15
ユウがレナとデート?をした翌日、レナに勉強を教え終わり、部屋に戻ろうとするユウに、声がかかった。
「飲み会ですか?」
「ああ、お前は新参者だし、知り合いもいないだろうから、酒の席で交友を広げようと思ってな。ま、所詮お前の歓迎会というやつだな。」
若い兵士がそう言ってきた。彼は騎士団の小隊長だ。
騎士団には小隊、中隊、大体があり、二十人で小隊。小隊五つで中隊。中隊十個で大隊となっている。小隊、中隊、大隊には、それぞれ隊長と、副隊長がいる。
彼は、二十三歳という若さで小隊長になった。所詮エリートというやつだ。
「お誘いはうれしいのですが、まだ私は成人していないので酒は飲めないんですよ。」
ユウは、申し訳なさそうに誘いを断る。
「そうなのか、悪かったな。ちなみに、今何歳だ?」
「十七です。」
ユウの誕生日は五月で、転移してきたのが夏休みが終わった後なので、ユウはすでに十七歳だ。
「なんだ、なら大丈夫だぞ!この国の成人は十五だからな!」
「あ、それなら、ご一緒します。」
ユウは、急いで部屋に戻り、近衛兵専用の制服を脱ぎ、普段着に着替えてから、集合場所の、『マハモドの酒場』に向かった。
ちなみに、近衛専用の制服は、白地のコートの肩と背中に獅子の刺繍が入っている。それに合わせるため、ユウが着たのは真っ白のシャツとズボンだった。レナは、カッコいいと絶賛していたが、ユウはそうは思わなかった。
ちなみに、陰から見ていたメイドが、ユウの姿を見て暑い溜息を吐いて、目をハートにしていたが、ユウはそれに気が付かなかった。
とりあえず店に入ったユウは、先程の兵士を探す。
「おーい、こっちだ!」
ユウが入り口で立ち止まっていると、店の奥のほうの席から声がかかった。そちらのほうを見ると、先程の兵士と、他にも三人の兵士が一つのテーブルを囲んでいた。
「あ、お待たせていまってすみません?」
ユウは、席に着くと待たせてしまったことを謝った。
「いいっていいって。それより注文何にする?」
若い兵士はそう言ってウェイトレスを呼ぶ。
「酒のことはわからないので、お任せします。」
「分かった。じゃあ、こいつには初めてでも軽く飲める酒を。俺たちには、エールを頼む。」
若い兵士が、手早く注文をウェイトレスに告げる。
「さて、まずは自己紹介からだな。俺はレスガリッサ・オミハル。レスって呼んでくれ。軍の小隊長をしている。」
ユウを酒の席い誘った兵士は、レスというらしい。改めてみると、整った顔立ちをしている。金色の髪も、赤い瞳も彼の顔の良さをよく引き立てている。
「僕は、マティ・ブリッサ。僕はレスさんのところの副隊長をしている。」
次に自己紹介をしたのは、眼鏡をかけたザ・文官といった顔立ちの男だ。おとなしそうな顔で、人畜無害に見えるが、後で聞いた話によると、戦闘はいつもハンマーを使い、全てを叩き潰すことで有名な、元ハンターだとか。
これを聞いたユウは、人は見かけによらないもなだなあなどと思っていたが、その言葉が自分にも帰ってくることを、彼は気づいていない。
「俺は、ゴリ・ラー。レス隊長の部下だ。」
次に自己紹介したのが、いかにも重戦士といった風貌の、巨漢だ。これも後から聞いた話だが、彼は魔術師で、回復魔法が特に得意らしい。
ユウは突っ込むのを必死に我慢した。
「レガルフ。レス隊長の部下だ。」
最後は背が高い、真面目そうな女だ。男みたいな名前がコンプレックスらしい。彼女の部屋は、人形がたくさんあることで有名だ。
「俺の名前は、ユウ・ウミハラ。一応、近衛兵ってことになっている。この国、っていうか世界に来てから日が浅いから、よろしく頼む。」
ユウはそう言って頭を下げる。
「ちょ、何で頭を下げるんだよ!」
マティがちょっと慌てながら言う。
「俺がいた国では、自己紹介をしたら大体頭を下げていたぞ?」
所詮文化の違いである。
「そうか。この国では、そんなこと必要ないぞ。」
「分かった。」
ユウは素直に応じる。郷に入っては、郷に従えだ。
「お、ちょうど酒も来たことだし、飲みますか!」
レスはそう言って、それぞれに酒を配る。
ユウに渡されたのは、果実酒だった。
「それじゃあ、新たな出会いにカンパイ。」
レスの号令とともに、ジョッキをぶつけ、酒を飲む。ユウはジョッキに入っていた果実酒を一気に飲み干す。
「これ、おいしいですね。」
ユウの記憶はそこで途切れた。
俺はレスガリッサ・オミハル。魔国フリーダムの軍で、小隊長を務めている。つい先日、村へ視察をしに行った陛下が、死にかけの人間を連れてきた。その人間は起きると、何があったかは知らんが、陛下に忠誠を誓い、陛下はその男、ユウに恋をしているという。
その時は、陛下にようやく女の加らしい心が芽生えてきたと、部下と一緒に歓喜したものだ。
そのユウだが、今俺の前で酔っ払っている。
「それれ~、俺のころをいらんだっていっれ殺そうとするんれすよ!ひろいとおもいませんか!?」(それで、俺のことを異端だって言って殺そうとするんですよ!ひどいと思いませんか!?)
「あ、ああ。ひどい話だなそれは。」
俺は、自分は酒に弱いと思っている。しかし、ユウほどではない。何せこの男は、たった一杯でこの状態になったのだから。それも、アルコール度数が一番低い果実酒で。
「れしょ~。それでその後も軍がきらり、冒険者がきらり、休む時間らんれらかったんれすよ!」(でしょ~。それでその後も軍が来たり、冒険者が来たり、休む時間なんてなかったんですよ。)
「それは大変だったな。」
「そ~らんですよ!あ、お姉さん果実酒もう一杯!」(そ~なんですよ!あ、お姉さん果実酒脳一杯!)
ユウはそう言って、酒をもう一杯注文する。
「それれ、はれにはくらすめーろも俺を殺しにきれ、逃げたところれレナ、陛下に拾われらんれすよ。」(それで、果てにはクラスメートも俺のことを殺しに来て、逃げた所でレナ、陛下に拾われたんですよ。)
「そ、そんなことがあったのか。」
「はい!ほんろ、勝手に召喚するわ、命狙うわれ、最悪れすよ!あ、おねーさんありがと!」(はい!ほんと、勝手に召喚するわ、命狙いわで、最悪ですよ!あ、おねーさんありがと!)
ウェイトレスが持ってきたジョッキを受け取ってお礼を言うが、さすがのウェイトレスさんの顔もひきつっている。
「らいろ~!きいれるんれすら?」(隊長~!聞いてるんですか?)
もはやユウが何を言っているのかわからない。ユウは新しい果実酒をまた一気に飲み干す。すると、
「ふにゃ~。」
変な声を出して、寝てしまった。
「もう二度と、ユウに酒を飲ませるのはやめよう。」
他の三人も、力強くうなずいていた。
しかし、ユウがこんなに酒に弱いとは、思いもよらなかった。
夢の日まで、あと四十二日。