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雷帝は修羅の道を歩く  作者: 九日 藤近
第三章 二度目の異世界
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105 職業

 異世界に来た日より一晩明けた異世界二日目。俺たちは神殿に来ていた。


 この神殿は王宮の中にあって、神を祀っているというより、金を祀っていると言ったほうがしっくりくる、豪華な見た目をしていた。


 さて、何故俺達がここにいるかだが、職業を得るためだ。


 この世界は、成人を迎えると全員が職業を授かる。それは『○○(町の名前)の大工』や、『〇〇(店名)の料理人』など、所属の町、店などの名前の後に職業名が付くらしい。さらに、この所属のところに稀に『炎の』だったり、『剛腕の』などの称号のようなものが入るという。これは所属よりも位が高いとされる。


 大体の一般人はそう言ったありふれた職業を授かるが、伝説などになった人物はそれぞれの特別な職業を授かるという。


 その特別な職業名は、『竜騎士』や、『聖騎士』、『賢者』などがそうらしい。


 逆に、所属が出ない職業もある。『奴隷』や、『乞食』などがそうだ。このように所属名詞を持たない職業を持っているものたちは、『二文字』と呼ばれ、差別を受けているという。


 そして、俺達異世界から召喚された人間たちは、男は『勇者』。女は『聖女』の職業を得るらしい。この二つの職業は異世界人にしか出ないらしい。


 そして、俺達への職業獲得の儀式が始まる。


 儀式と言っても、神官が少し魔法のよなものを詠唱するだけだ。


 儀式が進むにつれ、神殿がざわつき始める。


 彼らがざわついている理由はすぐにわかった。それは、紫音達五人の職業だ。


 まず紫音だが、『砲撃の聖女』の職業を授かった。この時点で、神官や、俺達に付き添ってきた兵士たちは、砲撃という珍しい称号を授かった紫音に大きな期待を寄せる。ちなみに、この世界の文明レベルだけを見れば俺たちの世界と一緒だが、魔法がある分こっちのほうが地球よりも暮らしやすいかもしれない。


 次が楓だった。楓が授かった職業は、『魔方陣の聖女』だ。こちらの世界でも魔方陣があり、地球とは違い普通に戦闘でも使われている。しかし、魔方陣魔法は威力も高いし使い勝手もいいのだがその難易度から使える魔術師があまりいない希少職業なのだ。そのため、兵士たちの顔には満面の笑みが浮かんでいる。


 スミレはかなりの衝撃を兵士や神官に与えた。彼女の職業は『補助札の聖女』だったのだが、この世界にも補助札など存在しなかったのだ。


 雪姉は『治癒の聖女』の職業を授かった。聞くだけだと割とありきたりだが、雪姉は何気なく詠唱をしたら魔法が発動したため、天才と言われた。


 詩帆は、『魔法の聖女』の職業を授かった。これは魔法特化型の職業だ。しかし、この職業はほぼ最上級職業と言っていい。


 「「「おおお~!」」」


 その時、紫音達の時以上の歓声が上がった。皆が注目しているのは、雄大だ。


 「『聖なる勇者』!あなたが伝説の勇者と同じ職業ですか!」


 大昔に召喚された伝説の勇者は、『聖なる勇者』の職業を授かっていたらしい。そのため、その職業を授かった雄大をもう伝説の勇者扱いしている。


 そして、最後に俺の番が回ってきた。これまでのクラスメートたちはかなり良い職業を授かったため、俺にも期待の視線が突き刺さる。


 「神よ。この者にご加護を。」


 神官の男が短くそう言うと、俺の体が光に包まれる。


 「な、何だ!?」


 今までなかった現象に、場は騒然となる。


 しかし、さらなる変化がこの場所におこり始める。神官の後ろの女神を模した像から白い靄が立ち上り始めたのだ。そして、その靄は次第に人の形を作っていく。


 「レナハナ様!?」


 一人の神官がその正体を確認し、驚愕の声をあげる。そう、その靄は神を模した像そっくりになったのだ。


 しかし、俺はその女神を知っていた。話したこともある。故に、俺は彼女に話しかける。


 「よう、カミュラ。久しぶりだな。」


 実にフレンドリーに、にこやかに挨拶した俺に、その場にいた全員が固まった。


 「ぶ、無礼者!このお方は唯一絶対の神、レナハナ様だぞ!」


 神官の一人がすごい剣幕で俺に迫ってくる。だが、俺はそれを無視する。


 「なんだお前、今はレナはなって名乗ってんのか?じゃあ、俺もそう呼んだほうが良いか?」


 「いいえ。カミュラのままでいいわよ。」


 そういって、レナハナいや、カミュラはほほ笑む。


 「大体、私はレナハナなんて名乗ったことないもの。」


 カミュラはそう言って、神官たちを見回す。


 神官たちは口を開けて呆然としている。


 「で?お前は俺に職業を授けに来たんじゃないのか?」


 俺は自分が儀式の最中だったのを思い出し、カミュラにそういう。


 「ああ、そうだったわね。」


 カミュラは今思い出したと言わんばかりに手を叩くと、真剣な表情になる。


 「その前に一つ聞かせて頂戴。」


 俺はその真剣な表情に少し飲まれながら言葉を返す。


 「ああ、なんでも聞いてくれ。」


 俺がそう言うと、カミュラは一つ息を大きく吸い込む。


 「あなたはまだ、カミールのことを愛していますか?」


 それは、俺が地球に転生するときにされた質問と全く同じものだった。故に、俺はあの時と同じく即答する。


 「ああ、愛している。」


 カミュラはそれを聞くと、優しく微笑む。


 「ふふっ。あなたならそう言うと思っていましたよ、カシム。いえ、今は椎名でしたか?」


 「どっちでもいいさ。それで、俺にはどんな職業をくれるんだ?」


 「ああ、そうでしたね。」


 カミュラは一つ咳ばらいをすると、言葉を紡ぐ。


 「繭澄椎名、神名をカシム・シンドラッドよ!汝にはデハート王国最強の騎士にして我が妹、生命神カミールの眷属よ!汝に与えるべき職業はもうすでに決まっている。汝の職業は・・・・・。」


 カミュラは天に手を掲げ、俺の職業を高らかに宣言する。


 「『雷帝』だ!」


 それは、俺がゴーリアの地でレナに仕えた時から呼ばれ始め、カミールに会ってから名乗り始めた称号。


 最強の騎士にして最強の眷属、海原優とカシム・シンドラッドが授かった称号。


 それを聞いて、俺は笑った。


 「あはははははは!はははははははははは!」


 少ししてから、俺はデハート王国式の礼で跪く。


 「その職業、喜んで受け取らせてもらう。」


 俺の言葉を聞いたカミュラは一つうなずくと、次第に消えていく。


 「もう行くのか?」


 俺は何となくカミュラに聞いてみる。


 「ええ、もう時間もないしね。」


 カミュラはそう言って笑う。


 「そうだ。職業を授けるのはおまけで、こっちが本題だった。」


 カミュラはいきなりそう言うと、先程と同じ真剣な表情になる。


 「あなたになってほしいのよ。」


 カミュラがそういう。が、彼女の体はもうすでに半分以上消えてしまっている。そのため、彼女は少し急いで最後の言葉を言い切る。


 「この世界の懸け橋に!」


 そう言い残して、カミュラは消えてしまった。ここに残っているのは、呆けた神官と、何が起こっているのかわからないクラスメートたち。それに、神妙な顔をした兵士たちだ。


 「二文字。」


 一人の兵士がそう呟く。


 「た、確かに!『雷』と『帝』で『雷帝』だから、二文字しかない!」


 それに便乗し、他の兵士たちが騒ぎ始める。


 「このカスが。」


 最後には、なぜか神官たちも俺をゴミを見るような目で見てきた。神が直々に俺に職業を授けたのだから、普通は神官は逆のことをするものだと思うのだが・・・・。


 「何だこれ?」


 その時、俺は一つの紙が落ちていることに気が付く。


 その紙は、カミュラからのメッセージらしかった。


 『神である私が干渉した記憶は消しといたから、君はあまり目立たなくて済むはずだよ!これから頑張ってね!』


 俺はそのメッセージを読むと、心の中で叫ぶ。


 (よけいなお世話だ!!!!)


 俺はこれからの面倒ごとを考えて憂鬱になり、溜息をもらすのだった。

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