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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第一章 レムナット
14/148

13

 ユウは、また真っ白な空間にいた。


 (ああ、またか。)


 ユウは、あたりを見渡す。


 すると、いつものように浮いているもの、今回は槍があった。


 しかし、いつもと違うものもある。


 暦だ。大きな暦が、宙に浮いている。それはまるで壁のようで、浮いている槍よりも大きい。


 (何だこれは?)


 ユウは困惑しながら、暦を観察する。


 それは一見カレンダーのようだったが、地球のとは違う。大方、この世界のものだろう。


 しかし、この世界に来てすぐに気絶し、そのあとも教わる機会もなかったにもかかわらず、何故暦が優の夢に出てきたのだろうか。


 ユウは、悶々としながらさらに観察する。


 この暦によれば、この世界は一週間が六日で、それが月四回、十三か月で一年である。三百六十五日あった日本とは違い、こっちの世界は三百十二日しかない。


 そして、六の月、二の週の三日目に、『今』と書いてあるため、それが今日なのだろう。


 そしてもう一つ。七の月、四の週六日目に、丸がついている。


 「…ろ。」


 この意味は何なのか?ユウは必死に頭を働かせるが、一向に答えは出ない。


 「…きろ!」


 もう一回暦を確認する。丸が書かれている日に何かが起こるとして、あと四十五日しかない。ユウは、さらに頭を悩ませる。


 「起きろ!」


 ガン!


 大声とともに、ユウの頭に衝撃が走る。


 「!?」


 頭に走った衝撃のせいで、ユウの意識が一気に覚醒する。


 ユウが目を開けると、そこには銀色の髪を腰まで伸ばした、青い目の可愛らしい少女が、拳を振り上げた状態で、待機していた。


 「起きろ!」


 少女はそう言うと、拳を振り下ろした。


 「ちょ、起きてるか…。」


 ユウは最後まで言うことができず、再度ユウの頭に衝撃が走った。


 「お、起きたようだな!」


 少女は目を開けているユウを見ると、満足げにうなずく。


 「ああ、お前が殴る前から起きてた。」


 ユウがそう不貞腐れながら言うと、少女は、悪びれる様子もなく、


 「そうだったか!起きてたか!」


 というと、笑いながらベッドを降りる。


 ユウは、いつの間にかベッドで寝ていたらしく、寝間着に着替えさせられ、豪華な天蓋のベッドに寝かされていた。


 「いきなりのことで混乱しておるかもしれんが、準備が終わったらちょっと来てくれ。」


 少女はそう言って、部屋を出て行った。少女と入れ違いで入ってきたメイドたちが、ユウを着替えさせ、何処かへ案内する。


 ユウが連れてこられたのは、一回王国で見た謁見の間のようなところだった。ユウとメイドがその扉の前に立つと、扉がゆっくり開かれた。


 やはりそこは謁見の間らしく、扉からは赤いじゅうたんが敷かれており、絨毯の横を、兵士や分館が並んでいる。絨毯の奥には、王座があった。そして王座に座ていたのは、


 「うむ!よく来たな!」


 さっきの少女だった。


 「早速本題に入るが、お前は何者だ?何故、我々魔族が住む領域にいた?」


 そう、この少女も、さっきのメイドも、明らかに人間ではなかった。この少女には悪魔が持っているような角が生えていたし、さっきのメイドは肌の色が紫色だった。


 ユウは、ここが魔族の住む土地だという確証を得るが、警戒を緩めずに、少女の質問に答える。


 「俺は、王国に召喚された勇者だ。」


 ユウの発言に、謁見の間にいた者たちは、狼狽したり、剣を抜いたりと、慌て始める。


 「静かにしろ!」


 少女が一括すると、兵士や、文官たちはみんな押し黙る。しかし、警戒は緩めていないようで、兵士たちは皆、剣の柄に手をかけている。


 「続けろ。」


 少女が続きを促すので、ユウは話をつづける。


 「俺が持っている能力だが、還元といって、殺した者のステータスやスキルを、自分の力に変えるというものだ。そのせいで、異端だとされ、命を狙われたから、逃げたんだ。ここに来たのは、偶然かな。」


 ユウが話し終わると、魔族たちは混乱しているのか、ざわざわしている。


 やがて、文官の一人が優に質問してきた。


 「と、言うことは、我々と戦う意思はないのだな?」


 「ああ。」


 ユウは肯定する。


 「異端とは、どういうことだ?」


 他の文官が、ユウに質問する。


 「何でも、昔いた邪神が、俺と同じ能力だったらしい。それで、俺が異端だってことになった。」


 ユウは、またゴミを見るような目で見られることを覚悟して、正直にそういった。ユウには、とてもではないが、命を助けてくれた恩人に嘘をつくことができなかった。


 「じゃあ、何処を目指している?」


 今度は、少女…いや、この状況からすると、魔王が聞いてきた。


 「どこも目指していない。強いて言うなら、人間がいないところだ。」


 魔王はそれを聞くと少しの間考え、何かに思い至ったのかユウに向き直る。


 「それでは、この国にいるといい。ちゃんと給料も出すし、休みを与えるぞ。」


 その言葉に、その場にいたものはざわめきだす。


 「お、おれは勇者だぞ?」


 「知っているお前が言ったんじゃないか。それに勇者となると、強いんだろ?私の専属護衛になれ。」


 「俺は、異端者だぞ?」


 「それがどうした?この国に宗教などない。故に、異端もない。」


 「俺は逃げるとき、たくさんの人間を殺した。兵士はもちろん、俺を止めようとした一般人も、俺の寝込みを襲ってきた行商人も、それこそ数えきれないほど殺してきた。」


 「誰でも自分の命は惜しいものだ。時にはそうする必要もあるだろう。」


 ユウの目から、次第に涙が流れ落ちる。


 「何故だ!何故お前は俺みたいな今日あったばかりの人間に、そんなに優しくできる!?」


 ユウは、今までこの世界では、府の感情しか向けられなかった。


 そんな中、この少女が向けてくれた優しさは、正にユウにとって救いだった。


 ユウは、涙を見られないようにうつむくと、魔王に向け、答えを催促する。


 「答えろ!」


 「そ、それは…。」


 魔王は、顔を真っ赤にして、俯く。さらに、もじもじして、「だって…。」などと言っている。


 それを見た文官や兵士たちは、すぐに理解する。そして、顔をほころばせる。その顔は、正に父のそれであった。


 しかし悲しいかな。ユウは、俯いているため、その様子を見ていない。


「コホン!」


 魔王は、一つ咳払いをすると、口を開いた。


 「砂漠で倒れていた者を放っておけるほど、魔族は落ちぶれてはおらんよ。」


 ユウは、その言葉を聞くと、顔を上げる。その顔には、決意が籠っており、その場にいるものは、息を飲み込む。


 「あんたに忠誠を誓おう。」


 ユウはそう言って、跪く。


 ここに魔国、いや、世界最強の騎士が誕生した。



 夜、魔王上にあてがわれた一室のバルコニーで、ユウは星を眺めていた。地球とは違い、排気ガスによる空気の汚染も、街頭や、ビルの明かりもないため、地球では考えられないほどの輝きを星たちは放っている。


 「綺麗だ。」


 ユウがそう呟くと同時に、ドアがノックされる。


 「どうぞ。鍵は開いてる。」


 ユウがそう返すと、恐る恐るといった感じで、ドアが開かれる。


 「入るわよ?」


 入ってきたのは、魔王だった。


 ユウはすぐに跪き、謝罪の言葉を口にする。


 「申し訳ありません。陛下とは知らずに、とんだご無礼を。」


 ユウの謝罪に対し、魔王は少し驚いたようで、疑問を口にする。


 「なんでそんな風にしゃべるの?」


 「私は、あなたの配下です。そして、あなたは王。このような態度をとるのは、当然かと。」


 ユウは、配下としての態度を貫く。


 「そんなこと関係ないよ。私は、普通に接してほしいな。後、陛下も禁止。私には、レニーナ・ヴォン・デハートっていう、名前があるんだから。」


 そういって、レニーナは頬を膨らます。


 「では、レニーナ様と…。」


 「レナ。」


 「レニーナさ…。」


 「レナ。」


 「レナ様…。」


 「レナ…。」


 レニーナ、そう言って涙目になる。


 「…レナ。」


 ユウがそういうと、ぱあっと明るい顔になり、ニヨニヨしだす。


 ユウは謁見の間でのレナのことを見ていないため、レナのユウに対する恋心に気づいていない。


 「そういえば、あなたは何歳なのですか?」


 ユウがそういうと、レナはむっとした。


 (しまった。女性に、年齢の話は、禁句だった。)


 ユウが自分の失言に気づき、顔を青くしていると、


 「ユウ。」


 レナから声がかかった。


 「す、すみません!あまりにも若く見えるからつい!」


 ユウは必死になって謝る。採用初日に、不敬罪で処刑など、洒落にもならない。


 「ユウ、そっちじゃない。」


 ユウはかなりの罰を覚悟していたのだが、レナは自分が怒っているのは、それについてではないという。


 「それでは、何に怒っていらっしゃるのですか?」


 ユウがそう聞くと、レナはますます不機嫌になる。


 「ユウ!」


 「はい!」


 レナがかなり強めの口調で優を呼ぶ。


 「敬語禁止!」


 「はい!…え?」


 レナの口から出た言葉に、ユウは言葉を失う。


 「えっと…敬語禁止ですか?」


 「あ!また!」


 ユウが無意識のうちに使った敬語を、レナは咎めてくる。


 「次敬語使ったら、ご飯抜きだよ!」


 レナはそう言って、再度頬を膨らませる。


 「わ、分かった。これでいいか?」


 「うん!いいよ!」


 レナは嬉しそうに笑うと、ユウの隣まで来た。


 「ここは冷えるから、中に入ろう。」


 ユウはそう言って、レナの手を取り、部屋の中に入る。レナは小声で、「えへへ。」などと言って、頬を赤く染めている。


 「ちょっと待ってろ。今、紅茶を出すから。」


 ユウはそう言って、収納の中から熱々のお茶を出す。


 「ありがとう。」


 レナはユウが差し出したカップを受け取ると、フーフーと紅茶を冷ます。


 この紅茶は、部屋に置いてあったもので、先ほどユウが作り、収納に入れたものだ。収納には時間を止めてくれる機能があるため、いつでも熱々の紅茶が飲める。


 「で?さっきの質問だが、お前は何歳なんだ?」


 ユウの質問に、紅茶をチビチビ飲んでいたレナが顔を上げる。


 「八歳だよ。」


 「そうか、八歳か…て、え?」


 レナの衝撃の発言に、ユウは固まる。まさか、本当に見た目道りの年齢だったとは、思っていなかった。


 「八歳なのに、王をやっているのか?」


 ユウがそう聞くと、レナは紅茶の入ったカップを机に置き、ユウの目を見て話し始める。


 「私のお母様とお父様は、私が生まれてすぐに死んじゃったし、私以外に子供はいなかったから。」


 そういうレナは、どこか悲しそうだった。


 「今は、政務のほとんどをお父様以外来ていたころからいた宰相に任せているの。でも、私も勉強して、早く立派な王にならないと。」


 レナは、今まで一人で背負い込んできたのだろう、八歳という、王になるには幼すぎる年齢で王を務め、さらに政務までこなそうとする。ユウには、レナの生き方は、ひどく不器用に見えた。


 「みんなはまだそんなことしなくていいと言っていたけど、私は王なんだから、そういうこともちゃんとしないと。」


 レナはそう言って、机に置いてあるカップに手を伸ばした。


 「お前は今それで幸せか?」


 ユウはレナの手を取り、そう聞く。レナはいきなり手をつかまれて、困惑している。


 「今はそれでいいかもしれないが、こんな生活を続けていたら、いつか身を亡ぼすぞ。」


 ユウは、そう言ってレナの目を見つめる。


 「わかってるよ。でも、これ以外、私にできることなんて…。」


 そう言って、レナは俯く。


 ユウは溜息をつくと、レナの頭に手を置き、撫でながら話しかける。


 「明日、町に行くぞ。」


 「え?」


 レナはユウの言っている意味がわかあらないのか、聞き返す。


 「え?じゃない。明日、町に行って、遊ぶぞ。」


 ユウが再度そういうと、レナは困惑しながら返す。


 「駄目だよ。明日も、お勉強があるから。」


 「駄目じゃない。大体、俺が言った、遊びに行くは、現地調査も兼ねている。」


 「現地調査?」


 レナが首をかしげながら聞いてきた。


 「ああ。現地で、そこに住んでいる人は何が不満なのか、何をどうしてほしいのか、そういうのを調査しに行くんだ。」


 「うーん、でも。」


 どうやら、もう一押し通し必要なようだ。


 「俺にこの国を案内すると思って。」


 そういうと、レナは顔を伏せ聞こえるぎりぎりの声で言った。


 「そ、それってデート?」


 よくわからないが、ユウはそれを肯定しておく。


 「ああ、デートだ。」


 「行く!」


 レナはそう言ってユウに抱き着いてきた。


 「お、おう。」


 (女は、デートという言葉に弱いのか。)


 ユウは学習する子なのである。それがたとえ間違った知識でも。


 ユウは、扉のほうを見て、こちらを覗いていた者たちに、『これでいいだろ?』とばかりにウィンクする。


 ユウは、事前に宰相などからレナを遊びに誘うよう言われていたのだ。


 ユウから扉の外の者たちの姿は見えないが、もし見たとしても、見なかったことにしただろう。なぜなら、彼らは号泣していたのだ。


 幼いころから王として振舞い、女の子としての顔など、見せたこともない。


 そんなレナが、恋をして、デートをするとなると、たまらなく嬉しいのだろう。


 「それはそうとレナ、それが素なのか?」


 ユウは、謁見した時などとは違う、レナの年相応の話し方について聞いてみた。


 「ああ、いつもは王として振舞っているから。」


 そういって、「いや?」と、首をかしげる。


 「こっちの、年相応のレナの方が可愛いのに。」


 ユウがそう呟くと、レナは顔を真っ赤にして、「か、可愛い?私が?」と、どこかへトリップしてしまった。


 「おーい?レナ?」


 反応はないこれはダメなようだ。


 ユウは、トリップしてしまったレナをメイドさんに預けると、ベッドに横になる。


 しばらくすると、ユウから規則的な寝息が聞こえてきた。




 余談だが、レナが優に恋したことは、謁見の際にいた兵士や文官などからあっという間に王城内に広がり、ついには町全体にまで広がった。




 夢に出てきた日まで、あと四十四日。

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