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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第二章 シナーラ
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78 運動会

 今日は小学生にとっての一大イベント。そう、運動会だ。


 天候は晴天。まさに運動会日和だ。


 だが、そんなものは俺には関係ない。いつもの通り、適当に流すだけだ。


 「椎名!頑張ろうね。」


 詩帆がそう言って、笑顔を向けてくる。


 「ああ、そうだな。」


 俺は少しだけ表情筋を緩ませる。


 俺はまだうまく人前で笑うことができない。


 龍川や、咲たちなど、魔法が使えると言う『仲間』や、雪姉などの『家族』等の前では笑えるのだが、他の人間の前だと、うまく笑えないのだ。


 それでも、いつも仏頂面と言うわけではない。詩帆やその友達など、特定の人間に対しては、表情もいくらか軟化する。


 さて、今俺が最上級学年である六年生でも、最初にやる種目は他の学年と一緒だ。そう、徒競走だ。


 俺はスタートラインにつき、開始の合図を待つ。


 「椎名~!頑張って!」


 しかし、その時俺の耳に、ある人物の声が入ってきた。


 「雪姉!?」


 そう、雪姉だ。今日は大学の講義があると言ってたのだが、嘘だったようだ。


 「スタート!」


 俺が雪姉の存在にあっけにとられていると、スタートの合図が響き渡る。


 俺は雪姉のことに驚きすぎて、少しスタートが遅れてしまった。


 だが!そんなもの、雪姉に応援されている俺には関係ない。


 俺は重力の枷を少し解き、一気に加速する。


 重力の枷を解いた俺は、ボルト並みの速度で走り出す。


 「は!?」


 俺に抜かれた他の走者たちは驚愕の声を上げる。


 俺はゴールまで一直線に駆け抜ける。


 勿論順位は一着だ。


 「雪姉!来てたの!?」


 俺は満面の笑みで雪姉に問いかける。


 「椎名が…、笑った!?」


 「ありえない。あいつが笑うなんて!」


 「椎名君て、笑えるのね…。」


 周りの奴らが何かを言っているが、俺には聞こえない。


 「雪姉!今日は大学の講義じゃなかったの?」


 俺はまず、雪姉がなぜここにいるのかを問う。


 「だって今日は椎名の晴れ舞台なんだから。来ないわけないでしょ?」


 「ありがとう!」


 俺はさっきの笑顔より、数倍輝いている笑顔を雪姉に向ける。


 「あいつ、あんな顔で笑うのか。…こうして見るといつもよりなんか顔が輝いて見えるような。」


 「確かに、今のあいつなんて言うか、こう…。」


 「可愛いわね。」


 「「そう!それ!」」


 何か、男にとって不名誉なことを言われた気がしたが、俺は気にしない。


 「じゃ、この後の競技も頑張ってね!」


 「うん!」


 俺は大きくうなずくと、次の競技に参加するため、移動した。


 そこに残されたのは、椎名の意外な一面を目の当たりにした一同と、それを不思議そうに見ている雪だけだった。


--玉入れ--


 俺は先程と同じ速度で動き回り、次々と玉を放り投げていく。


 そして、その玉は寸分の狂いなくカゴへと入っていく。


 これは、風の魔術を使っているため、当然の結果と言えよう。


 『あ、紅組、全部。白組、八十五個。』


 俺が所属する紅組は、玉入れで玉を全て入れ、白組を圧倒した。


 もちろん、それは俺の功績だと言うのはわかりきったことだった。


--大玉転がし--


 大玉転がしは、二人一組でやる競技だ。


 普通なら、その競技は二人で大きな玉を協力して転がし、ゴールまでの速さを競う競技なのだが、いま、その大玉転がしではありえない光景が繰り広げられている。


 「ふん!」


 俺が気合を入れて、大玉に掌底を入れると、大玉は宙を舞い、そのまま地面に接触する。そして、それに追いついた俺とそのパートナーは一切スピードを緩めることなく、もう一度掌底を繰り出す。


 大玉は的宙を舞う。後はその繰り返しだ。


 最後のほうになると慣れてきたので、大玉は常に空中に会った。


 『え~…。一着は、椎名君のペアです。』


 放送を担当している生徒は、疲れた声でそう言ったのだった。


--騎馬戦--


 騎馬戦では、俺は身長が低く、体つきも全体的に細いため、騎手の役割を与えられている。


 「いけ!」


 俺は騎馬役の生徒に号令をかけ、敵に突っ込む。


 「おらぁ!」


 俺は武術のような動きで、相手チームの鉢巻きを次々と奪っていく。


 その動きは、下手なカンフー映画顔負けの動きだった。


 もちろん、俺一人でほぼ白チームは全滅した。


 が、得点としては、俺達紅組は白組に負けている。


--障害物競走--


 障害物競走は、クラスの代表が一人でやる種目だ。そのため、得られる得点も低い。


 しかし、紅組が負けている今、そんなことを言って言い訳がない。


 俺は全力で障害物競走に取り組んだ。


 まず一つ目の障害物は、平均台だ。


 しかも、その平均台は少し高い位置にあり、上るのにも少し時間を取られそうだった。普通・・なら《・・》。俺は平均台の前まで来ると、体操選手のような身軽さで平均台に回転しながら飛び乗り、そのまま走っていく。


 そして、平均台をクリアすると、次はネットが地面に敷かれていた。


 俺はネットの端を持ち上げると、それを勢いよく上下に振る。そうすると、波のような形でネットが揺れる。俺はその波の中に体を潜り込ませ、そのままネットをクリアする。


 ここまで俺は一切速度を落としていない。


 次の障害物は、小麦粉の中に埋まった飴玉探しだ。


 普通なら顔を突っ込んでやるものだが、そのような時間の無駄をしてはいられない。


 俺は息を思い切り吹きかける。すると、小麦粉がすべて吹き飛び、飴玉が現れる。


 俺はそれを全て口の中に納め、次の障害物に向かって走っていった。


 次の障害物は糸につるされたパンだ。これはパン食い競争のものだと思うが、この学校の体育祭では所外物の一種らしい。


 俺は綺麗なフォームで飛び上がり、パンに食らいつく。


 何故だかはわからないが、この学校ではパンを食べ終わらなくては次の障害物に進めないことになっている。


 俺は一瞬でパンを平らげ、走り出した。


 次が最後の障害物だが、これも借り物競争と同じく、メモの書いてあるものを借りてこなければいけない類のものだ。


 俺はまったく迷わずに一枚の紙を選ぶ。


 それを係員に見せ、係員がそれを読み上げることで、俺が何を借りなくてはいけないのかが決まる。


 『一番大切な人!』


 係員の宣言に、観客たちが冷やかしの声を俺に浴びせかける。


 だが、そんなもの俺には関係ない。


 俺はまっすぐに雪姉のところまで行き、手を取ってゴールまで連れていく。


 「椎名、ありがとう。」


 自分が一番大切だと言われて嬉しかったのか、雪姉は俺を抱きしめる。


 「そんなの、お礼を言うほどのことじゃないよ。」


 俺は雪姉をそっと抱き返す。


 こうして、障害物競争は終わった。


 その後、紅組はリレーで白組を巻き返し(俺は出ていない)、今年は紅組の逆転優勝となった。


 そして、運動会と言う名の俺のワンマンショーが幕を閉じるのだった。

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