先輩からのお誘い
昨日はモンハンで徹夜したぜ。少し眠いわ。
フリーター生活6年目に差し掛かり、落ち着いたと思っていた最中の金曜日。
(今週の仕事も終わりか……土日は何をしようか)
などと考えながら、喫茶店『ランビリス』のバイトを終えようとしたそのとき、
「シドちゃん、明日暇?」
ここのバイトの先輩である根取さんにそんなことを聞かれた。
「特にこれといった予定はありませんが……どうしました?」
「良かった!なら、明日俺と一緒に合コンに行ってくれない?急に1人用事が入ったみたいで面子が足りなくなったんだよ」
「合コンですか……」
正直、全く興味を惹かれない。
「頼むよ~、折角、楠原女子大とセッティングができたのにこっちの面子不足でおじゃんにする訳には行かないんだよ~。他の知り合い連中は軒並み明日都合がつかなくてシドちゃん以外に頼れる人がいないんだよ~」
と言う根取さんは涙目な上に必死な様子である。
「はぁ……分かりました。明日、俺も行きますから、大の大人がそんな顔しないでください」
根負けしたというか、先程『用事がない』と言った手前、断りづらいので、サッサと了承することにした。
「ホント!ありがとう、恩に着るよ!これで、アイツらも落胆せずに済むよ!」
「ただ、盛り上げとかそういうのは期待しないでくださいよ」
「分かってるって!来てくれるだけで本当に助かるよ」
「じゃあ、明日の集合時間と場所教えて頂けますか?」
「明日は、泉鏡街の中央公園広場の噴水前に18:30集合予定だよ」
「分かりました。今日の片付けは根鳥さんにお任せしますね」
「お安い御用だよ!じゃあ、明日は宜しくね~」
店の片付けを根取さんに任せ、俺は店長に挨拶をしてから、真っ直ぐ家に帰った。
家に帰り、夕飯の時に翡翠さんと妹達に明日の予定を告げると、
「えっ……?合コン!?兄さんが?」
と千隼に驚いた顔で言われ、鴇羽も似たような表情だった。
「ああ、うん。根取さん……バイト先の先輩が本当に困ってたみたいだったから数合わせで行くことになった。そういう訳で翡翠さん、明日俺の分の夕食はいりません」
「分かったわ。ふふ、折角の機会ですから楽しんできてくださいね」
楽しそうに翡翠さんに言われ、俺は『はい』と短く応えた。
「まあ、兄さんだから心配はいらないだろうけど、悪い人に引っかからないようにね?」
最初に出会った頃に比べると大分大きくなったが、千隼は相変わらず心配性だ。
まあ、それは俺が兄として頼りないからかもしれないが……
「大丈夫、大丈夫、俺はただの数合わせだし、一次会でサッサと抜けるつもりだから」
千隼を安心させるべくそう言っておく。
すると、
「それはそれで、合コンに行く身としてはどうかと思う」
と呆れたように鴇羽に言われてしまう。
難しいものだ。
「陽兄ぃ、明日、合コンに行くまで時間あるよね?」
「ああ」
鴇羽に聞かれ、俺は返答する。
すると、鴇羽は
「じゃあ、午前中は、わたしと一緒に着ていく服を買いに行こう。わたしが、陽兄ぃをコーディネートする」
とどことなく気合の入った目でそう言った。
「あっ、それ面白そう!あたしも一緒に行く!」
「良いですね。折角の機会ですし、皆でお買い物しましょうか」
それを聞いて、千隼と翡翠さんも賛同し、その時点で俺は逃げ道がないことを悟った。
(明日は長い一日になりそうだ……)
他人事のようにそう思った。
『俺フリ』(俺、高校中退フリーターの略)はゆったりやっていこうと思います。




