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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
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33

 翌日、朝起きるとカシムの枕元にはカミールの字で書かれたメモがあった。


 『起きたら修練場まで来てくれ。』


 メモには短くそう書いてあった。それもどこか文字がかすかに波打っているように見える。まるで震えながら書いたかのように。


 修練場というのはユウが作った広大な空間のことだ。大きさとしては東京ドーム三個分はあるだろう。ちなみに昨日の実験はこの修練場でやった。


 昨日の実験だが、【武軍】によって体を作ると、一秒ごとに膨大な魔力を食うことが分かった。まあ、カシムにとっては微々たるものなのだが。


 それはともかくカシムは朝食を手短に済ませて修練場に向かう。


 「おーい。来たぞ。」


 修練場のドアを開け中に入ると、カミールが修練場の真ん中あたりに立っていた。


 「来たか。」


 カミールはそう言ってカシムのほうを振り返る。しかしカミールは能面のようなものをかぶっており、表情を確認できなかった。


 「どうしたんだ?その仮面は。仮装か何かか?」


 「違う。」


 カミールはきつい口調で否定する。


 「じゃあ、何なんだよ?」


 カシムは若干混乱しながら聞く。


 「それは…。」


 その瞬間、カミールから魔力が迸った。


 「な!?」


 カミールはカシムに向かって走り出す。その速度は軽く音速を超える。


 「やめろ!」


 「やめない。」


 「何でこんなことをするんだ!?」


 「あなたが強すぎるからだよ!」


 「俺が強すぎるから?」


 「そう、あなたの強さは異常。後々その力は邪魔になるかもしれない。だから今あなたを殺す!」


 そう話している間も二人の攻防は続く。カミールの拳をカシムが受け止め、カミールの魔法をカシムが霧散させる。


 「何故だ!?俺はお前の眷属だぞ!」


 「それでもその力は危険すぎる!」


 カミールが放った雷魔法がカシムに迫る。


 「水壁。」


 カシムは純水の壁を作り、魔法を防ぐ。


 「まだまだ!」


 カミールの攻撃を続ける。踵落とし、槍による突き、各属性の魔法。そのすべてをカシムは傷一つつかずにさばいていく。


 「あなたは強すぎる。いずれ私の邪魔になる。だから今死んで。」


 そういったカミールの表情は仮面のせいで見えないが、唯一見える目からは何の感情も読み取れなかった。


 (ああ。)


 カシムは理解した。カミールは本気なのだと。カシムはその時、自分がカミールに向けていた感情を自覚する。


 「ふん!」


 カシムはカミールが放った槍による突きをバックステップで避けると同時に距離を取る。


 「分かったよカミール君がそういうなら俺は全力で抗おう。」


 そういってカシムは収納にしまってあった『雷帝』を取り出す。


 カシムが『雷帝』を取り出した瞬間場の空気が変わった。空気でさえ、『雷帝』とその主に恐怖したのだ。


 「死ね!」


 カミールはものすごい速さで突っ込んでくる。しかしそれはこの世界の生物にとってだ。カシムにはまるで止まっているように見えた。


 「ああああああ!!!」


 カミールは雄たけびを上げながら迫ってくる。


 両者の距離が五十メートルを切ったところでカシムは『雷帝』を構える。


 両者の距離が十メートルを切った。カシムは声を出さずに口だけを動かす。


 「カミール、愛してる。」


 カシムにカミールを殺す気はなかった。彼女が望むのなら、カシムはいつでも死ねる。それほどまでにもカミールの存在はカシムの中で大きなものとなっていた。


 両者の距離が二メートルを切った。もうとっくに槍の間合いだ。カシムはそっと目を閉じる。最後は、愛する者手で死にたい。何かの漫画だったか小説だったかでそんなことを誰かが言っていたような気がする。それを呼んだときはこいつバカじゃねえのか?などと思っていたカシムだったが、この時になってその気持ちがわかるようになった。


 ザシュ!


 刃物が肉を割く音が聞こえてくる。カシムはその音を聞き、自身の生の終わりを意識した。


 しかし、いつまでたっても死どころか痛みすらも感じることはなかった。そのためカシムはそっと自分の目を開ける。


 「!?」


 目を開けると、そこにはカシムの刀に自ら突っ込み、胸から刃をはやしているカミールがいた。


 「う、うあああ!!!」


 カシムは慌ててカミールから刀を抜き、カミールを横たえる。慌てて回復魔法をかけようとするが、それはカミール自身に止められる。


 「やめろ。私はもう助からない。」


 「そんなことない!俺の回復魔法なら!」


 「そういう問題ではない。私はこの傷がなくても、今日の日付が変わる前に死んでいただろう。」


 魂の損傷が激しかったカミールは自身の死期を悟り、このような行動に出たのだと聞き、カシムは混乱した。


 「でも、俺が邪魔なんじゃ!?」


 「それはお前に武器を持たせるためにそう言っただけだ。」


 「でも、なんでこんなこと?!」


 「お前のためだ。」


 「え?」


 「お前の能力は、相手のすべての力を自身の力に還元することだ。それを使って、お前に神としての私の力を渡したかった。」


 カミールはそう言って仮面を取り、カシムに微笑む。


 「そんな…。」


 「カシム、お前は生きてくれ。復讐など考えずに、幸せになってくれ。私に分も幸せに。」


 「無理だ!俺は全てを失った。叔母も、君主も、俺の世界から来た仲間も。しかも仲間は俺が殺した!」


 「それでも、お前…いや、カシム。お前には幸せになってほしい。それだけが私の望みだ。」


 「それじゃあ、なんでこんなことをしたんだ!?」


 「それは…、ゴフッ!」


 カミールはセリフの途中で血を吐いた。


 「カミール!」


 「大丈夫だ。言わせてくれ。」


 カミールは大きく息を吸い込み、絶え絶えになりながらなんとか声を絞り出す。


 「私が…、こんなことを…、した理…、由は…、」


 「ああ、俺はここにいる聞いているぞ!」


 言葉を紡ぐごとに、カミールの目は光が失せていき、焦点が合わなくなっていく。そなためカシムはカミールの手を取る。


 「死…、ぬなら…、せ…、めて…、」





 愛した男の手で死にたい。





 「カミール?カミール?おい、返事をしろよ!カミール!」


 カミールの言葉は最後まで続かず、途中で終わってしまった。


 「カミール!!!!!!」


 カシムはすぐに魔力を練り、魔法を発動させる。


 「ユグドラシル!」


 カシムは治癒魔法の最高位の魔法をさらにカシムが改良したものをカミールにかける。本来、この魔法を使えば死んだものでさえ生き返るのだが、魂が死んでしまったカミールは帰ってこない。


 「ユグドラシル!ユグドラシル!ユグドラシル!」


 カシムは何回も何回もカミールに魔法をかけていく。


 「くそ!くそ!くそ!」


 しかし何回魔法をかけたところでカミールは蘇らない。


 「うああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 カシムは天井に向かって叫んだ。


 それは愛する者の死に対しての叫びか、愛するものをその手にかけてしまったことへの叫びか、カシムが作った三百の兵士たちにも、カミールの影響で生まれた精霊たちにもわからなかった。


 この日、『雷帝』カシム・シンドラッドは愛するもと、生きる意味をなくしてしまった。

さて、どうだったでしょうか?カミール死んでしまいましたね。


でも大丈夫!この小説はハッピーエンドです!


まあ、分かっているとは思いますが、カシムの生きる意味は、カミールに使えること、カミールのそばにいること。とりあえずすべてカミールがらみです。カミールが死んだところで、その生きる意味をなくしてしまったというところですね。


何かやってほしい閑話の内容などがありましたら、ジャンジャンリクエストください!

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