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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
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 ユウがレナとデート?をした翌日、レナに勉強を教え終わり、部屋に戻ろうとするユウに、声がかかった。


 「飲み会ですか?」


 「ああ、お前は新参者だし、知り合いもいないだろうから、酒の席で交友を広げようと思ってな。ま、所詮お前の歓迎会というやつだな。」


 若い兵士がそう言ってきた。彼は騎士団の小隊長だ。


 騎士団には小隊、中隊、大体があり、二十人で小隊。小隊五つで中隊。中隊十個で大隊となっている。小隊、中隊、大隊には、それぞれ隊長と、副隊長がいる。


 彼は、二十三歳という若さで小隊長になった。所詮エリートというやつだ。


 「お誘いはうれしいのですが、まだ私は成人していないので酒は飲めないんですよ。」


 ユウは、申し訳なさそうに誘いを断る。


 「そうなのか、悪かったな。ちなみに、今何歳だ?」


 「十七です。」


 ユウの誕生日は五月で、転移してきたのが夏休みが終わった後なので、ユウはすでに十七歳だ。


 「なんだ、なら大丈夫だぞ!この国の成人は十五だからな!」


 「あ、それなら、ご一緒します。」


 ユウは、急いで部屋に戻り、近衛兵専用の制服を脱ぎ、普段着に着替えてから、集合場所の、『マハモドの酒場』に向かった。


 ちなみに、近衛専用の制服は、白地のコートの肩と背中に獅子の刺繍が入っている。それに合わせるため、ユウが着たのは真っ白のシャツとズボンだった。レナは、カッコいいと絶賛していたが、ユウはそうは思わなかった。


 ちなみに、陰から見ていたメイドが、ユウの姿を見て暑い溜息を吐いて、目をハートにしていたが、ユウはそれに気が付かなかった。


 とりあえず店に入ったユウは、先程の兵士を探す。


 「おーい、こっちだ!」


 ユウが入り口で立ち止まっていると、店の奥のほうの席から声がかかった。そちらのほうを見ると、先程の兵士と、他にも三人の兵士が一つのテーブルを囲んでいた。


 「あ、お待たせていまってすみません?」


 ユウは、席に着くと待たせてしまったことを謝った。


 「いいっていいって。それより注文何にする?」


 若い兵士はそう言ってウェイトレスを呼ぶ。


 「酒のことはわからないので、お任せします。」


 「分かった。じゃあ、こいつには初めてでも軽く飲める酒を。俺たちには、エールを頼む。」


 若い兵士が、手早く注文をウェイトレスに告げる。


 「さて、まずは自己紹介からだな。俺はレスガリッサ・オミハル。レスって呼んでくれ。軍の小隊長をしている。」


 ユウを酒の席い誘った兵士は、レスというらしい。改めてみると、整った顔立ちをしている。金色の髪も、赤い瞳も彼の顔の良さをよく引き立てている。


 「僕は、マティ・ブリッサ。僕はレスさんのところの副隊長をしている。」


 次に自己紹介をしたのは、眼鏡をかけたザ・文官といった顔立ちの男だ。おとなしそうな顔で、人畜無害に見えるが、後で聞いた話によると、戦闘はいつもハンマーを使い、全てを叩き潰すことで有名な、元ハンターだとか。


 これを聞いたユウは、人は見かけによらないもなだなあなどと思っていたが、その言葉が自分にも帰ってくることを、彼は気づいていない。


 「俺は、ゴリ・ラー。レス隊長の部下だ。」


 次に自己紹介したのが、いかにも重戦士といった風貌の、巨漢だ。これも後から聞いた話だが、彼は魔術師で、回復魔法が特に得意らしい。


 ユウは突っ込むのを必死に我慢した。


 「レガルフ。レス隊長の部下だ。」


 最後は背が高い、真面目そうな女だ。男みたいな名前がコンプレックスらしい。彼女の部屋は、人形がたくさんあることで有名だ。


 「俺の名前は、ユウ・ウミハラ。一応、近衛兵ってことになっている。この国、っていうか世界に来てから日が浅いから、よろしく頼む。」


 ユウはそう言って頭を下げる。


 「ちょ、何で頭を下げるんだよ!」


 マティがちょっと慌てながら言う。


 「俺がいた国では、自己紹介をしたら大体頭を下げていたぞ?」


 所詮文化の違いである。


 「そうか。この国では、そんなこと必要ないぞ。」


 「分かった。」


 ユウは素直に応じる。郷に入っては、郷に従えだ。


 「お、ちょうど酒も来たことだし、飲みますか!」


 レスはそう言って、それぞれに酒を配る。


 ユウに渡されたのは、果実酒だった。


 「それじゃあ、新たな出会いにカンパイ。」


 レスの号令とともに、ジョッキをぶつけ、酒を飲む。ユウはジョッキに入っていた果実酒を一気に飲み干す。


 「これ、おいしいですね。」


 ユウの記憶はそこで途切れた。






 俺はレスガリッサ・オミハル。魔国フリーダムの軍で、小隊長を務めている。つい先日、村へ視察をしに行った陛下が、死にかけの人間を連れてきた。その人間は起きると、何があったかは知らんが、陛下に忠誠を誓い、陛下はその男、ユウに恋をしているという。


 その時は、陛下にようやく女の加らしい心が芽生えてきたと、部下と一緒に歓喜したものだ。


 そのユウだが、今俺の前で酔っ払っている。


 「それれ~、俺のころをいらんだっていっれ殺そうとするんれすよ!ひろいとおもいませんか!?」(それで、俺のことを異端だって言って殺そうとするんですよ!ひどいと思いませんか!?)


 「あ、ああ。ひどい話だなそれは。」


 俺は、自分は酒に弱いと思っている。しかし、ユウほどではない。何せこの男は、たった一杯でこの状態になったのだから。それも、アルコール度数が一番低い果実酒で。


 「れしょ~。それでその後も軍がきらり、冒険者がきらり、休む時間らんれらかったんれすよ!」(でしょ~。それでその後も軍が来たり、冒険者が来たり、休む時間なんてなかったんですよ。)


 「それは大変だったな。」


 「そ~らんですよ!あ、お姉さん果実酒もう一杯!」(そ~なんですよ!あ、お姉さん果実酒脳一杯!)


 ユウはそう言って、酒をもう一杯注文する。


 「それれ、はれにはくらすめーろも俺を殺しにきれ、逃げたところれレナ、陛下に拾われらんれすよ。」(それで、果てにはクラスメートも俺のことを殺しに来て、逃げた所でレナ、陛下に拾われたんですよ。)


 「そ、そんなことがあったのか。」


 「はい!ほんろ、勝手に召喚するわ、命狙うわれ、最悪れすよ!あ、おねーさんありがと!」(はい!ほんと、勝手に召喚するわ、命狙いわで、最悪ですよ!あ、おねーさんありがと!)


 ウェイトレスが持ってきたジョッキを受け取ってお礼を言うが、さすがのウェイトレスさんの顔もひきつっている。


 「らいろ~!きいれるんれすら?」(隊長~!聞いてるんですか?)


 もはやユウが何を言っているのかわからない。ユウは新しい果実酒をまた一気に飲み干す。すると、


 「ふにゃ~。」


 変な声を出して、寝てしまった。


 「もう二度と、ユウに酒を飲ませるのはやめよう。」


 他の三人も、力強くうなずいていた。


 しかし、ユウがこんなに酒に弱いとは、思いもよらなかった。






 夢の日まで、あと四十二日。

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