106 訓練
神殿で職業を授かった翌日、俺達は城の訓練場に来ていた。
俺たちは訓練場に来ると、一人の騎士が俺たちに向かって演説を開始する。その騎士は、年は食っているが立ち姿に好きがなく、正に歴戦の戦士と言った風貌をしていた。
「勇者諸君!君たちは一人を除いて皆強力な職業を授かっている!しかし、その職業の特性を生かすためには訓練が必要だ!」
そう言って、騎士は自分で持っていた剣を俺達に見せるように掲げる。
「よって、お前たちにはそれぞれあった武器を使って訓練してもらう!勿論本物ではないが、当たりどころが悪ければ本当に死んでしまうので注意するように!」
そう言って、騎士はそれぞれの職業の武器を配っていく。
ちなみに、紫音と楓は俺が作った武器でないと力を十全に発揮できないので、俺が武器を与えた。彼女たちに前渡した武器は転移の際地球に置いて来てしまったからだ。
騎士たちは順番に武器を渡していく。
俺の番になると、騎士が聞いてくる。
「お前はどのの武器を使う?」
他のクラスメイトには敬語なのに、俺には高圧的な口調だ。まあ、そこは良い。俺は自身が使う武器を答える。
「刀を。」
「ほらよ。」
騎士は俺に古い模擬刀を投げてきた。その模擬刀は刀身が錆びており、さらに柄もボロボロだ。
「『錬金』」
俺は錬金術を使い、模擬刀を新品の状態に戻す。
「な!?おまえ、何をした?」
俺に模擬刀を渡した騎士が、俺に問いかけてきた。
「ただ錬金術で直しただけさ。」
俺がそう言うと、騎士は驚愕の表情を浮かべる。
「武器はいきわたったな!これより、この国の騎士による個人教授を行う!その騎士に従い、各自訓練に励んでくれ!」
そうして俺たちはそれぞれ騎士に教えを乞う形で訓練することになった。しかし、俺に何かを教えられる者がいるとは思えない。
「ふん。貴様が勇者のくせに二文字の椎名だな?」
一人の女騎士が俺に話しかけてきた。
「ああ、そうだけど?」
「私がお前の教官となる、サリア・マリッサ。職業は『爆炎の騎士』だ。」
女騎士が名乗るので、俺も名乗ることにした。
「俺は繭澄椎名。職業は『雷帝』だ。」
俺が改めて自己紹介をすると、サリアは露骨に眉を顰める。
「それじゃあ、訓練を―――。」
「ああ、そのことなんだけど。」
俺はサリアの言葉を遮る。サリアは眉をぴくっとさせるが、何も言ってこない。
「俺の訓練しなくていいから。」
「何?」
サリアは訝し気に聞いてくる。
「あんたに教えてもらうほど俺は弱くないよ。」
「何だと?この世界に来たばかりのお前に何ができると―――。」
「あのさあ。」
俺はまたしてもサリアの言葉を遮る。
「お前みたいなカスに教わることなんてないって言ってんだよ。察せよ。」
俺は先程オブラートに五十回ぐらい包んで言った言葉を正確に伝える。。
「な・・・・。」
サリアは俺が言ったことが想定外だったのか、口をポカンと開けている。
「じゃあ、そういうことだから。」
「待て!」
俺はそう言ってその場を後にしようとするが、サリアの止められる。
「そこまで言うなら、その力を証明してみろ。」
「と、言うと?」
「私と模擬戦をする。」
俺はため息をつく。
「いいだろう。」
俺は模擬刀を構える。俺が居合の構えを取ったのを見て、サリアは剣を上段に構える。っこの時点で俺とサリアとの距離は五十メートルほど離れている。
俺たちが模擬戦を始めたのに気が付いたのか、やじ馬が集まってきた。
俺はやじ馬に気を取られることなく、構え続ける。
少しの沈黙の後、先に動いたのはサリアだった。
「シッ!」
サリアはかなりの速度で俺に接近してくる。俺はただじっとサリアが迫ってくるのを見ている。
俺は二回目の人生で一応二次創作を嗜んだりもした。その中で、主人公たちは自身の力を隠すためにこういう時はわざと負けるものだが、それはできない。今俺が背負っている称号・・・いや、職業は『雷帝』だ。これは、デハート王国最強の騎士にして、生命神カミールの眷属が背負った称号だ。それ背負っている間、俺に敗北は・・・・・。
「許されない。」
俺は十分近づいたサリアに居合切りをお見舞いする。勿論体を狙ったりはしない。俺はサリアが持つ剣に模擬刀の刃を当てる。
「なっ!?」
サリアが持っていた剣は、あっけなく切断された。勿論、俺の刀は刃引きされているが、それでも俺が振ると鉄ぐらいならたやすく切断できる。
「俺の勝ちで良いか?」
俺は少しサリアを威圧しながら問いかける。
「・・・・私の負けよ。」
サリアは歯をきつく食いしばりながら負けを認める。
「じゃ、俺の教育は必要ないから。それを覚えといてね。」
俺はそう言って、その場を立ち去るのだった。