過去。現在に至るまで 1
スタート前の前置きの話になります。
10年前……
俺が小学5年の頃だ。
父が再婚した。
10年前の6月17日。
サッカーの練習を終え、家に帰ると父から、
『少し話したいことがある。僕達のこれからに関わる大切な話だ』
と夕食の席で真面目な顔で言われた。
父の余りの真剣さに
『何?どうしたの?もしかして、会社クビになった!?』
と聞き返してしまったものだ。
『いや、クビにはなってないから!』
当然、父は慌ててそれを否定する。
『良かった……』
ホッと胸を撫で下ろし、一息吐き、
(となると、転勤でも決まったのかな?引っ越しは悲しいケド、仕方ないよな……)
などと考えていると、
『実は……父さん、再婚することになった』
『へー、そうなんだ。…………って、ええッッ!!?』
余りに予想の斜め上な言葉に驚きを隠せなかった。
『再婚って、父さんが!?』
『ウチに父さん以外に再婚できるのがどこいる?』
聞き返すと呆れた顔で言われた。
『いや、そうだけど!小太りで、目立たなくて、人畜無害だけが取り柄の冴えない40代中年代表みたいな父さんが再婚!?』
正直、驚き以外何もなかった。
『確かにその通りだけど、流石に父さん傷つくぞ……』
『騙されてない?』
父は人が良いから心配だった。
まだ騙されたことはないが、騙されそうになった案件は幾つかあるのだ。
『疑るのは分かるが、『それはない』と断言するよ。しっかりしてくれるのは親としては嬉しいが、一人息子にそう思われるのは父さん悲しいぞ』
母は元々体が弱く、俺の出産に耐え切れず、この世を去ったらしい。
多くの親族が反対したらしいが、本人が断固として、『降ろすのは嫌だ』と断り、父は本人の意思を尊重した。
その結果、周囲の予想通りの展開となってしまったという訳だ。
そんな訳で、俺は母親の顔を写真でしか知らないし、声も覚えていない。
物心ついた時には、片親であるのが当たり前であった。
これから夜勤とか地味に嫌やわ。