過去。現在に至るまで 7
ここから少し暗い話になります。
その後、ウチに小日向親子が暮らすようになり、何かと色々あったがここではサラッと流すとしよう。
次の転機は9年前……
父が再婚してから1年が経過して、俺と姉妹(と言っても主に千隼)とのわだかまりも解け、生活が落ち着いた頃だ。
父が死んだ。
仕事からの帰り道、飲酒運転で暴走した車両に轢かれそうになった子供を庇って死んだそうだ。
余りに突然の知らせに翡翠さんと千隼と鴇羽の3人は泣き崩れ、俺は悲しいはずなのに涙も出なかった。
今思えば、アレは衝撃的な事実を前に精神が壊れないように、脳が感情をシャットアウトするという防衛反応だったのだろう。
確認の為に見た父の遺体は殆ど原型を留めていなかった。
手足は有り得ない方向にねじ曲がり、上半身は拉げている上に潰れていて、顔の判別など到底出来ない。
正直、何かの醜悪なオブジェかと思ったぐらいだ。
それ程に現実離れした光景だった。
余りにショッキングな光景に、翡翠さんや妹達には見せないで良かったと思った。
あの時は、精神が麻痺していたからこそトラウマにはなっていないが、まともな精神で直視していたら、トラウマ確定な光景であったと思う。
一言で言うなれば、正に凄惨。
所持品や歯の治療痕等の証拠から、その物体が父であることが判明し……
父の死亡の事後処理を淡々と進める俺を周囲の人間が気味悪そうな目で見ていたのは覚えている。
翡翠さんは父の死がショックで寝込んでしまい、千隼と鴇羽はその看病に付きっきりだった以上、俺以外に動ける人間がいなかったのだ。
それに、これは唯一血の繋がった人間として果たすべき責務で、当然の事だと俺はそう思っていた。
余談にはなるが、父を轢き殺した運転手は、意識不明の重体で病院に運ばれたらしい。
らしいというのは当時、そんな事を考える程の余裕は無かったし、今となってはどうでもいいことだったからだ。
その昔、俺が小学に上がる前の幼少の頃、父も言っていた。
『人間死ぬ時は、それはもうあっけなく、アッサリと死ぬ。人である以上死ぬのは逆らえない運命だ。
だから、いつか僕も、路陽も死ぬ時は来る。いつそれが、どんな形で来るにしても、誰かを恨むような事はしたくないし、路陽にもして欲しくはないなぁ』
と。
『父さんが理不尽な理由で死んでも、悲しんだり、怒ったりしちゃいけないってこと?』
幼い俺は父の言葉を耳にして、素直な疑問を告げると
『それは違うかな。もしも、仮にだけど、考えたく無いけど、路陽が死ぬようなことがあれば、僕は絶対に激しく悲しむ。それが理不尽なものであれば、有り得ないぐらい憤慨する。それは人として正しい感情だよ。……でも、誰かを恨んで生きるのは辛いし事だし、人として悲しい事だと僕は思うんだ』
と答えた。
そう言う父は、どことなく悲しげで、どこか遠くを見ているような気がした。
まだ上げてくよ~




