75 職場
無事入隊できた俺は翌日、部隊のための部屋--警視庁より少し離れたビルのワンフロアを丸々改造したもの。--に来ていた。
俺が稼がなければと意気込んでいた俺だが、その必要はなかった。
なぜなら、正人君が残した遺産が雪姉に相続されたからだ。
普通なら俺たちではなく、正人君の家族に相続されるべきだが、遺言状が見つかり、そこには『遺産は全て孤児院の最年長に相続する。』と書いてあったのだ。
それを聞いた時は、不覚ながら泣いてしまった。まさか死んでまで俺たちのことを思っているとは思わなかったからだ。
とりあえず当分の生活費を手に入れたが、それも無限ではない。
いずれは働かなくてはいけないなら、今から働いておいたほうが良いだろう。
それに、提示された給料もものすごい額だった。
それが毎月家に入るのはおかしいため、正人君の遺産に紛れ込ませようと言うのだ。
それはともかく、俺は今ドアの前に立っている。
時間は放課後で、学校が終わり次第すぐに来た。
俺を部隊の隊員に紹介するためだそうだ。
ちなみに、この部隊には俺を含めても五人の人間しかいないと言う。
「失礼しまーす。」
俺は何とも閉まらない声を出して入室する。
そこにいたのは、若い女性と、ごつい男だった。
若い女性は、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる、理想のプロポーションを誇っている。顔は若干堀が深いがパーツの一つ一つが完成された美しさを持っていて、外を歩いたら十人中十三人が振り返るほどの美人だ。
ごつい男は、筋肉の鎧で覆われており、とても大きい。顔はひげで分かりにくいが、それでもなおごつい顔だろうと容易に想像できる。
「わ、何この子!?ちっちゃくてかわいい!」
「ちっちゃい言うな!」
「おい、ここはお前みたいなガキが来るとこじゃないぞ。」
まず最初に女が失礼なことを言い、俺が抗議する。その後、ごつい男が俺に注意する。
「あれ?聞いてないか?俺、今日からっここに入隊予定なんだけど。」
「「な!?」」
俺の言葉を聞くと、二人は目を見開かせた。
「嘘だろ?お前みたいなガキが?」
信じていないのか、男は俺に問いかける。
「はぁ。」
俺は溜息をついて、先日龍川と上司にやったのと同じことをする。
「な、な、な、何だ今のは!?」
「ゆ、夢!これは夢だわ!」
何とも面白い反応をするものだ。
先日と同じように、空中に放り出し、武軍を見せた--しかし、その間もずっと落ち続けていた。--だけなのだが、男はうろたえ、女は現実逃避している。
「おう、皆いるな?」
その時、龍川が入ってきた。
「龍川さん!何ですか、この子供は!?」
「あれ?言ってなかったか?今日から入隊した、繭澄椎名君だ。」
「よろしく!」
俺は簡単に自己紹介を終え、龍川に質問する。
「皆って言ってたけど、これで全部?もう一人いるんじゃないの?」
「ああ、もうほとりはあの上司だ。あいつは、警視庁とのパイプ役みたいなものだからな。」
もちろん戦闘もできるぞ、と龍川は笑う。
「今はそんなことはどうでもいいのよ!」
が、そこに横やりが入った。あの女だ。
「私たちは『特務殲滅部隊』なのよ!こんな子供が戦えるわけないじゃない!」
もっともな意見だが、俺は子供でも普通の子供じゃない。
「何か言ったか?」
俺は一瞬で女に近づき、布都御魂の腹をを女の首に当てる。
「っ!?」
女は驚愕に目を見開かせる。
「俺は戦えるよ。少なくともあんたよりは。」
「へぇ、言ったわね?」
「ああ、言ったらどうなるんだ?」
女は纏う雰囲気を一瞬で変えると、武器を取り出す。
「体で分からせてあげる。」
「それは光栄だが、場所が悪いな。移させてもらう。」
俺が指をスナップさせると、一瞬で景色が変わる。ここは俺が作った異空間で、何もない代わりに、無限の体積を誇る。
「ここなら思う存分やれる。」
俺はそう不敵に笑うと、布都御魂を構える。
女は俺が転移を使たことに警戒しながら、武器を構える。女の武器はスナイパーライフルだ。
しかし、そのスナイパーライフルを今は両手で体のでただ持っている。
「遮蔽物があったほうが良いか?」
「必要ないわ。」
スナイパーは遮蔽物があるところで生きるので、そう提案してみたのだがいらないお世話だったようだ。
「じゃ、始めるか。」
ちなみにだが、他の面々もこの戦いを見ている。
ドン!
俺が開始を宣言したと同時に、発砲音が空間に響いた。
いや、発砲音が来る前にライフルの弾が飛んできた。
彼女は、スナイパーライフルで早打ちしたのだ。
「なんだ、やればできるじゃないか。」
だが、そんなもの俺に効くわけがない。
「嘘!?」
女はなおも弾を打ってくる。しかし、その弾は全て俺に届く前に斬り落としている。
「あんた何者?」
弾を全て撃ち尽くした女は、俺に質問する。
「俺はただの転生者さ。ただちょっと前世で世界を破壊した…、ね。」
俺はいたずらっぽくウィンクする。
「はぁ、負けたわ。私は泉涼これからよろしく。椎名君。」
「ああ、よろしく。」
俺たちは握手をして、空間から出た。
こうして俺はこの女性に仕事仲間として受け入れられたのである。
余談だが、男の名前は美麗院晴と言うらしい。似合わない。




