過去。現在に至るまで 5
投稿じゃあ!
それよりも先に、翡翠さんの娘さん方に挨拶をしておく方が賢明であろう。
そう判断し、俺は翡翠さんの足元……
彼女の白いロングスカートにしがみついている5つ年下の2人の少女……
千隼と鴇羽の方に歩み寄り、少し屈んで視線を合わせる。
2人は緊張しているようで、翡翠さんの足に半身を隠しつつも、こちらをじっと見つめて視線を離さない。
『こんにちは。千隼ちゃん、鴇羽ちゃん。俺は紫藤 路陽。近い内に一緒に暮らすようになるだろうから、これから宜しくね』
『『…………………………』』
先程の翡翠さんを参考に、出来る限り優しく笑顔で接したつもりだが、2人はビクビクとした様子でこちらを窺っているばかりだ。
(小さいとはいえ女子は難しいな……)
と改めて思ったものだ。
『こら、2人共きちんと……』
『翡翠さん、チョット待ってください』
その様子を見て、翡翠さんは叱ろうとしたが、その前に止める。
ここで叱られては、彼女たちと打ち解ける為の難易度が上がってしまう。
『突然すぎて戸惑ってるだけだよね。いきなり、知らない年上の子……しかも、それが男となれば、俺だって緊張する。そうだ、2人共、右手を見て貰えるかな?』
言いながら、少女たちの眼前に自らの右手を出す。
『今、この手には何もありません』
言って。右手を2~3回グーパーして何もないことを示す。
『…………………………?』
少女達の視線が右手に集中していることを確認し、右手を握る。
『ですが、この魔法の左手で右手を叩くと……』
中指と人差指2本のみを伸ばした左手の伸びた指で軽く2回右手の甲を叩く。
『ハイ!キャラメルが出てきました!』
再び開いた右手には2個包装紙に包まれたミルクキャラメルが出現する。
『これはお嬢さん方に進呈します。お近づきの印です』
そう言って、2人の目の前にキャラメルを差し出すと、片方は目を輝かせ、キャラメルをその小さな手に取り、幸せそうに頬張り、もう片方は……
バッと素早くこちらの右手からキャラメルを取ったと思うと、プイっと顔を背けてしまった。
ま、そう簡単にいくとは思ってなかったので気にはならない。
取り敢えず、片方の警戒心を多少なりとも解けただけでも上出来だろう。
『御免なさいね、路陽くん。千隼は人見知りが激しいから……』
『いえ、現段階では警戒されて当然ですから。こういうのはゆっくり時間を掛けていかないと、かえって逆効果になりますし、ファーストコンタクトとしては上々だと思いますよ』
重要なのは危険な相手じゃないと認識させることだ。
下手な手出しをせず、興味を持って向こうから寄ってくるのを待つ。
キャラメルを取ったという事は全力で拒絶している程でもないだろう。
『大人びてるわねぇ……』
『子供故に子供の事は良く知ってる。ただ、それだけです。それに、警戒しているのは、それだけ翡翠さんの教育が行き届いている表れでしょう』
知らない相手を警戒するのは生きていく上で必要な技能だ。
女子ともなれば、尚更必要だろう。
それ故に、こちらとしては逆に好感が持てるものだった。
良し、会社行ってくる!




