003 終焉の幕開け
時はL.M.暦九八五年。
一人の少女が星間自治体連合から、帝政共同体に亡命した。
そのさらに十三年後のL.M.九九八年、今度は一人の青年が帝政から連合へ亡命する。
亡命自体はさして珍しいことではない。この二つの国の間では年間推定、数万単位で亡命者が行き来している。従ってそう注目すべきことではないのだが、まさか終焉劇の幕開けとなろうとは、誰も考えもしなかっただろう。
この二人の亡命は表沙汰にはならないまでも、両国の政治中枢に多大な震撼を与えるのである。
その一人、青年の名はヨーイン・アレクラ。
彼は帝政の第七十五代皇帝ルードニースの傍らで、帝政内では最高の栄えあるIMSになるはずだったが、その事実が何故か彼を亡命と言う行為に向かわせたのだった。
そして少女はデグレシア・エルマー。
在帝の連合公使エルマー一家の娘である。しかしこの家族は彼女を除いて、館内居住区で何者かに惨殺されている。第一発見者は、たまたま外出していたデグレシア本人だったというのだが、警察が駆けつけたときには既に彼女の姿は無く、周囲から得られた証言はただ一つ。
『目が醒めるような蒼のローブ』
それもエルマー公使が死に際に、現場へ帰宅した娘に云ったらしい、と言うことだった。
『蒼いローブ』は、色的には珍しいものではあるが、決定的な証拠にはならない。
捜査は立ち消えとなった。
その日のニュースで、エルマー公使一家の殺人事件は両国でやや大きめに報じられる。
異なるのは、帝政がデグレシアの失踪を告げたのに対し、連合では何ら触れなかったという点であった。
後にこの事件は、ギャラクシアンに発端を起していると云われる。