いをすることになった。




