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そういえば、迷宮とダンジョンの違いについて今まで説明していなかったので今説明しますね。
簡単に言えば、迷宮が人が作った物で、ダンジョンが自然に作られたものです。
名前が変わっていたことに混乱した方がいたら申し訳ありませんでした。
愛する人、カミールを失ったユウは、呆然とその場にとどまっていた。いくら日にちがったっても動く気配はまるでない。
時折涙を流し、涙が枯れるとまた呆然とする。そのような日々が続いてふとカシムは思い出す。カミールの最期の言葉を。最後の願いを。
『あなたには幸せになってほしい。』
そう、カミールは確かにそういった。カシムは自分の姿を顧みる。この状態を果たして幸せというのだろうか。いや、言わない。カシムはダンジョンを出ることにした。
カシムはダンジョンを出たが、その瞳はダンジョンに入る前よりも虚ろだった。
カシムが入るときに絡んできたあの兵士たちは、カシムが出てきたことに驚き、そのあとカシムの状態を見て言葉を失った。体には傷一つついていないと思えば、服はボロボロで、目には光が一切なかった。これを見た人たちはカシムのことを歩く屍だと言われても信じるだろう。
ユウは町を出て、森を歩く。町に一番近い森だったが、そこにはルキがいた。
「主、おぬし。」
ルキはカシムの姿を見て、辛そうに顔をゆがめた。カシムはゆっくりと口を開く。
「カミール。」
「!?」
ユウがカミールの名前を口に出すと、ルキは顔を強張らせた。
「お前がカミールと一緒に戦ったことは知っている。」
「そんな…、」
ルキは絶望を顔に浮かべる。
「だが、俺もカミールに会い、その人となりを見てきた。」
カシムの言葉に、ルキは驚愕する。
「だから、もう神がどうとかは言わない。」
カシムの言葉に、驚きすぎて混乱しまくっているルキ。
「カミールの言いつけで、俺は幸せにならないといけないらしい。とりあえず、お前の村で治癒士としてやっていこうと思うんだが。」
「べ、別に構わないが、戦士ではなくて治癒士か?」
ようやく立ち直ったらしいルキがそう聞いてくる。カシムはタオに一層深く影を落とし、
「もう、戦いたくない。」
カシムから出たとは到底信じられないような震えた声でそう言った。
「分かった。我が主、ユウよ。そなたを里の住人として歓迎しよう。」
「ああ、俺はカミールの眷属になったから、神名がついて、カシム・シンドラッドになったぞ。」
「それは失礼いたしました。カシム様、里に参りましょう。」
カシムはカミールの名前を言う瞬間、辛そうな顔をしたが、何とか取り繕い、ルキに返した。
「カシム様。」
ルキが恐る恐るカシムに話しかける。
「なんだ?」
「泣いてもいいんですよ?」
「は?」
突然そんなことを言い出したルキに、カシムは怪訝そうな顔をする。
「カシム様、あなたは今、とても苦しそうです。」
「そんなこと…、」
「自覚していますか?あなたは今、こうして私と話している間も涙を流していますよ?」
カシムは自分の頬に手を当ててみる。すると指先が濡れた。そこで初めてカシムは自分が涙を流していることに気が付く。それを知ってしまったら、あとはもうダムが決壊するかのごとく涙が出てくる。
「俺は…、カミールを!」
「ええ、あなたは悪くないわ。」
「うう、うああああ!!!」
カシムは人化したルキになだめられながら泣いた。何分も、何時間も。やがてカシムが泣き終わると、その心はダンジョンから出てきた時とは比べ物にならないぐらい晴れていた。やはり、長い間生きるルキにはそれなりの貫禄があるのだろう。
それはそうと、カシムはルキの里に向かった。カミールの言いつけ通り幸せになれるかはわからないが、そうなれるよう努力することをカミールに誓うカシムだった。




