126 光圀雄大
僕の名前は光圀雄大。訳あって、異世界にいる。
そもそも、僕は優れている人間だ。容姿もハリウッドスターが裸足で逃げ出すぐらいには整っている。それにスポーツもできるし、勉強もできる。性格もいいと思う。少なくとも性格が悪いと言われたことはない。家も、親が光圀財閥の総帥という地位にいるだけあって裕福だ。
だから、僕は失敗することも、誰かに何かで負けることも一生ないと思っていた。
でも、高校に入ってから僕は初めて敗北を味わった。
まずは勉強だ。中学校では僕はいつも学年で一位だった。それは高校でも変わらなかったけど、僕ははっきり負けたことを知っている。なぜなら、ある一人の生徒がいつも八十点を取っているのだ。一見大したことないように聞こえるが、その内容は驚愕に値する。その生徒は答案のぴったり八十パーセントを埋め、それを全問正解させているらしい。八十パーセント以上は絶対に取らない。いや、雪先生が受け持つ理科だけはいつも百点か。とりあえず、その生徒はどんな難しい問題でも、その八十パーセントに入っていたら解いてしまう。恐らくその生徒はやろうと思えば全てのテストで満点を取れるに違いない。
次にスポーツだ。これは明確な差があった。ある生徒がとんでもない身体能力と、スポーツのセンスを兼ね備えていた。持久力、瞬発力、投擲力、反射神経、僕がその生徒に勝てる物は何一つなかった。それだけ聞けばただ身体能力が高いだけと言えるかもしれないが、その生徒は違った。サッカー、野球、バレーボール、バスケットボール、柔道、剣道、テニス。その生徒は全てを完ぺきにこなして見せた。
その学校には僕以上の容姿を持つ生徒もいた。その生徒は決して僕みたいにカッコいいというわけではないが、その顔は母性本能を掻き立てる。あまり北条二課だとは言えないが、彼が笑えば女はその心をわしづかみにされ、彼が声を発すればそのまだ高い声に女は聞き惚れる。
さらに腹立たしいことはこれが全て一人の生徒の事だという事だ。その生徒の名前は繭澄椎名。
少し調べさせたが、彼は孤児だった。許せない。孤児のくせに僕を上回るなんて。
さらに、中学校からいつも一緒にいた詩帆も、高校に入ってからはいつも椎名と一緒にいる。
分からない。何故詩帆は僕ではなく、彼と一緒にいるのだろうか。
そんな時だ。僕たちのクラスは異世界に召喚された。
この世界には職業という物があるらしい。そして僕は『聖なる勇者』の職業を得た。この職業はかなり高位の職業らしい。
そして、椎名の職業は『雷帝』。椎名の職業のように二文字で表される職業は二文字と呼ばれ、差別されているらしい。
俺はこうして椎名に勝つことができるものが一つ増えた。
そう思っていた。でも、現実は違った。
それはクラスメイト達でトーナメントをやった時の事だ。僕は国王様から聖刀を授かり、さらにレベルも百を超えていた。
そして、僕の初戦は椎名だった。僕はチャンスだと思った。
ここで椎名を倒せば、詩帆がまた僕といるようになるかもしれない。椎名も詩帆たちを脅していたらしいし、そうなるに違いない。いや、いつも椎名と一緒にいる雪先生たちも僕と一緒に行動することになるだろう。
そんな馬鹿な。試合が終わった後僕が思っていたことと言えばこれだろう。
何せ僕は椎名に手も足も出ずに負けたのだから。
椎名は二文字、僕は最上級職。なのに負けた。椎名は苦戦すらしていなかった。どころか、汗一つかかなかった。
椎名は異常だ。あいつは危険すぎる。詩帆たちはそれがわかっていない。
早く俺が助けなきゃ。
そんな時に戦争が始まったと伝えられた。
僕たちは各々準備をして戦場へと向かった。
僕たちが砦に入って、しばらくたったら奴らは攻めてきた。
なかなか来たとの知らせが来ないから、引き返したのかと思ったが違ったらしい。
とにかく、僕たちは砦の防壁に上がり、魔族と亜人の混合軍を見据える。
彼らは整列すると、隊列の中から指揮官と思わしき魔族が出てきた。
彼女は自らを魔王と名乗った。
彼女ともう一人、獣王を倒せば僕たちは元の世界に帰れる。僕はそう思って、口角を吊り上げる。
そして予想外の事が起こった。
椎名が何かを呟いたかと思うと、目視するのも難しい速度で走り始めた。
彼はあっという間に混合軍の元までたどり着くと、混合軍の部隊指揮官と思わしき男と何かを話している。
しばらくすると、彼らは抱き合った。
とりあえず何が起こっているのかわからない。
「椎名!」
とりあえず、椎名の事は放っておこうとしたら詩帆たちが城壁を飛び降りようとしている。
「待って!」
僕は彼女たちを制止する。
「どこに行くつもり?」
「どこって、椎名のところだよ!」
いつも元気いっぱいのスミレちゃんが余裕のない声を出す。
「ダメだよ。」
「何でよ!」
「彼はもう反逆者だからだ。」
俺がそう言うと、彼女たちの動きが止まる。
「だから、もし君たちが椎名のところに行くのだったら僕は君たちをここで殺さなくてはならなくなる。」
「やってみなよ。」
瞬間、僕の体に得体のしれない悪寒が走る。僕はその悪寒を感じさせた声が聞こえたほうを振り向く。
「詩帆?」
そこには、杖を僕に向けて魔法を放つ準備を終えた詩帆が立っていた。
「ああ、最初からそうしていればよかったですね。」
そう言って、雪先生、紫音ちゃん、楓ちゃん、スミレちゃんも武器を構える。
「私たちの邪魔をするなら殺します。」
「な、なんでだ!?」
僕は問う。
「何で君たちは僕じゃなくて椎名を選ぶ!?」
分からない。何故彼女たちは僕を選ばない。
「君たちはあんな奴じゃなくて、僕といたほうが良いのに!」
「黙ってくださいよ。」
紫音ちゃんがそう言って、魔銃をコッキングする。
「私たちは何があろうと椎名のそばにいる。それにあなたなんて、椎名に比べればゴミ以下の存在なんだから黙ってなさい。」
いつもの優しい雰囲気とは打って変わって攻撃的な雰囲気の彼女は、僕を射殺さんばかりに睨む。
「さようなら。」
紫音ちゃん達はそう言って防壁を飛び降り、砦を出ていった。
それもこれも椎名のせいだ。
絶対に許さない。
絶対に・・・・・・・・・・、
コロシテヤル。
書いてて雄大バカすぎッて思ってました。
楽しんでいただけたら幸いです。
ブックマークとかいろいろよろしくお願いします。
読んでいただいてありがとうございました。