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ちょっと短いです。
ドラゴン族の里に行き、カシムは治癒士として生きていくことにした。今カシムが不安なことは、里の者に受け入れてもらえるかどうかだ。
「大丈夫か?」
その不安を読み取ったのか、ルキが話しかけてくる。
「ああ、大丈夫だ。でも、なにかちょっとしたことがきっかけで世界を滅ぼすかもしれない。」
「お主が言うと冗談に聞こえないところが怖いな。」
「冗談じゃないからな。」
「なっ!?」
ルキは慌ててカシムから距離を取る。
「冗談だ。」
カシムはルキのほうを向いて言う。本当は割と本気で言っていたのだが、カシムは笑ってごまかした。
「しかし、戦闘の腕は知っているが、治癒の腕はどうなのだ?」
「死んでも数秒なら蘇生できるんじゃないか?」
これは本当である。カシムはカミールが死ぬ間際、ずっと治癒魔法をかけ続けていたため、カミールはあそこまで話せたのだ。本当だったら、あの半分もしゃべらずに死んでいる。
まあ、あれは魂がもう駄目だったが、傷ならどんなに重症でも瞬時に直すことができる。カシムはそれをルキに伝える。
「お主は本当に何でもできるのだな。」
ルキは感心したように言う。
「ああ。でも、守りたいものは守れなかった。」
「それは…、」
「俺のせいじゃない…、か?」
カシムはルキのセリフを遮りそう答える。
「いいや、俺のせいだ。俺のすべての力を使えばあんな結末にはならなかった。」
ルキには前を歩くカシムがどのような表情をしているのか分からなかったが、その背中から漂う迫力に押し黙った。
「もう誰も失いたくない。」
「私たちはいなくならないさ。」
ここでカシムは何を根拠に行っている!?などと言って怒ることもできたが、そうしなかった。ルキの言葉には決意が宿っていたからだ。それ故に、カシムはその言葉が慰めではなく、決意なのだと判断した。
「ありがとう。」
カシムのたった一言、小さすぎて聞き取るのも難しい声を、さすがはドラゴンとでもいうべきか聞き取ったルキがにやにやしながら、
「ん?今なんて言った?よく聞こえなかったな~。」
「ありがとう。」
今度はちゃんと聞こえるように言ったカシムだったが、ルキはいきなり取り乱した。
「お主本当に大丈夫か!?辛いことがありすぎて心が壊れたんじゃないのか!?それとも変なキノコでも食べたのか!?」
「おい、どういう意味だ?」
「お主が素直に謝るなど天地がひっくり返ってもあり得ない!」
力強く言い切ったルキに、カシムのアイアンクローが炸裂する。
「ほう、それはどういう意味だ?」
「き…!ち…。……く。」(聞いてくれ!違うんだ。さっきの言葉はそう言う意味ではなく)
「そうか。」
その日、その森から何かの叫び声が聞こえたとか。




