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今、カシムは大問題を抱えていた。異世界に来たものが、いや、地球でさえも問題になりえるであろう大問題を。そう…、
風呂がないのである!
「と、言うわけで風呂を作るぞ。」
「待て待てどういうわけだ?」
晩御飯を食べに来たルキが華麗なツッコミを決める。
「風呂がないなら、作るに決まっているだろう。」
「まず風呂とは何なのだ?」
「簡単に言うと、湯浴み機だ。」
「湯浴み?」
「水浴び。」
「なるほど!」
なぜ風呂は愚か湯浴みすら知らないのか小一時間問い質したいカシムだった。
「で?それはどんなものなのだ?」
まったくわかっていなかった。
「作るから見てろ。」
カシムはそう言って丸太と魔石を取り出す。
「風刃」
カシムが魔法名を口にすると、丸太が程よい大きさの板になった。
「火よ。」
カシムはそのまま魔石に火の魔法を付与していく。ちなみに詠唱はカシムのオリジナルだ。本当はしなくてもいいのだが、制度がわずかに上がるため魔法名や詠唱のほんの一部だけは詠唱する。
カシムは火の魔石を一枚の板に埋め込み、その板を起点に風呂をくみ上げていく。やがて立派な風呂ができた。
「よし。」
カシムは魔石に魔力を流し、お湯が出るか確かめる。
「…。」
魔石は反応するが、一向にお湯は出てこない。
「あれ?」
カシムは首を傾げ、風呂を確認する。
「あ!」
そう、カシムは重大なことを忘れていた。水の魔石を作り忘れたのだ。
「…。」
カシムはこの失敗を自分の中でなかったことにして、再度作り直そうとする。そこで気が付いた。
(これ、水の魔力も込められるんじゃね?)
カシムは早速水の魔力を魔石に注ぎ込む。
「できた!」
「おお、できたのか!?」
今まで空気になっていたルキが大げさに喜びを表現する。
「先に入ってよいか?」
「いいぞ。」
カシムは余った木の板を持って診療所の裏に回る。
カシムが風呂を作った部屋を出るころにはすでに服を脱ぎ始めていたので、もう入っているころだろう。ちなみにカシムは何も見ていない。別にルキの下着がウサギの刺繍が入っていたことなど知らない。本当ったら本当だ。
「ギャーーーーー!!!!!!!」
カシムがバカなことを考えて顔を赤くしていると、診療所の中から悲鳴が聞こえた。カシムは声の出どころ…、風呂へ走り出す。
「ルキどうした!?」
「熱すぎる…。」
ルキはそう言って気絶した。カシムはルキを治療しながら思い出した。
「そういえば魔石の出力調整するの忘れた。」
カシムの言い訳めいた呟きは夜の闇に消えた。
その後、起きたルキによって五時間にわたる説教があったとかなかったとか。




