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(なんだこのステータスと、スキルの量は?確かに、魔物も人間も、襲ってくる奴は片っ端から殺したが、だからってこれはないだろ!?)
万もの魔物や、人間の兵士、襲ってくる市民を葬ったことにより、優のレベルが大幅に上がり、ステータスやスキルもすごいことになった。
(これでも、我のほうが強いというのか?)
ボヴァルキアが、いたずらっぽくそう問いかけてきた。
「いや、そんなことは言わないさ。で、もう一度聞くけど、俺と契約するのか?ボヴァルキア。」
優が聞くと、ボヴァルキアは少し考えた後、しっかりとうなずいた。
(従魔契約などしたことがなかったのでな。少し興味があるのだ。)
そういって、ボヴァルキアは契約魔方陣を足元に広がった。優もそれに答えるように契約魔方陣を展開し、互いに契約を完了した。
「これからよろしくな。ボヴァルキア。」
(ルキで良い、親しいものはみなそう呼ぶ。)
「分かった。じゃ、改めてよろしく、ルキ。」
そういって、優はニコッと笑った。これが優にとって、この世界で初めてできた友達であった。
(うむ、よろしくな。えーと…。)
「優だ。海原優。こっちだと、ユウ・ウミハラかな?」
(こっち?そなた…、優は、異国の出身なのか?)
ルキはそう言って首をかしげた。
「ん?お前俺のこと鑑定したんじゃないのか?」
優は、自分が気付く前に自分の力を見抜かれたことから、ルキが優に鑑定をかけたと判断していた。
「いや、わしは鑑定のスキルを持っておらん。長く生きれば、その者が持つ魔力で大体の強さはわかるもんじゃ。」
確かに、優がルキを鑑定した時、鑑定のスキルはなかった。
「ん?お前今しゃべったか?」
そう、今まで頭に直接語りかけていたルキが、口を使ってしゃべったのだ。
「ん?ああ、今までは、威厳を出すために、頭に直接語り掛けておったが、晴れて主従の関係になったのだ。そんなことする必要なかろう。」
どうやらこのドラゴン、威厳の出し方を間違えたらしい。
「頭に直接語りかけたら、威厳が出るのか?」
「少なくとも、里の者どもは、威厳だあると言うぞ!」
ものすごいドヤ顔でそう言い切ったルキは、どこか誇らしげだった。
(ま、龍帝なんて称号もあるし、ドラゴンの中では偉いんだろうな。そんな奴が威厳を見せようとしてやったことを、否定できるやつがいるとは思わないが。)
この瞬間、ルキは残念なドラゴンであることが、ユウの中で確定した。
「それでは我は帰るが、我の力が必要になったら呼ぶがいい。たとえ入浴中でも駆けつけるぞ。」
そう言ってルキは魔法陣の中に消えていった。
「結局最後まで残念なドラゴンだったな。」
優はそう言うと、魔物から肉を取る作業をつづけた。
「次は野菜だな。」
あらかた魔物の肉を取り終えた後、優は食べられる野草を探すため、森の奥へと入っていった。
地球で友達が少なかった優は、幼いころ図鑑や、本などを読んで過ごした。そのため、ある程度野草の知識や、パッチングの知識もある。
優は、地球で培った知識をもとに、食べられる野草を集めていった。
何日たっただろうか。優が森の魔物という魔物を倒したため、あれ以来魔物の影も見えなかった。
王国は、このことに対して捜査隊を送ることを決定した。優の捜索ももちろん行っていたのだが、それ以上にこの森に資源は無視できなかったのだ。
優には知る由もないが、この森は魔の森と呼ばれている。この魔の森の魔物の素材は武器の作成に、そこら辺に生えている野草でさえ、薬にすれば極上のものが出来上がる。
魔物がほぼいなくなった今、あまりに魔物が強いため人がこれなかったころとは違い、魔の森の調査もできるようになった。
そうなれば、調査隊を送るのは、自然な流れではないだろうか。
と、言うわけで優は今、王国の調査隊とその護衛に囲まれている。
「この森を調査しに来たら大罪人出てくるとは、この森は本当に素晴らしい。」
護衛の一人がいやらしい笑みを浮かべながら言う。
「大罪人?俺は何も悪いことはしていないが?」
優は、すまし顔でそう答える。
(ま、今から殺人罪を犯すかもしれんがな。)
周りを武装した集団に囲まれているにもかかわらず、なかなかに物騒なことを考える優であった。
「しらばっくれるな!お前が勇者武田園香を殺したのは、周知の事実だ!」
優は、大きなため息を吐く。
「あのなあ、少し考えたらわかるだろう。園香叔母さんを殺したのに、なんでまだこんなところにいる?なんで他の勇者を殺さなかった?なぜ監視のない迷宮の中ではなく、わざわざ王城で殺した?もし俺が本当に園香叔母さんを殺したとしたら、不可解な点が多すぎると思わないか?」
無駄だとはわかっていたが、優は一応聞いてみる。
「今見なかったことにしてここを離れるなら、見逃してやるぞ?」
優としても、園香の仇でもある王国の兵士でも人は殺したくはなかった。
(ま、今更か。)
そう、彼は襲ってきたからとはいえ、王国の兵士や、一般人も手にかけている。なので、本当に今更
である。
「き、貴様!」
護衛の一人が激昂して、斬りかかった来た。
(やっぱりこうなるか。)
優は、腰に差していた刀を抜いて、斬りかかってきた護衛の首を、刹那のうちに撥ねた。
この刀、名を【雷刀・葉隠れ】といい、優が魔剣作成のスキルで作った刀である。効果は、魔力を通せば雷を纏い、切れ味を増す。さらに、魔力操作のスキルを使うことによって、魔力によって刃を伸ばすこともできる。
「な…。」
剣を構えていた他の護衛が、優のあまりの速さに言葉を失う。
「どうした?まさか帰ってくれる気になったのか?」
優が軽く挑発すると、護衛達はすぐに挑発に乗ってくれた。
「な、舐めるな!」「いくぞ!」「死ね!」
次は、護衛全員で襲い掛かってきた。
優は向かってくる護衛のうち一人を上から下への袈裟斬りで倒し、返す刀で二人目を倒した。三人目と四人目は雷魔法で倒した。護衛はまだ十人以上残っている。
「めんどくせーな。」
優はそう呟くと、残りの護衛に向けて手をかざす。
「竜の顎。」
優はそう呟くと、魔法を発動させる。
この魔法は、スキル【再現】と、【雷魔法】を使い、雷でルキの外観を再現したものだ。
優はこの魔法を放つと、手の微妙な動きでそれを制御する。手を右に少し振ると、雷のルキも右に曲がる。上にかざせば、ルキも上に上がる。そうして、残りの護衛達もすべて息絶え、あとに残ったのは、調査員たちだけであった。
「で?おまえらはどうする?おれとたたかうか?」
優は一応そう聞いてみる。
「ひ!い、いえ!私たちは帰ります!」
調査員たちは、いまにもちびりそうな顔でそう答えた。
「いい判断だ。」
優はそう言って、葉隠れを鞘にしまった。
「王に伝えろ。『俺はお前には屈しない。』とな。」
調査員たちはそれを聞くと、逃げるように帰っていった。いや、正に逃げているわけだが…。
優は調査員たちを見送った後、一人涙を流していた。
「この世界の人間はどこまで腐ってやがる!くそ野郎どもが!」
優は確信していた。王国はどこまでも追ってくると。王国にとって優は、異端者であり、勇者を殺した大罪人だ。他にもどんな罪を着せられているか、わかったものではない。彼らはどこまでも追ってくる。それこそ地の果てまでも。
敵は人間全て。見つかれば容赦なく攻撃される。人間が住むところに逃げ場はない。
ならばどうするか。人間がいないところに行けばいい。
優は、人間の住む場所から離れるため、森を出ることを決意した。
これから、優の逃走劇が始まります。そんなに面白いものでもないと思いますが、読んでくれたらうれしいです
感想待ってます。