119 第一回戦
武闘大会当日、俺達は王都にあるコロシアムに来ていた。それは地球で有名な某コロッセオとほぼ同じ形だった。
この国では、このコロシアムのことを闘技場というらしい。
この前気が付いたが、この世界には英語などの日本語以外の言語の単語がない。その理由としては、俺達が神から与えられた能力にある。俺が今あえてスキルではなく能力と言ったのは、それがスキルになっていないからだ。
俺達が授かった能力は自動翻訳。いや、この世界『ルナミル』の言語だ。もしこれが全言語翻訳などのスキルや能力だった場合、その翻訳の能力は地球の言語、英語やイタリア語などのも影響するため、コロシアムや、オッケーなどの言葉も伝わる。
しかし、俺達が授かった能力は英語やその他の言語には対応していない。そのため、この世界では俺達は魔法の名前でさえ、『火球』や、『火槍』などに聞こえる。
閑話休題。
この武闘大会は丁度三十二人で行われる。
俺たちのクラス四十人のうち、雪姉やスミレを始めとした非戦闘職が八人いたからだ。それは生産職の生徒だったり、まだ眷属の数が十分ではない死霊術師のだったりする。
そして、この武闘大会の第一試合俺対『聖なる勇者』雄大だ。
俺はコロシアムの入り口で待機している。
『さあ!始まりました、勇者による武闘大会!今回は勇者のお披露目も兼ねて武闘大会が開かれたようですが、勇者たちの実力は騎士をしのぐほどに進化したと言われています!若干一人残念なのがいますが、数多くの勇者様が召喚されました!』
このコロシアムには今大勢の人が詰めかけている。実況もしているし、かなり盛り上がっているのがわかる。
『この武闘大会は第一試合から見逃せません!まあ、長い口上を延々と上げるより、見たほうが早いでしょう!では入場してください!『聖なる勇者』!ユウダイ・ミツクニ!』
雄大の名前が呼ばれた瞬間、鼓膜が破れんばかりの大歓声が上がる。
俺が待機しているのとは反対の入り口から、雄大が出てくる。
その容姿を見た女性は黄色い歓声を上げる。
『対するは召喚されたくせに二文字の職業を授かった無能!『雷帝』!シイナ・マユスミ!』
俺が入り口からコロシアムに入ると、雄大の時とは違う歓声が場を支配する。嘲笑だ。ブーイングまである。
俺は何とも思わないが、観客席にいた雪姉達が今にも殴りかからんばかりの形相で俺に罵声を浴びせている王都民たちを睨んでいる。
俺は別になんと言われたっていいが、雪姉達が問題を起こして、王国側に何かをされては面倒だ。俺はとりあえず、この観客たちを黙らせることにする。
「黙れよ。」
俺はその一言と共に、魔力を放出する。それは前に魔道学園の時と同じ黄金色の光を発生させる。その光は瞬く間にコロシアム全体を包み込む。
あの大歓声の中俺の声が聞こえたのかどうかはわからないが、とにかくコロシアムは静まり返った。
俺はゆっくりと放出した魔力を自身の体に戻す。
静寂に包まれた会場で、俺は収納から武器を取り出す。勿論取り出したのは雷帝と炎皇だ。
俺が武器を出したことで我を取り戻した審判が、試合開始の合図を出す。
すぐには試合は始まらず、睨みあう形になる。
「椎名君。」
「何だ?」
「君は詩帆たちの弱みを握って、彼女たちをそばに置いているそうだね?」
「は?いや、そんな・・・。」
「言い訳は見苦しいよ?」
とんでもないことを言い出した雄大に、俺は開いた口が塞がらない。それを悪事がばれたためと判断したのか、雄大は語気を荒げながら宣言した。
「僕は君に勝って、彼女たちを開放する!」
そう言って雄大はどこかで見たことある刀を抜く。
「この試合のためにこの刀を使えるようになったんだ!この、神から授かったという聖刀・・・・・。」
雄大は刀を抜くと、それを天に掲げる。刀は白く輝くと、雄大の魔力を纏い、その明るさを増していく。
「・・・・・・葉隠れを!」
俺は雄大が言ったその刀の名前を聞いて、自分の耳を疑った。
その刀の名は、俺が一番最初に作りだしたものだ。
俺は思わぬところでレムナットで使っていた武器と再会したのだった。