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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
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28

こういう展開は初めて書くので、変なところがあります。

 カミールの話を聞き終わり一息つくと、カミールが口を開いた。


 「時にユウ、お前は何故神を憎んでいるんだ?」


 カミールはそう言って首をかしげる。


 「ああ、そんなことか…、」


 ユウはカミールに話した。勇者召喚のこと、園香のこと、レナのこと、あの兵士が最後に呟いた言葉のこと。包み隠さず、嘘を混ぜず、真実をすべて話した。その話をしている間カミールはずっと拳を握り締めていた。


 「それで死に場所を求めてここに来たわけだが、だんだん死ぬのがバカらしくなって神に復讐してやろうと思ったんだ。」


 「そうか。」


 カミールはユウが話し終わると、下を向いた。


 「どうした?」


 ユウはカミールの異変を感じ取り、質問する。


 「…お前はつらくないのか?」


 「何?」


 カミールの口から出てきたのは同情や批判などといったものでもなく、質問、確認のようなものだった。


 「ユウ、お前はなぜそんなに普通に話せる?大切な人間を失ったのだろう?なぜ泣かない?お前は…。」


 「じゃあ…。」


 カミールの言葉は、ユウによって遮られた。


 「泣けばレナが、園香が帰ってくるのか?」


 ユウの瞳には何も映っていなかった。ただただ暗く、醜い光を灯している。


 「寝たらレナが、園香が夢に出てくるんだ。レナは槍に貫かれながら俺に怨嗟の言葉をかけてくる。『お前が王都を離れなければ。』『お前がもっと早く戻っていれば。』。園香は刺さっている剣を抜こうとせずに俺を責める。『お前がもっと強い力を持っていれば。』『お前が異端でなければ。』『お前が私の親せきでなければ。』」


 ユウは右手を机の上に置いた。


 「それは!?」


 ユウが机に置いた右手は、強く握りすぎたせいで爪が皮膚に食い込み、血が流れていた。


 「何度後悔したかわからない。俺の能力を王に教えなければ、俺がルキをすぐに里に返していたら。考えたらきりがない。それに忘れようとしても、寝たらまたあいつらが俺を責めに来る。俺はこの罪を一生背負っていかなければいけないんだ。」


 カミールはユウの迫力に圧倒される。


 「辛くないかだと?なぜ泣かないかだと?十分辛かったし、十分泣いたさ。それでも、こうやっていないと気が狂いそうなんだ。それに俺のステータスを見ただろ?種族の欄を見たか?生物のようなものだってよ。俺はもうとうの昔に壊れている。人間として壊れ切っているんだ。だから俺は…。」


 ユウが言葉を続けようとすると、カミールが優を抱きしめる。


 「もういい。もういいんだ。お前は悪くない。」


 カミールの腕に包まれながらユウは反論する。


 「何がいいんだ?レナや園香が死んだことか?それとも…。」


 「違う。もう自分を責めなくていいんだ。お前は、ただ不幸な運命のもとに生まれただけだ。」


 ユウはカミールの腕を振り払う。


 「運命なんて言葉でレナや園香の死を受け入れろと言うのか?!そんな目に見えないもののせいであいつらは死んだのか!?」


 ユウは涙を流しながらカミールに問いかける。ユウは俯き、カミールの言葉を待つ。


 「そうでも思わないとやっていけないんだ。」


 ユウはハッと顔を上げ、カミールの顔を見る。


 (そうだ。こいつも神によって人生をゆがめられたんだ。神であるカミールでさえそうなら、これは運命で片づけるしかない事柄ということか。)


 「この世界は醜い。この世界は儚い。この世界に住む者も醜い。しかし、それぞれの人生がどうであれ、先に進まなければならない。時には辛いこともあるだろう。悲しいこともあるだろう。それでも、この地面に足をつけている限り私たちは立ち止まれない。それに、運命は決められているかもしれないが、どの運命をたどるかはお前次第だ。幸いお前には力がある。神をも滅ぼす力が。お前は、運命に縛られることはない。」


 カミールの言葉は、果たしてユウの心に響いたのだろうか。響いたにしろ響いてないにしろ、カミールの言葉は完全に凍てついていたユウの心を少し溶かした。


 「確かにあいつらが死んだのは運命のせいかもしれない。でも、その運命も俺が選んだものだ。結局は全て俺のせいだ。」


 「それは違う。その者たちが死んだのはその者たちがそのような運命を選択したからだ。お前がどうあがこうと、その者たちが死ぬ運命は決まっていただろう。」


 「それでも俺は。」


 ユウは下唇をきつく噛み締める。


 「お前がその者たちの運命を否定することは、その者たちの人生を否定することになるぞ。」


 ユウは目を見開きカミールの顔を見つめる。


 「その者たちは、おのれの選択で今までの人生を生き抜き、そして死んだ。お前がその者たちの運命を否定するなら、その者たちの今までの選択すら否定することになる。」


 ユウは涙を流す。


 「俺はみんなを救いたかった。」


 「ああ。」


 「みんなともっと一緒にいたかった。」


 「ああ。」


 「でも今は一人だ。」


 「それは違う。」


 カミールはだんだん下がっていったユウの顔をつかみ、自分のほうを向かせる。


 「カミール?」


 ユウは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げる。


 「お前は一人ではない。」


 カミールはユウの目をまっすぐ見つめる。


 「私がいる。」


 カミールの言葉にユウは目を見開き、カミールの顔を見つめる。


 「私はお前のそばにいる。お前は一人ではない。」


 ユウはカミールの言葉を聞くと、生まれて初めて大声を出して泣いた。カミールはそっとユウを抱きしめ、頭をなでていた。



 いつの間にかユウは寝てしまった。カミールはユウを膝枕すると、荒い呼吸をする。


 「はあ、はあ。くそっ!もってあと二週間か。」


 カミールは顔をゆがませ、呟く。


 「まだだ。まだ死ぬわけにはいかない。」


 カミールは苦しそうに胸に手を当てる。


 ユウは知らないが封印されているときに生命力を抜かれたり、そもそも戦争で深手を負っていたため、カミールの命はあとわずかとなっていた。


 「もうすぐで死ぬというときにこいつが来るとは運命とはつくづく人が悪い。」


 カミールは悪態をつきながら床に入った。

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