18
ユウがいつもの時間に起きて、朝食をとっていると、しろのなかが騒がしくなってきた。兵士たちが城に中を走り回り、騎士たちが鎧を着こんでいる。
何があったのか気になったユウは、兵士の一人を捕まえて、何があったのかを聞く。
「ドラゴンが出たんです。」
ユウはその言葉に納得した。ルキがあれだからと言って、全てのドラゴンがあれなわけではない。事実、ドラゴン自体は三大獣王の一角を担っている。
「そのドラゴンですが、どうも古代種らしいんですよ。」
「ほう、どうして分かったんだ?」
ユウはそう言う兵士の言葉に、疑問を覚える。
「伝承などに出てくるドラゴンと特徴が一致したんです。」
この世界には、何万年も生きている魔物もいるらしく、そのように澄長命な魔物については、伝記や、童話に出てくるものもいるらしい。
「目撃したものの話では、銀色の鱗に覆われた、家よりも大きいドラゴンだったそうです。」
(ん?そのドラゴン、すっごい聞き覚えのある特徴をしているぞ?)
ユウは、内心汗だらだらである。しかしそんなことおくびにも出さずに、ユウはさらに質問する。
「ち、ちなみに、そのドラゴンの名前なんてわかるか?」
「名前はわかりませんが、伝記の中で龍帝と名乗っていたドラゴンと特徴が一致します。」
(ル~キ~!)
ユウは額に青すぎを浮かべ、その兵士に告げる。
「俺が対処しに行くから、お前はそれを上司に報告しに行け。」
「は、はい!」
兵士はユウの怒気を感じ取ったのか、声を震えさせながら走っていった。
「はあ、まったくあいつは…。」
ユウは一つ大きなため息をつくと、ルキが目撃された場所へと向かった。
ユウがルキが目撃された場所…、王都から一番近い山の裏側まで来ると、そこには日光浴をしているルキがいた。
ユウは、【気配遮断】のスキルを使い、ルキに近づいていく。
「このクソ竜がー!」
ユウはルキにキックする。もちろん、死なない程度に手加減している。
「ふぎゃ!」
ルキは、蹴られたところを抑え、蹲った。
「な、なんでお主がここに?」
ルキは、涙目になりながら聞いてきた。
「俺はこの近くの魔族の国で、魔王の護衛をやっているんだ。そういうルキこそ、なんでここにいるんだ?」
ユウは、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「うむ、もっともな疑問じゃな。我は、このドラゴンの人気スポットで、日光浴をしていたんじゃ!」
ルキが、ドヤ顔で言い放つ。トカゲの顔でドヤ顔も何もないが、ユウはドヤ顔をしていると判断した。
「うぜえ!」
ユウは、もう一度ルキを蹴る。
「げはあ!」
ルキは吹っ飛んでいった。
「待つのじゃ!真面目に話すから待つのじゃ!」
ルキは、さらに追撃しようとするユウを見て、焦ったように言った。
「まず、我がここにいる理由じゃが…。」
「真面目に話せよ。」
「分かってるわい!」
ユウの突っ込み、ルキは大げさに反応する。
「コホン。とりあえず、我がここにいるのは、休暇じゃな。」
「休暇?」
首をかしげるユウに、ルキは言葉をつづける。
「うむ。前に、わしは里の長をしておると言ったじゃろう?その里というのが、国みたいな物で、そのお里はすなわち王。その責務が終わったので、休暇でここに来たのじゃ。」
「で、なんでここなんだ?」
ユウが聞くと、ルキは真面目な顔になった。
「ここは、龍脈の力が強くてな、我ら魔物にとって、これ以上ないパワースポットなのじゃ。」
「なるほどな。でも、魔国の奴らがおびえてるから、今日は帰ってくれ。」
「むう、分かったのじゃ。」
ルキは少し残念そうにしながら、帰ろうとする。
「そういえばお前どうやって来たんだ?里ってのはそんなに近いのか?」
ユウが今更ながらにそう聞く。
「いや、さほど近くはないんじゃが。そうじゃ、お主、我の里に来てみんか?」
「いいのか?」
まさかの里への招待に、ユウは困惑する。
「いいのじゃ。で?来るのか?」
「じゃ、行くわ。」
ユウはそう言って、ルキの背中に乗る。
「いくぞ!」
そうしてユウたちはルキが納める里へと向かった。
ユウたちが里に着くと、子供たちが寄ってきた。
「ルキ様お帰りー。」
そしてユウを見つけ、警戒し始める。
ドラゴンの里と言っていたので、ユウはみんなドラゴンかと思ったのだが、全員人化できるようで、ルキしかいない。しかし、元はドラゴン。皆尻尾や、角が生えている。
「ドラゴンの里なのに、ドラゴンはお前しかいないんだな…。」
ユウは、隣にいるルキのほうを向き、絶句した。そこには、美女がいたからだ。銀色の髪を腰まで伸ばし、髪に合わせた白いワンピースを着ている美女は、呆けているユウを見て、首をかしげる。
「どうしたんじゃ?おぬし。」
「お前、ルキか?」
ユウがそう問いかけると、その美女は力強くうなずく。
「そうじゃ!驚いたか?」
「人化できるなら、最初からそうしろ!」
ユウは、人化すれば食料が無駄に減ることがなかったことを、ルキに説教した。すると、里から一人に青年がこっちに向かってきた。その青年はユウとユウに説教されているルキを見て、怒りをあらわにする。
「貴様!ルキ様に何たることを!」
「お前が人化すれば、俺が飢えることもなく…。」
「おい!聞いているのか!?」
「竜のお前の胃袋はでかいんだから…。」
「貴様ぁ!」
ついには青年がユウに殴りかかった。ユウはそれを受け止めると、青年を地面にたたきつける。
「うるさい。」
若干威圧を込めてそう言うと、青年はそれ以上話さなくなった。
その後、ユウの説教は数時間続いた。
「なるほど、あなたがルキ様の主なのですね。」
「ああ、そうだ。」
説教を終えたユウは、里の子供と戯れながら、先程の青年と会話をする。
「そうとは知らず、とんだご無礼を。」
青年はそう言って、深々と頭を下げる。
「いいって。普通、自分の主があんな扱いをされればああなるから。」
ユウは青年のことを笑って許す。
「ありがとうございます。私の名前は、ルマークです。」
「そうか、俺はユウだ。よろしく。」
「こちらこそ。」
そういって、二人は握手をする。
その間、ユウはずっと子供たちと戯れている。ルキなどは、「さすが主じゃ。」とつぶやいている。
そのまま子供と戯れ、太陽も上がり、そろそろ昼飯時だというとき、ユウは帰ることにした。
「なんじゃ、もう帰るのか?」
ルキは残念そうに言う。
「ああ、護衛がいつまでも護衛対象から離れるわけにはいかないだろ?。」
ユウはそう言って笑う。昼飯が終われば、レナの勉強を見るからというのもある。
「と、いうことで頼むぞ。」
ユウはそう言うと、ルキをドラゴンの姿に戻し、その背中に乗る。
ルキは翼をはばたかせ、宙に浮く。そしてどんどん加速していく。ドラゴンの里は、あっという間に見えなくなる。
「やっぱり早いな。」
ユウがつぶやくと、ルキが嬉しそうな声で、
「じゃろ。」
と言ってきた。
しばらくして、もうすぐ王都に着くときになると、ルキが口を開いた。
「血の匂いじゃ。」
「何?」
ユウは思わず問い返す。
「血の匂いがする。この方角は…、!王都じゃ!」
「何だと!?」
ユウはルキの背中から飛び降り、【身体強化】をフルでかけ、空中に結界を張ってその上を走りだした。その速さは、ルキですら目で追えないほどだった。
だんだん王都に近づくにつれ、煙が見えてきた。
「くそっと!」
ユウの頭に、最悪に事態が映し出される。