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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第二章 シナーラ
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79 入学試験

 俺はもう小学六年生。最上級学年だ。そのため、次の年からは中学に行かなくてはならない。


 俺の地元だと、明暗中学校が一番ポピュラーだが、俺はそこへは行かない。


 「それで、受験って今日だよね?」


 そう、俺は受験するのだ。


 まあ、一番の理由としては、その受験する学校が、『ヘルスーナ魔法学院・・・・』だからだろう。


 名前の通り、この学校は魔法を教えている。雪姉にはただのヘルスーナ学園だと言っているため、この学園の真の姿に気が付くことはないだろう。


 とりあえず、今日この日はそのヘルスーナ魔法学院の入学試験の日なのだ。


 「じゃあ、行ってくるよ。」


 俺は玄関の扉を開き、そのに出る。



 ヘルスーナ魔法学院の入学試験だが、それはとても簡単なものだ。


 まず、魔力量の検査。その後、簡単な筆記問題。その両方で、ある程度以上の成績を出せば、入学できる。ちなみに、どちらかがずば抜けていた場合も、入学できる可能性はある。


 俺の場合、魔力量は問題ない。筆記も、咲夜との練習でかなり知識を詰め込まれたため大丈夫だ。


 俺は試験会場の中に入る。まず最初は、筆記試験だった。


 はっきり言って、低レベルすぎる。


 最初の問題が、『この世界の魔力を可視化するには、どのようにするべきで、そうするためにはどのような魔法が必要か。』という問題だが、こんなものは常識中の常識だ。


 身体強化魔法で目を強化し、その後網膜など、全ての器官に魔力を通す。


 要は、魔力を目全てに纏わせるだけだ。


 俺はそのほかの質問も全て回答し、余った時間を寝て過ごした。



 筆記試験を終えると、俺たちは体育館のようなところに移動する。


 ここではたくさんの魔道具が並んでいた。


 この魔道具は、魔力を流すことで魔力量を図るもので、これを終えた生徒たちは皆、疲れた顔をしていた。


 「やあ。」


 俺が自分の順番を待っていると、後ろから声がかけられた。


 振り返ると、いかにもいいところの坊ちゃんと言った感じのイケメンがたっていた。


 「君、さっきの試験、ほとんど寝ていただろう?やっぱりあれは難しかったよね。」


 男はそう言って笑ってくる。


 だが、俺はその男が何を言っているのかがわからない。


 「何を言っているんだ?あんな問題、ほとんどが一般常識だっただろう?」


 俺がそう言うと、男は少し驚いた顔をした。


 「あの問題、分かったのかい?」


 「ああ、全部分かったぞ。」


 「すごいな。おっと、申し遅れていたね。僕は三条一馬。三条家の本家の長男だ。君は、何処の家系だい?」


 「俺は繭澄椎名。魔術師の家系には生まれていない。」


 「なに?」


 俺が自分の名前と出自を明かすと、男は眉を寄せる。


 「つまり、君の両親は魔法が使えないと。」


 「ああ。存在すら知らなかったんじゃないか?」


 男は俺の話を聞き終わると、あからさまに態度を変える。


 「なんだ、君は『出来損ない《ガベージ》』なのか。じゃあ、さっきの話も嘘だな。まったく驚かせてくれる。」


 男は冷めて目で俺を見てくる。


 「ガベージ?なんだそれ。」


 「話しかけるな。」


 俺を見つめる男の目は、まるでごみを見るような目だ。


 「僕は先に行かせてもらうよ。どうせ合格できないだろうし、精々恥をさらさないように努力しなよ。」


 男はそう言って、その場を去った。


 「何だったんだ?あいつ。」


 俺は腑に落ちないものを腹に抱え、検査機の前に出る。


 「じゃ、そこに座って。」


 検査機の横にいた男が、椅子に座るように俺を促す。


 俺は言われたとおり、椅子に座る。


 「これを握って、魔力を流してね。限界だと思ったら、そこでやめるんだよ?」


 そう言って、男は棒を一本俺に渡してくる。


 俺はそれを握り、ゆっくりと魔力を流していく。


 「ほお、魔力量は高いね。」


 検査機のメーターが五百を回ったところで、男がそう声を漏らす。


 俺はどんどん魔力を流していく。


 メーターは、どんどん増えていく。千、千五百、二千、三千。そして、メーターが五千を回ったところで、男からストップがかかった。


 「もういい!もう十分だ!」


 男がそういうので、俺は棒から手を放す。


 「君は何者だい?」


 男は、困惑を顔に浮かべながら聞いてくる。


 「俺ですか?俺はただの、しがない受験生ですよ。」


 俺はにっこりとは会うと、検査機から離れ、体育館らしき建物から出た。


 「帰るか。」


 俺は雪姉が待つ家へと歩を進めた。



 ここは、がくえんにある会議室の一つだ。その会議室には今、学園の教師がほとんど集められている。


 「今日集まってもらったのは、他でもない。ある受験生についてだ。」


 その中で、一番年を食った男が口を開く。この男は学園長で、魔術師としても一流の腕を持つ。


 「受験生がどうかしたのですか?」


 毎年、何かに秀でている受験生の一人か二人はいるが、このようにすべての教師を集めるとは尋常ではない。そのため、教師たちの大半が思っているこのを、一番若いこの教師が質問した。


 「うむ、今年度の入試試験の内容は、みな把握しているな。この入試は、この学園どころか、高等部の生徒でさえ、一問答えられていいほうの物なのだが、こやつは全問正解しておった。」


 「え!?」


 若い教師が驚愕のあまり、声を上げる。しかし、すぐに平常心を取り戻した。


 「なるほど。知識タイプの天才ですか。これは、確かに座学の授業について少し考えないといけませんね。そんなに座学に秀でているのでしたら、やはり実技はやる必要はありませんね。」


 「いや、実技もやらせる。」


 「え?」


 学園長の発言に、若い教師は目を見開かせる。


 「で、ですが、このような座学に秀でた生徒は、実技を嫌う傾向にあります。それを無理やりやらせては、学園の利益になりません。」


 若い教師は、今までの例を挙げていく。それらは、研究者として世界で活躍している者たちだ。


 「彼らは皆、魔力量もそんなに多くなく、魔法はむしろ苦手と言えます。無理に魔法を教える必要はないのでは?」


 「いや、実技はやらせる。まあ、そんな顔をするな。まずはこれを見てみろ。」


 若い教師は明らかに嫌そうな顔をするが、学園長は一枚の紙を取り出すと、それを若い教師に渡す。


 「これは?」


 その紙に書かれていたのは、誰かの魔力検査の結果だ。この魔力量なら、十分一流と言っていいだろう数値だ。


 「それは、さっき言った生徒の魔力検査の結果だ。」


 「な!?」


 若い教師は、もう一度紙を食い入るように見る。


 「その少年、何者なんですか?」


 「ああ、わしもそれが気になってな、協会に連絡してみた。協会の連中は、なんて言ったと思う?」


 学園長は、若い教師の質問を質問で返す。


 「さあ?」


 若い教師は、少しの間考えていたが、何も思い当たらなかったのか、首を傾げた。


 「協会の連中は、あ奴が魔術師免許を持っている、プロの魔術師だと言っておった。」


 「は?」


 学園長の言葉に、部屋にいた全員が固まった。


 「そういうわけで、こやつは実技もやらせる。わかったら、解散せい。」


 学園長は手をパンパンと鳴らし、教師たちに退室を促す。


 教師たちが出ていき、学園長一人になった会議室で、学園長はニヤリと笑うと、自身も退出するために扉に向けて歩き出す。


 「今年の学園は荒れるぞ。」


 学園長が最後に呟いた言葉は、誰もいない会議室に響き渡った。

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