122 戦争宣言
王から葉隠れを返還するよう命令された数日後、俺達はまた王城の謁見の間に呼ばれた。そう、達だ。今回はなぜか俺だけでなく、雪姉達も謁見の間に呼ばれたのだ。
俺達は少し訝しみながら王城へとやってきた。
王城の門は顔パスだ。勿論、俺が通る番になると、露骨に嫌な顔をされるが、雪姉達が一睨みすればそれも引っ込む。
とりあえず、俺達は何回も通った道で謁見の前と向かう。
謁見の間に入ると、クラスメイトが揃っていた。どうやら呼ばれたのは俺達だけではないらしい。とりあえず俺達はクラスメイト達の後ろのほうで王を待つことにする。
「詩帆!」
そこへ、クラスメイト達の間から声が掛かった。
「雪先生!紫音さん、楓さん、スミレちゃん!その男から離れるんだ!」
雄大はものすごい剣幕でそう言った。
「何故?」
雄大の言葉に、楓が無機質に答える。
「何故って、君たちはその男に騙されているんだ!でも大丈夫!僕が助けてあげるから!」
「結構です。」
楓は冷たくそう言い放つ。
「な、なんで!?」
「私たちは自分の意志で椎名君とともにいるのです。あなたがどう言おうと、私たちは椎名君のそばを離れることはありません。」
その言葉に、雪姉達四人も頷く。
今更だが、この「椎名君」というのは子供扱いされているようで嫌なのだが、今言ってもしょうがないか。
俺がアホなことを考えていると、雄大が俺を睨みつける。
「そうか、洗脳だね?」
「は?」
「お前は詩帆たちに洗脳魔術を使ったんだ!そうなんだろう!?そうに違いない!」
雄大は勝手に一人で盛り上がっていく。
「そうだ、こいつを倒せば詩帆だっておれの事を・・・。」
つい先日俺にコテンパンにされた男とは思えない言動である。
その後も自身の欲望をぶつぶつ呟いていたが、いつの間にか謁見の間に入ってきていた王が声を張り上げる。
「静まれ!」
別にざわざわしていたわけでもないのだが、そう言い放った王はそのまま自身の王座に腰かける。
「勇者達よ、呼びかけに応じてくれたことを感謝する。」
そう言って王は頭を下げる。その光景になれたのか、初日のようにとやかく言う者はもういない。
「今日お主らを呼んだのは他でもない、お主らに時が来たのを伝えるためだ。」
「時…。ですか?」
いつもは雄大が王都のやり取りをしていたのだが、今はぶつぶつ言っていて使い物になりそうもないので雪姉が代わりに受け答えをする。
「うむ。まず、お主らは何故わしらがお主らをこの国に呼んだか覚えておるか?」
「魔族や亜人たちと戦うため・・・、でしたっけ?」
あまり話したことのない(話したことのあるやつのほうが珍しいが)男子生徒が王の問いかけにそう答える。
「そうだ。そして、今回お主たちを呼び集めたのもそれによるものだ。」
「まさか・・・。」
一人の女子生徒が王が何を言わんとしていたのか理解したのか、顔を青ざめさせる。
俺達は王が俺達に問いかけたあたりからあたりはつけていたが、まさか当たるとは思わなかった。
「そうだ。魔族と亜人たちが動き出した。」
王の言葉で、クラスメイト達はざわつく。
「実のところ、魔族領に兵が集結しているという情報は得ておった。だが、つい先日魔族領から我が国へと進軍してきた。」
王は俺達を見回すと、核心をつく言葉を口にした。
「戦争が始まった。」
王の言葉に、クラスメイト達は黙り込む。
こうして、俺達は俺達に全く関係のない戦争に参加することになった。