68 林間学校2
夜、俺は目を覚ました。
「魔力?」
そう、魔力を感知したのだ。
俺はこの世界に転生するとき、探知系のスキルを引き継がなかった。
それなのになぜ俺が魔力を感知できたのかと言うと、必要だったからだ。
俺がまだ家族と一緒に暮らしていた時、家で父親の居場所を探知しようとしたところ、気配、魔力共に感知できるようになった。
すべての生物には魔力が宿っているため、あとはその魔力のパターンを覚えるだけだ。父親を探知するのはそう難しいことではなかった。
しかし、他ではそうはいかない。精々それがどの動物か、どの程度の魔力を持っているのかしかわからない。
それで俺がさっき感じた魔力だが、動物の魔力ではなかった。勿論人間の魔力でもない。
「こっちだったか?」
俺はテントを出て、近くの森に入る。
しばらく進むと、開けた場所に出た。しかし、どこか違和感がある。
「何だ?」
違和感の正体は、その空間の中からまったく魔力を感じないことだ。
この世界は魔力で満ちている。
そして魔力とは生物にとって必要不可欠のものだ。
魔力がないところでは、たとえゴキブリだろうと死に絶える。
なのに魔力がないと言うことは…。
「結界か…。」
俺は結界に触れてみる。
バチン!
「は?」
気が付いたら俺はテントの前にいた。
「まじかよ!」
さっき結界があったところまで歩いて三十分ある。
もう一回歩くのは、面倒すぎてしたくない。
「しゃぁねぇか。」
俺はいつも掛けている重力の枷を取り、思いっきりジャンプした。
「重力発動。」
俺は重力眼を発動し、空を飛ぶ。
三分もしないうちに結界があった場所まで戻った俺は、早速結界を抜ける準備を始める。
「空間特定…。完了。交換開始。」
俺がやったことは簡単だ。
ただ俺が今いる空間と、結界の中の空間を入れ替えた。
これは転移とは違い、空間そのものを入れ替えるため、転移を阻む結界でも防ぐことはできない。
そもそも俺は転移魔術なんて使えない。まあ、転移魔術に関わらず、ほとんどの魔術を俺は使えない。
空間魔術だけは流石に収納--空間魔術が元になったスキル--のおかげで使えるが。
「成功っと。」
交換に成功したため、俺は周りを確認する。
「鳥居?」
そこには鳥居が一つ、ポツンと存在しているだけの空間だった。
「いや、転移門か。」
だが、その鳥居もただの鳥居ではなかった。
それはくぐれば特定の場所に行ける門だった。
先程の魔力も、恐らくこの門目当てだったのだろう。
「まとりあえず行ってみるか。」
俺は鳥居をくぐる。
鳥居をくぐると、そこは夜のはずなのに明かりがあり、若干まぶしかった。
「っ!」
俺は夜の闇になれていた目を手で隠す。
ガラガラガラン!
ようやく目が光になれたと思ったら、近くから何かを落とす音が聞こえた。
「ん?」
俺は目を開け、音のしたほうを確認する。
「…。」
そこには、フライパンや、お玉など、金属でできた調理器具を背中に括り付けたキツネがいた。先ほどの音はこのキツネが鍋を落とした音らしい。
「し…しん…。」
キツネは何かを言おうとしている。
俺はキツネが発している声が、完璧に人間の言葉となじことに感心する。
「おい、お前人間の言葉話せるのか?」
「侵入者だー!」
俺が問うと、その瞬間にキツネが大声を上げた。
「何!?侵入者だと!?」
「どこだ!?」
「くそ!侵入者だと!?」
キツネがそう言うと、辺りから次々と声が上がる。
俺は改めて周囲の状況を確認する。
「町…、か。」
そこは町だった。
今までキツネに意識がいっていたが、よく周りを見渡せばここは町の広場らしかった。
「で、なんでこうなった。」
そして、俺は屈強な男や、フライパンを持ったおばちゃんたちに囲まれていた。
そして、その男やおばちゃんたちは皆頭に犬や猫の耳が付いていた。
つまり、
「人外の里ってところか。」
俺はかなりやばいところに来てしまったらしい。




