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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
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 ルキが妊娠してから五か月がたち、お腹もだいぶ大きくなった。ルキいわく、あと一か月ほどで産まれると言う。やはり龍人族という種族は少し人間とは違うらしい。カシムは違いと言えばせいぜい龍化できることと、武器を使えないことと思っていたが、どうやら他にもいろいろ違う点は多いらしい。


 それはともかく、カシムは久しぶりにあの夢を見ている。しかし、その内容は前回のような暦など無かった。その代わり何の変哲もない剣が一本浮かんでいた。装飾などもなく、何の特徴のないその剣は、ただいつものように空中に空中に漂っている。


 「剣か…。」


 カシムはそう呟き、剣に近づいていく。


 バアン!


 カシムが剣に触れようとすると、何かに遮られ、吹き飛ばされた。


 「ハッ!?」


 カシムはその衝撃で目を覚ます。


 「どういうことだ?」


 カシムは夢について考え始めるが、ルキが部屋に入ってきたことで遮られた。


 「あら、起きてたの?」


 ルキはカシムと二人だけの時は、女性らしくしている。これはここ一か月程で、カシムが何度か「もっと女らしくしたらどうだ?」と言ったからだ。それ以来ルキはカシムの前では女性女性らしさを意識している。そのためルキは苦手な料理も練習し、今ではかなりの腕前になっている。


 「朝ごはんできてるわよ。」


 ルキはそう言ってカシムに微笑む。カシムは思考を打ち切り、ルキに言葉を返す。


 「分かった。すぐ行く。」


 カシムは服を脱ぎ、素早く着替えると部屋を出た。


 「いただきます。」


 カシムは席に着き今日の朝食を見る。今日はご飯とみそ汁、それに…、


 「目玉焼き?」


 カシムは思わず口に出してしまった。


 「目玉、嫌いだった?」


 ルキは少し目に涙をためながら聞いてきた。


 「い、いや!大好きだよ!」


 カシムはルキの涙を見て、目玉焼きを勢いよく頬張る。


 「うん、うまい!」


 その目玉焼きは本当においしかったらしい。ただ、組み合わせが悪い。ご飯に目玉焼きの組み合わせはカシムにとっては無しだった。


 「あ、そういえば…。」


 カシムが必死に目玉焼きとご飯を頬張っていると、ルキが一つの手紙を持ってきた。


 「龍の里から文がきてるよ。」


 ルキはそう言ってその手紙をカシムに渡す。


 「文って手紙か?俺に龍が何の用だ?」


 カシムは手紙を受け取ると、中身を確認する。


 「どんな内容だった?」


 カシムが読み終わると、ルキが聞いてきた。


 「何だ、読んでいなかったのか。病人が出て、それを直してほしいそうだ。」


 「それで?行くつもり?」


 「ああ、断る理由もないしな。ごちそうさまでした。」


 カシムはお皿を流し(カシム作)におき、身支度をする。


 「頑張ってね。」


 ルキはそう言ってカシムにキスした。


 「ああ、行ってくる。」


 カシムは顔を真っ赤にして家を出る。


 「朝から熱いね!」


 顔を真っ赤にしたカシムの様子から、里の龍人たちがカシムを冷やかす。


 「うるさい!」


 カシムは逃げるように里の外に出た。



 カシムは暫く走って、龍の里(龍は人化できないので家はでかい。)に着くと、まずは里の長のもとへと赴いた。龍の里の長は某アニメに出てくるなんでも願いをかなえてくれる龍にそっくりだった。


 「よう来てくれたな、龍人族の治癒士よ。」


 「いえ、懇意にさせてもらっている龍の呼び出しとあれば喜んできますよ。」


 カシムはそのあと少し雑談をした後、本題を切り出す。


 「で、患者はどちらに?」


 「しばし待て。なにせ流行り病らしく、患者をひとまとめにしておる故な。」


 龍の長は部下を呼ぶと、カシムを案内するように命令する。


 「こちらです。」


 カシムが案内されたのは講堂のような建物だった。


 「患者はどれくらいいるんだ?」


 「ざっと八十ほどでしょうか。」


 「そんなにいるのか?」


 「はい。」


 カシムは早速講堂に入る。


 「衛生面はしっかりしているな。」


 カシムは一番近くの龍に近づくと、診察を開始する。


 「これは…。」


 カシムはその診察結果に眉を顰める。


 「どうしました?」


 「毒だ。」


 「はい?」


 「だから、こいつらは毒のせいでこうなっている。」


 カシムは瞬時に患者の病状を見抜き、治療を開始する。


 「一気に治療する。目を閉じろ。」


 カシムの注意に、案内役の龍は素直に従う。


 「全回復パーフェクトヒール。」


 カシムは練り上げていた魔力を放出、魔法を構築し、魔法名を呟き発動させる。


 「な!?」


 その瞬間講堂が光に包まれる。案内役の龍は目をつむっても尚目を刺激する光量に驚きの声を上る。


 「終わったぞ。」


 カシムは後ろを振り返り、案内役の龍に終わったことを告げる。案内役の龍は驚きすぎてポカンとしている。


 「おーい。」


 カシムは彼の顔の前で手をひらひらさせる。


 「は!申し訳ありません。それにしてもすごい技量でしたね。まさか一瞬で終わるとは思いませんでしたよ。」


 「ま、原因がわかれば後はそれを取り除くことだけですから。」


 カシムは謙遜するが、これは教会の大司祭なんて話にならないレベルの回復魔法だった。


 「ありがとうございます!」


 患者たちは次々と起き上がり、カシムに礼を述べる。


 「いいよ。俺も一応医者だし、患者は見過ごせないんだよ。」


 カシムはそう言って、帰ろうとするがそれを制止する者がいた。


 「お待ちくだされ!ぜひ、私たちに礼をさせてくれ!」


 里の長がそうカシムを引き留めた。


 「礼なんていいよ。」


 カシムは例が欲しくてこのようなことをやっているわけではないため、断ろうとする。


 「ならばせめてお主のために宴をさせてくれ!うまい酒も用意させている。」


 「酒だと?」


 カシムは酒という言葉に反応する。カシムは酒には弱いが、酒自体はかなり好きなのだ。


 「ぜひ宴に参加させてくれ。」


 カシムの申し出に、龍の長はカシムに気づかれないように暗い笑みを浮かべる。


 もしカシムがこの申し出を断っていたら未来は違う方向に転がっていたかもしれない。

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