過去。現在に至るまで 6
今日も少し上げてきます。
『私も見習わないといけないかしら……それにしても、さっきのどうやったの? 私も分からなかったわ』
『秘密です』
と笑顔で告げて、
『(後で教えます)』
翡翠さんにのみ聞こえるように小声で言ってウインクする。
今言ったら、翡翠さんの足元にいる少女達に聞こえてしまう。
『(路陽、いつの間にあんなマジック覚えたんだ?)』
ヒソヒソと父が小声で聞いてきたので、
『(ん?一昨年。文化祭の発表会で)』
俺も父の小声で返す。
『(尚さんも知らなかったんですか?)』
その様子を見て、翡翠さんは少し意外だったようだ。
『(恥ずかしながら、自分の息子の事なのに下手すれば知らないことの方が多いぐらいです)』
と、父が小声で言ったのを聞いて、
『自分でも自分の全てを理解できないのに、自分以外の誰か全てを知れる訳なんてないし、出来ると思ってるとしたら、それは傲慢だと思うよ。たとえ血の繋がった肉親だとしても、知らないことは知らない。
現に俺だって、父さんがこんな美人と2年も付き合ってるなんて知らなかったし、予想だにしなかった』
などと俺が言うと
『『…………………………』』
二人は揃って顔を真っ赤にしていた。
『ごちそうさまです。ところで、翡翠さんに1つ聞きたいことが……』
『何かしら?』
『ぶっちゃけ、どうしてこんな冴えない中年……しかも前妻のコブ付きと結婚しようって思ったんですか?貴女なら娘が2人いると言っても引く手数多でしょう?』
翡翠さんはそれだけの美人だった。
故に尚更に気になったので聞いてみた。
『……他人の相談事に本気で真剣に悩んで一緒に考えてくれるような本当に優しい人だったから。普通、他人の相談事なんて、適当に相槌打って相手の気持ちを軽くする程度でしょう?
そんな尚さんの優しさに触れる度に好きになっていたの。自分の気持ちに気付いた後、勇気を出して告白して『結婚して欲しい』って申し込んだわ。
そしたら、尚さんに『僕もあなたの事が好きです。ですが、あと2年経ってあなたの気持ちが変わらなければ、そのとき改めて結婚しましょう』って言われたとき、『ああ、この人は本当に私の事を考えてくれてるんだ』って感じられたの。出会いを重ねる度に、これは一時の感情じゃないって確信できた。この人なら娘達も安心して任せられるって』
その問いに彼女は真っ直ぐこちらの目を見て答えた。
その目に嘘偽りがない本気のものであることは、俺にも分かった。
『この先……父共々迷惑をかけるでしょうが宜しくお願いします。父の再婚相手が貴女のような人で良かった』
『こちらこそ、娘共々宜しくお願いします。貴方達のような優しい方々と家族になれるなんて、私達は幸せです』
顔合わせをして良かった。
俺は素直にそう思った。
この人達となら苦労しても、楽しくやっていけると確信を持てたからだ。
『二人がお互いに認めてくれたのは嬉しいケド、散々な言われようで父さん泣きたい気分だぞ~路陽。そんでもって、翡翠さんも否定しなかったね……』
その傍らで、父は見事に落ち込んでおり、翡翠さんの娘達に小突かれていた。
2年前から翡翠さんと付き合っているだけあって、父は娘さん達から警戒されてないみたいだ。
『メンドクサイ父で済みません』
その様子を見て、俺が謝ると、
『いえいえ。そんなところも可愛いじゃないですか』
翡翠さんに、にこやかに微笑まれながら返された。
(ホントに愛されてるな、父さん)
それを見て、俺は改めてそう思った。
取り敢えず、そんな感じで俺と小日向親子ファーストコンタクトはそんな感じで結果は良いものだった。
続きます。