8
翌朝、優は森を抜け、街道に出る。普通、逃げるのに街道など使わないのだが、そこは優のスキル、【魔道具作成】で作った丈が足まであるコートを着る。
このコートには、【魔法耐性】、【物理耐性】、それと、【再現】と詐欺を組み合わせて作った、【認識阻害】のスキルを付与してある。【認識阻害】は、このコートを着ている限り顔を分かりにくくすることができる。
正に逃走にはうってつけだ。
優は、コートのフードを深くかぶり、街道を歩いていく。
たまに行商人や、狩りをしている冒険者などとすれ違うが、会釈をして通り過ぎる。
太陽が頭上まで上がり、そろそろ昼飯時だという頃、優の【気配察知】に反応があった。
(これは、兵士か?それにしても三千人はやりすぎだろう。)
おそらく兵士であろう反応が、こちらに向かって来ている。優は歩く速度を上げる。
(おっとこっちもか。)
街道の先でも、千ほどしかいないが、兵士たちが待ち構えていた。
優はその場にとどまり、旅人が昼飯を食べている風を装う。
しばらくすると、三千の兵士たちが、優の目にも見えるところまで来た。
兵士たちは優の前で立ち止まると、優に話しかけてきた。
「お食事中に失礼、このあたりで、黒髪黒目、少し背の小さい、童顔の少年を見なかったか?」
背の小さいの部分で、ブチ切れそうになったユウだが、何とか我慢して答える。
「いえ、見てませんね。その人が何かしたんですか?」
コンプレックスを刺激されたにもかかわらず、優の声は意外と冷静だった。まあ、いつもこんな口調だから違いがあまりないだけなんだが。
「そうか、協力感謝する。もし、見つけたら町の詰め所まで来てくれ。」
そういうと、兵士たちは再び歩き出した。
優はただそれをボーッと眺めるだけだ。
しばらくすると、最後尾が見えてくる。
(げ!)
最後尾にいる人物を見て、優は慌てて顔を伏せる。なぜなら最後尾にいたのは、魔の森で優が見逃がした調査員の一人だったのだ。
優は、早くこの兵士たちの集団が、通り過ぎるのを祈った。
「こいつだ!こいつがユウ・ウミハラだ!」
優の祈りは、神には届かなかった。
(はあ、神はよほど俺が嫌いらしい。)
優は立ち上がり、調査員の男にきく。
「一応次の参考になるかもしれないから聞いておこう、なぜわかった?」
優はそう言うと、フードを脱いだ。
途端に兵士たちに動揺が走る。
それもそうだろう。ただの旅人にしか見えないものが、まさかの大罪人なのだから。
「俺はその妙な剣を覚えている。あの時お前が使っていたものと同じだ!」
調査員の男は、装備している装備で優を誰だか判断していたらしい。
「ああ、それは失念していた。次は気を付けないと。」
優がつぶやくと、一人の兵士がしびれを切らしたのか、斬りかかってくる。
「待て!うかつに行動するな!」
仲間の兵士が何かを叫んでいるが、飛び出してきた兵士の耳には届いていない。
「ふっ!」
優はすれ違いざまに抜刀し、兵士の胴を薙ぐ。勿論、葉隠れに魔力を通すのも忘れない。
葉隠れは、何の抵抗もなく兵士の体を両断する。
「次。」
優がそう言い、右手の人差し指を空に向け、前後に動かす。
しかし、さすがは訓練された王国兵たち。挑発には乗らずに、隊列を組んだ。
一番前に大きな盾を担ぎ、フルプレートで体を覆った兵士が並び、次に剣を装備した兵士たち。最後に、弓や、魔法使いたちが並ぶ。
「盾部隊、突撃!」
最初に優に話しかけてきた、隊長らしき人の号令で、盾を持った兵士たちが突撃してきた。
「雷刀・閃。」
優はそう呟くと、【雷魔法】と【魔力操作】を使い、葉隠れに、雷の刃を纏わせる。
その刃は、目算でおよそ百メートル。
優はそれを横薙ぎに振るった。
それだけで、盾部隊の兵士たちは真っ二つになった。
中には盾で防御しようとしたものもいたが、それは何の意味も持たなかった。
優は葉隠れに更に魔力を注ぎ、刀身を伸ばした。それによって、今や葉隠れの刀身は、二百メートルを超えている。
優は返す刃で、盾部隊の後ろに控えていた剣部隊に向けて、葉隠れをもう一度薙ぐ。
それだけで剣部隊でさえ全滅してしまった。たったの二回、剣を振っただけで、三千人いたはずの部隊が、千人弱まで減った。
「雷滅槍。」
優の呟きと同時に、優の魔力が高まっていく。
「う、打て打て!」
残った弓部隊と、魔法部隊の兵士たちが弓矢や、魔法を打ってくる。
しかし遅い。優が魔力を開放すると、827本の雷の槍が空中に生成された。
「行け。」
優が命令すると、827本の槍たちは827人の残りの兵士たちに向かって飛んで行った。槍たちは、それぞれ意思があるかのような動きで飛んでいき、正確に兵士たちを貫いた。
優が雷魔法ばかり使うのには、理由がある。それは、効率がいいからだ。
雷は、当たるだけで相手を麻痺させ、うまくいけば内臓破壊、ショックによる心停止など、ただ当てるだけである程度の効果が望める。そのため、優は雷魔法を好んでよく使う。
827本の槍は、雷滅槍といい、多対一の場面で一番効果がある、優お気に入りの魔法だ。
優は兵士が全員死んだことを確認すると、剣部隊の男と剣を一本拾い、腰に装備すると、歩き出した。
優は学習する子なのだ。
優は兵士が千人いる場所まで来ていた。
案の定というか、そこには関所があり、兵士が通る人間の検査をしていた。
優がそこに近づくと、兵士が声をかけてきた。
「おい、そこの黒いコートを着たチビ、とまれ。」
優は、必死にその兵士を殴りたいという衝動を抑え、おとなしくその言葉に従った。
「お前の目的地は?」
「決めていない。しいて言うなら、この世の果てを見てみたい。」
優は、冗談を交えてそう答える。
そのあと何度か質問をされるが、すべて無難に答える。
「最後の質問だが、その剣はどうした?」
「王都の鍛冶屋で買った。」
優は、そう答える。先ほど武器のせいでばれたため、ここも無難に返す。
「ほう、その剣は、軍の支給品で、王城専属の鍛冶師しか打っていない業物なのだが、なぜそれをお前が持っている?」
「…。」
場を沈黙が支配した。
「こいつを連行しろ。今逃亡中の、大罪人の可能性が高い。」
こちらの様子を遠巻きに見ていた兵士が優に近づいてくる。
「ばれちゃ仕方がないか。」
優はそう言うと剣を捨てる。
それを降伏ととったのか、兵士たちがさらに近づいてくる。
「おし通る。」
優はそう言うと、収納の中から葉隠れを取り出し、近づいてきていた兵士の首を一振りで三つ落とした。
「であえ!出会え!」
隊長らしき人が、時代劇みたいなことを叫んでいる。
関所のいたるところから兵士が出てきて、優を完全に囲んだ。
「観念しろ!今に、三千の部隊が来る。いくらお前でも、四千の兵士を相手にはできないだろう!」
隊長がそんなことを言ってきたが、その部隊ならもうとっくに優によって殲滅されている。
「ああ、その部隊ってこれ?」
優は、先ほど潰した部隊の全員が持っていた、ドッグタグのようなものを、収納から取り出した。その数、三千。
「な!?これは間違いなく第2分隊の隊証!貴様!彼らをどうした?!」
隊長らしき人は、優の取り出したドッグタグを見て、怒りの声を上げる。
「殺したよ、勿論。」
優は何でもないように答える。
「貴様ぁ!」
関所の兵士たちが一斉に襲い掛かってくる。
「雷轟。」
優がそう呟くと、優を中心に、雷が発生し、半円状のドームを作っていく。
その速さは馬よりも早く、兵士たちは次々と優の魔法の餌食となっていく。
「バケモノめ。」
最後の兵士がそう言って、雷轟に飲まれた。
優は悲しげに空を見上げ一言、
「知ってるよ。」
と言って、先に進んだ。
数日後、関所を通って王国に来た行商人から関所の惨状を聞き、さらなる大部隊が優の追手として派遣され、その中には勇者の姿もあった。
優は知らなかったが、優は魔族領に向かって逃げていたのだ。そのため、ついでだとばかりに追撃隊に勇者も加わった。
戦闘シーン書くのしんどい。
もうこの小説戦闘シーンなしで良いですかね?
嘘ですすみません。
戦闘はこれからもあります。
感想待ってます!