過去。現在に至るまで 8
この物語は、次々と来る現実に立ち向かう路陽と家族の物語です。
俺が生まれる以前、父は誰かを恨んで生きていた時期があったのかもしれない。
子供ながらそう思った。
父は確かに人が良く騙されそうになることも多々あったが、人格者であったと思う。
だから、俺としてはそんな父の心意気を残したい、そう思ったのだ。
確かに飲酒運転という行為は怒りを覚えるものであったが、向こうも意識不明の重体になっているし、賠償という枷も負っている。
辛いのは何もこちらだけではない。
向こうも辛い思いはしているのだ。
痛み分けではないが、向こうも十分な罰は受けている。
そこから更に責め立てるような行為はしたくはない。
故に相手の事は気にしない事にしたのだ。
父が死んで1ヶ月が過ぎ、翡翠さんも快復し、やるべき処理が全て終わった頃、新たな問題が持ち上がる。
それは金の問題だ。
父は事故死だった為、保険からの入金や国からの補償金、事故を起こした相手からの賠償金が出るとは言っても、この家には俺を含め3人の小学生いる。
子供一人を育てるのには1千万円以上の金が掛かると聞いたことがある。
それが3人。
今はまだ、大丈夫かもしれない。
しかしながら、父という大黒柱を失った以上、いずれ資金不足に陥るのは火を見るより明らかだった。
子供の俺にも分かることが、大人である翡翠さんに分からない筈もなく……
しばらくして、翡翠さんが働きに出るようになった。
と言っても、中学中退の翡翠さんに世間の風当たりは強く。
就職は当然出来ない上に、バイトも面接で切られることが殆どで、働けるのが夜勤などの肉体的にも精神的にもハードなものに限られたのだった。
日に日に疲労を重ねていく彼女の姿を見かねて、負担を減らしたかった俺は翡翠さんに、
『父が死んだ以上、血縁関係にない俺を施設に預ける選択もあります』
と、千隼達がいないときに伝えたことがある。
すると、彼女に
『バカなコト言わないで。誰が何を言おうと、血は繋がってなくても、あなたは私の自慢の息子です。あなたがこの家と娘達を守ってくれるから、私は安心して働きに行けるの。だから、お願いだから、そんな悲しいことは二度と言わないで』
と泣きながら言われた。
父が選んだ女性は、若くても、この人が俺の母親だと胸を張って言える強い女性だった。
本編はまだ先です。