123 参加表明
謁見の間を後にして、俺達は王城の食堂に集まる。王に「今一度戦うかどうかじっくり話し合ってくれ」と言われたからだ。
そして、俺達は雄大を中心として話し合いを始めている。さっきまで使い物になった物ではなかった雄大も、戦争が始めるとしては黙っていられなかったらしい。
「さて、これからのことだが、どうする?」
雄大がクラスメイト達を見回す。流石に初日は勢いに任せて参加すると言った彼らも、今、本当に戦争が始まったと宣言されたら決心が鈍ったらしい。何人か顔を背けているものがいる。
「僕はこの戦争に参加するよ。」
雄大の力強い宣言に、顔を背けていた生徒の一人が問いかける。
「お前は怖くないのか?」
「怖いさ。でも、僕には困っている人を放っておくことはできない。それに・・・。」
雄大はもう一度全員を見回す。
「僕は、君たちと元の世界に帰りたいんだ。今のところ帰る宛は戦争の報酬しかない。それなら、僕は戦うよ。この世界の人のため、そして君たちのために。」
俺は笑いそうになるのを必死にこらえながら、雄大の言葉を聞く。しかし、完全には隠しきれなかったらしい。雄大が鋭い目つきで睨んでくる。
「何がおかしい?」
「ああ、悪い。表情に出ていたか。いや、ただあまりにもめでたいなと思ってね。」
俺はそこで、笑みを顔に出した。雄大は俺をさらにきつく睨む。
「どこがめでたいって言うんだい?」
「おまえ、戦争がどんなものか分かっているか?」
俺は雄大の問いを問で返す。
「・・・軍と軍の戦いだろ?」
「違う。」
俺は雄大の答えを即座に否定する。
「じゃあなんだっていうんだ?」
「軍と軍の殺し合いだよ。」
俺は雄大に戦争とは何かを伝える。
「自分が殺さなきゃ殺される。そうでなくても、流れ弾で死ぬものも大勢いる。少し油断しただけで死ぬ。ほんの一瞬目を離しただけで隣にいたやつが物言わぬ屍になる。それが戦争だ。」
雄大は俺の言葉を聞き、瞳を泳がせる。
「そ、それは分かって・・・。」
「わかってないから言っているんだ。」
俺は雄大のセリフを遮ってそう言った。
「お前、さっきまで自分が死ぬなんて思ってなかっただろう?」
「ぼ、僕は勇者だ。僕はこの世界でも上位に入る強さだと団長が言っていた。」
「でも、お前は俺に負けた。」
俺の言葉に、雄大は息をのむ。
「お前は確かに勇者だ。確かにステータスの数値は高い。でも、それでも届かない高みがある。」
「君はその高みにいると?」
「いいや、違うな。」
俺は雄大の言葉を否定する。
「俺はその高みをさらに上から見下ろしている。」
「な!?」
俺の傲慢な物言いに、雄大が驚愕の声をあげる。
「それは・・・、傲慢だ。人間には限界がある。僕はその限界に今一番近づいている。」
「だろうな。でも、俺達はその高みを超え、人外の領域に足を突っ込んでいる。」
まあ、俺の場合は完璧に人外認定されているが。
俺が「俺達は」と言ったのが気になったのか、雄大が眉根を寄せる。
「「俺達」?」
「ああ、雪姉達はお前より何倍も強い。」
俺の言葉に、食堂ないが静まり返る。彼らは分かっていたのだ。それどころか、彼らは合点がいったと言ったような顔をしていた。
彼らは見ていたのだ。あのトーナメントを。そしてあのトーナメントを見ていた者ならば分かったはずだ。雪姉達の圧倒的な実力と、それを軽く凌駕する俺の力を。
「それでも!」
俺が話し終えると、雄大が食って掛かる。
「僕たちはやらなくちゃいけないんだ!」
俺はもう反論しない。こいつには無駄だと悟ったからだ。
「だって、僕らは勇者なんだから!」
雄大の口から謎理論が飛び出る。これに賛同する奴がいるとは・・・。
「そ、そうだ!俺は勇者だ!」
「私も、聖女だわ!」
「俺はやるぞ!なんてったって、俺は勇者なんだから!」
「俺もだ!俺もやる!」
「私も!」
「僕も!」
・・・・・このクラスにはバカしかいないらしい。とりあえず俺は雪姉に向き直り、指示を仰ぐ。
「雪姉、どうする?前にも言ったけど、俺は雪姉をの意見を全面的に受け入れる。」
「私は戦うよ。あの子たちが心配だし。それに、危なかったら椎名が守ってくれるでしょ?」
「まあな。せ、お前たちもそれでいいか?」
「いいですよ。」
「いいわ。」
「いいよ!」
「同じく!」
俺達は確認が取れたことで、改めて戦争に参加することをクラスメイトに伝える。
俺達は戦争に参加するための装備を整えることになった。勿論、作るのは俺だ。
さて、この戦争、どう転ぶにせよ厄介なことになりそうだな。