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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第三章 二度目の異世界
111/148

108 正体

 私、浜野雪は孤児だ。物心がついたころにはもう両親はおらず、孤児院で過ごしていた。


 両親がいなくても私は幸せだった。そして、孤児院で生活していくうちにいくつもの別れや、出会いをした。その一つが椎名との出会いだ。


 最初彼にあった時、彼の目は絶望で染まっていた。


 彼は最初のほうは決して他人を近づけようとしなかった。そんな彼がだんだん他人に心を開いていって、私がどれだけ安堵したか。どれだけ嬉しかったか。


 とにかく、そんな彼と過ごして、気が付けばもう十年以上もたっていた。この十年間色々あった。一番印象に残ったことと言えば、小学校に入学したその日に友達を作ってきたことだろうか。


 彼とはある時から二人で住むようになった。孤児院が焼け落ちた時からだ。


 だから、私は彼のことを全てとはいかないが、彼についてたくさんのことを知っていると思っていた。


 しかし、何の因果か、私達が異世界に召喚されてから、今まで見たことのない彼が現れ始めた。


 まずは、その戦闘力。彼はこの世界に来てまだ一日しかたっていないにもかかわらず、騎士の一人を圧倒した。


 さらに、食事の時私たちの食事とは明らかに格が違う食事を出されたとき、何処からか取り出した食事を食べだした。しかも、その食事はものすごくおいしかった。聞けば、その食事は他の世界の食材を使っているらしい。


 この世界の物でも、ましてや地球の物でもない。そんな食材を使った料理を、何処でどうやって手に入れたのか、私には想像もできなかった。


 「と、いうわけなのよ。」


 私はそれを今この場にいる四人に話した。その四人とは、紫音、楓、スミレ、詩帆のいつものメンバーだ。


 「確かに、謎ですよね。」


 そう言って、紫音、楓、スミレの三人が頷く。


 聞けば、彼女たちは地球の魔術師らしく、椎名とはその学校であったらしい。そして、椎名は元々無能と呼ばれていた彼女たちに戦うすべを与えたという。


 トリガーハッピーの紫音にはその性格の矯正と最新の武器の数倍、いや、数十、数百倍の性能の武器を与えた。


 知識はあるがその魔法を発動させるセンスが皆無だった楓には、彼女に合った戦い方と、それに必要な武器を与えた。


 陰陽術の一つ、札術を使うスミレは、その発動に無駄が多すぎ、発動しても大した威力も、早さもない。しかし、椎名は彼女が補助札の才能があると見抜き、それを教えたらしい。驚くことに、その補助札は椎名が作った物らしい。


 私たちは地球に魔術があったことに驚くが、今はそれどころではない。


 「椎名は何者なの?」


 「聞きたいか?」


 私がつぶやいた言葉に答えるかのように声がした。


 「椎名!?」


 声がしたほうを見ると、椎名がいた。まるで最初からいましたよ。と言わんばかりの顔で部屋の隅に立っている。


 「い、いつからいたの?」


 私は慌てて聞く。


 「最初からさ。」


 椎名はいたずらっぽく笑うと、私たちが座っている地面に腰を下ろした。


 「で、聞きたいか?俺がなぜこんな力を持っていて、俺が何者なのか。」


 私たちは互いに顔を見合わせる。そして力強く頷く。


 「ええ。聞かせて頂戴。あなたの全てを。」


 私が代表でそう言うと、椎名は一つ溜息をつく。


 「まずは、俺の正体から話そうか。」


 椎名はそう言って、決意を固めるかのように一つ息を大きく吸い込んだ。いや、実際に話す覚悟を決めたのだろう。


 「俺は転生者だ。前世の記憶をもってこの世界に誕生した。」


 そこから始まった椎名の話は、悲惨としか言いようがなかった。


 曰く、異世界召喚されたが、召喚した国に命を狙われ、叔母を殺された。

 曰く、主君を得て騎士となったが、その主君を人間に殺された。椎名はこの主君をとてもよく思っていたらしい。

 曰く、死に場所を求めて入った迷宮で封印された邪神を見つけた。そして、椎名はそれを愛した。だが、彼女の命は自身の手で奪ってしまったらしい。

 曰く、その後龍人の里で過ごし、一人の女と子を作ったが、龍人以外の全種族の襲撃に会いその愛した女性を含め全ての龍人は殺されたらしい。

 曰く、その力を使い世界を一つ丸々すべて破壊した。

 曰く、八人の神を殺した。

 曰く、五つの能力を継承して地球に転生した。


 「で、その能力が『重力魔法』『武軍』『魔力』『収納』『収納の中身』だ。あの料理は収納の中にあったものだな。」


 私たちは椎名のあまりに壮絶な過去に、しばし呆然とする。


 「大丈夫か?」


 それを見て、椎名が私たちの身を案じてくる。一番つらいのは椎名のはずなのに、私たちを気遣う彼を見て、私の目から涙が零れ落ちる。


 「ゆ、雪姉?大丈夫?って、うわ!?」


 私はそんな椎名を力いっぱい抱きしめる。


 「ど、どうしたの?雪姉?」


 「もう、いいのよ。」


 「え?」


 私は椎名を抱きしめながら椎名に囁く。


 「あなたはもう、無理をしなくていいの。辛いなら辛いって、苦しいなら苦しいって言っていいのよ。」


 椎名は私の目を見てポカンとしている。


 「あなたには私を含めて、仲間ができたんだから。」


 いつの間にか、他の四人も椎名に抱き着いている。やはり、彼女達も泣いているのだろうか。顔が見えない今では確認のしようもないが、泣いているであろうことは何故かわかった。


 「・・・・・ありがとう。」


 椎名は私たちに抱き返す。その声音は、心底安堵しているものであった。


 その後、私たちは六人で一緒に寝たのであった。

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