004 [TAKE 1] 強迫観念
彼はひどく胸騒ぎがしていた。
理由は分からない。
ただ繰り返し頭の中で、執拗に囁く声がするのだ。
“潜行セヨ”
気のせいにしたいが、抗いがたい強制力がある。
“潜行セヨ”
わずかな抵抗空しく従うことにする。
“時期デハナイ”
受け入れると同時に精神的な動悸が収まるのを感じた。
奇妙な緊張が解けて安堵の息をつくその隣に、心配顔の少女が小首を傾けて覗き込んでいた。
大丈夫、と頷くと少女はニコと微笑む。
(………奇妙だ……あれはもう二十年近く前のことじゃないか)
言い聞かせては見るものの、不安は払拭できたわけではなかったようだ。
自分の中に鎌首をもたげ蠢くものが何であるか、自分は知らない。
吐き気を催すほどの不快感はある。
押さえきれない、醜い蟲のような―――
沸き立つ群衆の中で、彼は独り冷や汗を額に滲ませた。
その視線の先には、豪奢で権威的な色を誇示した着衣で、気高げに立つ女が居る。
―――あれは……
―――あれは敵ではないはず……
傷は、つけてはならないもの。
(お前が、守る者だ)
守る者。
それすらも違和感がある。
自分が守るのは……
脇に立つ、こちらの少女ではないのか―――?
多大なる疑念が汗のように纏わりついていた。