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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第三章 二度目の異世界
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113 雷帝にテンプレは通用しない

 ドン!


 迷宮に一発の銃声が鳴り響く。


 もしその音を誰かが聞いており、興味本位で音が鳴ったほうを見てみたら、きっと後悔したことだろう。


 なぜなら、その発砲音がなったところには顔を怒りに染めた女性が五人と、地面に伏せている騎士を見ることになるのだから。


 しかし、今の発砲は威嚇だったらしく、騎士のすぐ横の意地面に銃弾が通ったであろう穴が開いている。


「どういうつもりですか?」


 いつも静かに笑顔を浮かべている紫音が、底冷えするような声で騎士に問いかける。


「奴は勇者として召喚されたくせに二文字だった。この汚点を民に知らせるのなら、今殺したほうが賢明だろう?」


 騎士は何ら悪びれることなくそう言い放つ。


 ドン!


 もう一発なった銃性に、騎士はすくみ上る。


「そんな理由で椎名君を殺したのですか?」


 騎士は紫音のあまりの迫力に、「ひっ!」と小さな悲鳴をあげる。


「お、お前たちはこの世界において二文字の意味が分かっていないんだ!二文字は、奴隷や罪人など、忌み嫌われるべきものにしか与えられない!あいつも二文字なんだから、忌み嫌われて当然だ!」


「もういいよそいつ。」


 その時、紫音の声よりも悍ましく、まるで地獄の底から響いたような声が掛かった。


「雪・・・さん?」


 今の声を発したのは雪だ。それを認識した紫音は、彼女が浮かべる形相に、自然と彼女と騎士との間から逃れた。


「殺しちゃおうよ。」


 そう言って、雪は自分に支給された杖を構える。彼女に支給された杖は、木の杖の先に魔石が埋め込まれているシンプルなものだが、聖女が使うにふさわしい性能を持っている。確か、『治癒魔法強化』『魔力消費軽減』それと『無詠唱』が組み込まれているはずだ。


 だが、その武器も魔法を使うためのもので、決して撲殺するための物じゃない。さらに、この杖の先には魔石が埋まっているとはいえ杖自体は木で出来ているのだ。これである程度レベルの高い騎士を殺すには、かなり時間がかかる。


「ま、待て!俺を殺してどうする!?」


「知らないよ。そんなこと。ただ、椎名は喜ばないだろうけど私がやらなきゃ気が収まらないのよ。」


 雪の言葉に、騎士は絶句する。しかしその時、雪の後ろで動きがあった。


「待ってください。雪さん。」


 雪に待ったをかけたのは楓だ。いつも冷静な彼女だが、今の彼女からはおよそ表情という物がうかがえない。


 騎士は救いの手を差し伸べてくれた楓に、熱のこもった視線を向ける。


「私にもやらせてください。あなただけでやるなんて不公平です。」


 だが、楓が続けた言葉に騎士は絶望のどん底に突き落とされる。


「私にもやらせてください。」


「あ、私も!」


 詩帆とスミレもそれに便乗してきた。


 詩帆は暗い笑みを浮かべ、体中に魔力を巡らせ、いつでも魔法を放てる準備を整えている。


 だが、スミレは満面の笑みで参加の意思を伝えた。その笑顔はもし男が見たら、一瞬で虜になるような、もはや神々しいと言った感じの笑みだった。


 ある一部を除いて。


 騎士が満面の笑みで参加の意思を表明したスミレを見ると、ある違和感を覚えた。目が黒いのだ。いや、日本人だから目が黒いのは当たり前だが、それにしても黒いのだ。


 その瞳は何も映すことはなく、その瞳の奥にはただただ闇が広がっている。


 その目を真正面から見てしまった騎士は、ただ恐怖に震えている。


「な、何なんだお前たちは!」


 騎士は恐怖をごまかすように叫ぶ。


「あいつは死んだんだ!ただの二文字のあいつが!俺達にも、お前たちにも二文字のあいつが死んで不利益なんてないだろう!」


 騎士の言葉に、五人の殺気が強まった。


「誰が死んだって?」


 そこに、一人の男の声が響いた。その声の主は、今さっき奈落の底に落ちた男の声だった。


「「「「「椎名!」」」」」


 奈落に落ちたはずの椎名は、何事もなかったかのように空中に浮いている。


「おう、ただいま。」


 椎名はものすごく軽い口調で五人にそう言った。


「ありえん!」


 その時、騎士が声を張り上げた。


「お前は奈落に落ちたはずだ!何故ここにいる!?」


「飛んだ。」


 椎名は簡潔にそう返す。何も難しいことはない。ただ椎名は重力眼で浮かんで、風魔法を使ってここまで飛んできたのだ。


「そうだ、聞いてくれよ!」


 椎名は絶句している騎士を無視して、雪たちに話しかける。


「奈落の下で、たくさんの鉱石を見つけたんだ!」


 そう言って、椎名はたくさんの鉱石を収納から取り出す。


「底だけじゃない!途中の壁にも、たくさんあったんだ!」


 椎名は本当にうれしそうに笑った。雪たち五人は、それを見て今まで怒っていたのが嘘かのように顔を綻ばせる。


「で、こいつだけど・・・。」


 椎名はそう言って、騎士のほうを向く。


 騎士は腰が抜けたのか、手で地面を押して椎名から距離を取ろうとしている。


「殺すか。」


 椎名はそう言って、支給された刀を抜く。椎名は収納中に武器を持っているが、一応王国からも武器の支給を受けている。


「何か言い残すことはあるか?」


 椎名は最後の慈悲とばかりに、騎士に問いかける。


「死ね。二文字が。」


「それが最後の言葉で良いんだな?」


 椎名はその問いの答えを聞く前に刀を振り下ろした。騎士の首は簡単に切断され、悔しそうな表情の首を残して、胴体が崩れ落ちた。


「さ、帰ろう。」


 椎名は何事もなかったかのように迷宮の出口へと歩き出した。雪たち五人も、それが当然とばかりに椎名の後をついていく。


 椎名は騎士の頭部を収納にしまうのを忘れず、その場を去った。

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