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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第三章 二度目の異世界
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125 レナ再び

「レナ・・・・。」


 俺は無意識に駆けだしていた。


「レナ!」


 俺は砦の防壁を飛び降りて、混合軍に向かって走る。


「待って!」


 砦から誰かの静止の声が聞こえるが、俺はそれを無視する。


 今はそれどころではない。そんなことのために足を止めてはいられない。


 俺は国境近くに展開している混合軍に物凄い勢いで迫る。


「止まれ!」


 その時、混合軍の兵士の一人から静止の声が掛かる。その兵士の外見にも、俺は見覚えがあった。彼はデハートでたったの二十三歳で軍の小隊長になった男、レスだった。


「久しぶりだな。」


 俺はレスに向かって笑いかける。ちなみに、レナはもう混合軍の中に引っ込んでいる。


「久しぶり?あいにくだが、俺はお前にあったお前はない!お前は何者だ!?」


「俺もお前と同じさ。デハート王国騎士団小隊長レスガリッサ・オミハル。」


「な!?なぜお前がその名前を知っている!?」


 槍を構えて警戒していたレスが、困惑を露にする。


「ユウ・ウミハラ。」


 俺が呟いた一言に、レスの目が見開かれる。


「ま、まさかお前は・・・。」


 レスは震えた指で俺を指さす。レスの後ろに控えている混合軍の兵士たちは、一部を除いて困惑の表情で俺達のやり取りを見つめている。


「あの時のことは、今でも後悔している。」


 俺は目じりに涙を溜めているレスに、語り掛ける。


「あの時俺がドラゴンを倒しに王都を離れなければ、お前たちが死ぬことはなかっただろう。」


「やっぱりお前は!」


「ああ、俺はユウ・ウミハラの転生体だ。」


「ユウ~!」


 俺が自分の正体を明かすと、レスが飛びかかってきた。それもそうか。俺のせいで死んだようなものだ。俺をそれこそ殺すほど恨んでいても不思議ではない。俺は目を閉じ、罰を受けるべくその場にたたずむ。


 しかし、俺が想像していたのとは違って、俺はレスに抱き着かれた。


「まさか・・・。まさか、また会えるとは思わなかった!お前がここにいるってことは、お前も死んだのか!?て、言うかあの後どうなった!?人間たちは!?お前はドラゴンと戦って死んだのか!?」


「待て待て!そんなに一遍に質問するな!」


 俺はレスを引き離す。混合軍の兵士たちは大多数の者が状況に追いつけずオロオロしているが、一部の兵士たちは涙を流している。恐らくその一部がレムナットからの転生者なのだろう。


「お前は俺を恨んでいないのか?」


 俺はある程度レスが落ち着いたのを見て、レスにそう問いかける。


「恨むわけないだろ!お前はドラゴンと戦うために王都を離れたんだ!お前を称賛する奴ならともかく、恨んだりする奴なんていねぇよ!」


「そうか・・・。ありがとう。その言葉で救われたよ。」


 俺は自分の視界がぼやける。目元を触ってみると、涙が流れていた。


「ありがとう。ありがとう、レス。」


 俺は泣きながらレスに礼を言う。それを見て、レムナットからの転生者であろう兵士たちが俺に温かい言葉をかけてくれる。


「また会えて嬉しいよ。」

「お前を恨んでいる奴なんているわけないだろ!」

「おかえり!ユウ!」


 その優しい言葉に、俺の涙腺はさらに緩む。


「ところでユウ。」


 不意にレスから声が掛かる。


「お前が人間の軍の方から来たってことは、レニーナ様を見たんだろ?会うか?」


「ああ、会わせてくれ。」


「お待ちください!レス隊長!」


 その時、混合軍の兵士から待ったがかかる。


「そのような得体のしれない者を陛下に会わせるなど!?何を考えているのですか!?」


「こいつは陛下に絶対の忠誠を誓っている。会わせることに何の問題もない。それどころか、陛下も会いたがっているだろう。」


「あなたに陛下の何がわかる!?」


「何の騒ぎだ!?」


 まさに一触即発の雰囲気になったところで、混合軍の隊列の奥から鈴のような声が上がる。


 その声にも、聞き覚えがある。先ほどのように魔法を使って大きくした声とは違い、その声は俺の耳に安らぎを与える。


 俺はその声の主に対し、デハート式の敬礼をする。レスたち転生者たちもそれに習う。


「その敬礼はずいぶんと久しぶりだな、レス。で、その男は?」


「私たちと同じものでございます。陛下。」


「ほう。となると、ゴーリアの民か。で、ゴーリアでの名前は何という?」


「ユウと言います。」


「・・・何?」


「俺のゴーリアでは、ユウ・ウミハラと名乗っていました。」


「ユウ・・・、なのか?」


 俺はそこで顔を上げ、レナに笑いかける。


「久しぶりだな、レナ。」


「貴様!レニーナ様になんて言葉使いで・・・。」


「ユウ~!」


 さっきレスに突っかかっていた兵士が何か言おうとしていたが、レナが俺に抱き着いたことで遮られる。


「会いたかった!会いたかったよ!ユウ!」


 レナは泣きながら俺との再会を喜ぶ。これは先程から困惑していた混合軍の兵士たちを目を見開く。


「ああ、俺も会いたかったよ。レナ。」


 俺はレナを抱き返す。レムナットでは俺のほうが大きかったが、今はレナのほうが大きいため、それはまるで兄弟が再開を喜んでいるようだった。勿論俺が弟だ。


 俺達はしばらく再開を喜び合うと、話をするために隊列の奥にあるという本陣に移り、話をすることにした。


 俺は十数年の歳月で経験した何を話すか考えつつ、レナの後をついていった。


 俺はこの十数年で一番幸せな気持ちを味わいながら、本陣へ入っていった。

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