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覚醒to旅立ち

朝起きて先ず最初にすることと言えば、人それぞれだと思う


冷たい水で顔を洗う

服を着替える

朝食を食べる

煙草を吸う…


それでもまあ、こんな所だろう


だが俺は違う


朝起きると急いで隣の牧場に向かう

着替え?

むしろ寝る前から着替えとるわ!

そして牛の食べる牧草に身を潜めるのだ


すると少しするとやって来るのがこの牧場の一人娘のミル姉だ

彼女は、これがまた乳牛顔負けの巨乳の持ち主だ


俺は息を潜める



・・・・・ザグッ!



「いってえええ!」


慌てて飛び出すと頭から血が流れている

なんだ!?何が起きた!?


「あんたまたそこに居たの?この変態」


くまでを手にしたミル姉が言った

あれか!?アレで刺したのか!?下手すると死ぬぞ!


「誰が変態だ!なにすんだよ血が出てるじゃないか!」


「じゃあ何していたのよ」


「ふん、昨夜寝れなくてウロウロしていたんだよ。そしたらココで寝てただけだ」


「あんた息をするように嘘をつくわね。ある意味尊敬するわ」


「ぬ。尊敬するか?なら乳を揉ませてくれ!って痛っ!刺すな!それ、痛っ!」


「こないだもあんたそこから飛び出して私の胸揉んだじゃない。そろそろ死んでくれる?って逃げるなクソシュウっ!」


俺は真剣に逃げ出した

逃げ足には自信があるからな!ひゃっはー!



家に帰ると、朝食の用意が出来ていた

パンに目玉焼き、ベーコンだ


俺は椅子に座るとパンに噛み付く

頭からは血が流れてポタポタと机に落ちる

あいつ深く刺しやがって・・・


見かねた親友がヒーリングをかけてくれて血は止まった

そしてため息をついて


「シュウ、また行ってたのかい?そろそろやめた方がいいんじゃない?」


コイツはカイ、俺と兄弟みたいなもんだ。

隣村の教会に同じ日に捨てられていたらしい。

俺たちは気が凄く合った

だから教会を出た今でも一緒に暮らしている


何故兄弟じゃないと分かったかと言えば、髪の色だ

俺は黒髪、カイは金髪だからな

まあ顔もたいして似てないし、カイは美形だしな


「断るッ!日課なんだ、やめるわけないだろ?俺が揉まないで誰が揉むんだよ!」


俺はそう言いながら朝飯をかきこむように食べた



一息つくと、仕事の時間だ


「じゃあ、今日は隣村まで行くから遅くなると思う」


俺はそう言うと馬車に乗り込む


「うん、行商だね。気をつけて。僕はこの前壊れた納屋を直しているよ」


そう言ってカイは納屋へ向かう


俺達の畑で採れた野菜、ミル姉の所のチーズなどを昨夜のうちに積み込んである

俺とカイの大切な収入源だ

月に2度程これを隣村で売って、金でしか買えないものを買って帰る




俺は馬車を走らせた

隣村まで片道およそ4時間かかるので帰るのは夜中になる



隣村までの道のりは一本道だその間モンスターも出ることがある

護身用に剣を一振り腰に差している

初級の魔法なら使えるのでこのあたりに出るモンスターなどには楽勝である

最初のころはよく襲われていたが、今ではモンスターも避けるようになってきている


だから


「退屈ってこういうこと言うんだろうな」


ゆっくりと走る馬車に揺られてあくびをする

そうだな、今日は魚を買って帰ろう。それでカイにシチューでも作ってもらおうか

なんて、まだ村にも着いていないのに晩飯のことを考えていた




隣村での販売はいつも盛況だ

だからものの1時間もかからないうちに全て売れてしまった


「今日もありがとよー」


「ああ、シュウも気を付けろよ。最近山賊なんて物騒なもんが出るらしいからな」


「ハハハ!山賊なんて余裕だよ余裕!」


俺は手を振りながら馬車を出す

さてと、帰りますか


行きより軽くなった荷台には、いくらかの魚や塩、あと牧場の親父さんから頼まれたタバコなんかを乗せて帰るのだ


日が暮れて夜になる


「うわ。今日は日が暮れるのが早いな。フレアの神さんもうちょっと働けよ」


そう沈んだ太陽に文句を言いながら

魔石ランタンを付けると明るく道を照らす


真っ暗な闇の世界にガタガタと車輪の音が響き渡る


今日は星がない。きっと明日は雨だろう


少し肌寒くなってきたので俺は外套を羽織る


あと、1時間もすれば家に着く

そして、予想外の事になっているとも思わずに




パチパチ



燃ゆる炎は夜を赤く染める

登る煙は吸い込まれる様に空に消えてゆく

あたり一面に漂う焦げた臭いが鼻につく


「親父さん!どうした!何があった!!」


ただっ広い牧場の入口で倒れていた親父さんを抱き上げるように起こす


パチパチとあたりは燃えている

その熱が風となり2人を焦がす


「う、がは、シュウ、か」


「ああ!俺だ!何があった!」


「さ、山賊だ、やつらウィザードを連れてやがる、さっき、カイが牛舎に、ミルと」


それだけ言うと親父さんは気を失う


俺の手はべったりと親父さんの血がついていた

済まない、ミルとカイが心配だから後でまた来ると言って俺は親父さんをゆっくり寝かせると走り出す

牛舎だな!


牛舎の辺りも荒らされたのか、壁が壊されていた

牛は1頭も居らず連れ去られたのだと思う


そして牛舎の中に



黒焦げの



人間だったろう



死体が2つ



ざわりと背筋が寒くなる

あたまがくらりとする


「お、おいおい、冗談だろ」


2つの死体の前に膝を落とすと俺は涙を流しながら笑っていた

一瞬にしてそれが、二人だと思った



「ミ、ミル姉、カイ・・・な、何だよこれ」


またー


また一人ぼっちに


また?あれ?俺は一人ぼっちなんてなった事がないのに


これから、また


ずーっと、一人ぼっちに。


あー


「こんな世界に生まれてくるんじゃ無かったなぁ…」


俺は思わずそう呟いた



パキィィィィーン



目の前が真っ白に染まる


あ・・・?


そこは何も無い無の世界だった。


「なあ、どうしても行くのか?俺は別にお前と2人きりでも良いよ?」


「だってさ、見てご覧よシュウタロー!あんなに人間は沢山いるんだよ?」


「いるけどさぁ・・仲良くなれる自信なんてないし、俺弱いから。お前は強いから良いんだろうけど」


俺は頭をかきながらそう言った


「ならさ、シュウタローも強くなれば行くかい?」


「へっ!?強くなれるのか!?」


「なれるさ、ボクの力を分けてあげるよ!その代わりにさー」


「分かってる、俺はずーっとお前と一緒に居ればいいんだろ?」


「そう言うこと!」


俺は嫌いじゃなかった


初めて、一人ぼっちじゃなくなったと


弱いとか強いとかそんな理由で渋ってたんじゃない


あの世界に行って、お前が他に友人が出来て

俺がまた一人ぼっちになるのが




怖かったんだ



本当は俺も、ものすごく行きたかったのに






「ああああああああ!カイーッ!」


俺は腰に携えた剣を抜くと感知魔法を放つ


ソナーと熱感知を合わせた様な魔法だ


感知に引っかかる!牛舎の向こうに何かいる!杖を持ったウィザードか!


あいつが、あいつが!


俺は走り、ウィザードの目の前に飛び出ると


「ぶっ殺してやる」


生まれて初めての殺意を人に向けた



「くっ!まだいやがったか!」


ウィザードはそう言うと魔法を唱え始める


させるか!


俺は身をかがめてウィザードの真下まで一気に駆け込むとその喉を目掛けて剣を振るう


ザシュ!


ウィザードが喉を庇おうとおかまいなしに振り抜いた


まるで枯れ枝を斬るような手応え

だが、たったそれだけでウィザードの左手を飛ばし、そのまま喉を切り裂いた



「ガハッ」


片手を失い、血を吐きながらウィザードは何が起きたか分からないままに崩れ落ちる


次だ!


あああああッ!

泣きながら俺は走る

顔を伝う涙で何度も前が曇るのをぬぐいながら


俺はそのウィザードの後ろの茂みに隠れていた山賊に剣を投げつける


ドスッ!


眼窩に突き刺さった剣は血を撒き散らしながら山賊を一瞬のうちに絶命させる


まだだ!まだだ!まだ他にも山賊が、敵が!



俺の目は真っ赤に染まり

まるで竜の瞳のように燃え上がる


「殺す!」


こんな、こんな、また一人ぼっちだなんて


「殺して!殺して、ミナゴロシニ」


あれ?


俺はなんでこんなに怒ってるんだ?


訳がもう分からない



目の前が真っ赤に染まる。


そこに


ふわりと甘い


牛乳の匂いが俺を抱きしめた


柔らかいぬくもりが


「シュウ、シュウ!もう大丈夫だから!大丈夫だから!」


なんだ?泣いてるのか・・・珍しいな

泣くなよミル姉・・・


あれ?ミル姉?


「シュウ!大丈夫か!」


あ…カイだ

背中に親父さんを背負っている


あ・・・ああ・・・カイじゃないか


俺の大切な、大切な、初めての親友・・・



そこで安心してしまった


安心できてしまった



だから、目の色は何時もの黒い瞳に戻る



「え?あれ?」


何でみんな生きてるんだ?

冷静になった俺は、ミル姉に抱き締められながらカイを見る


「なんで、なんで生きてるんだ?」


「はぁ、良かった・・・カイと一緒に山賊から牛を逃がしてたのよ」


「え?で、でも黒焦げの死体が牛舎に」


カイは笑いながら


「ああ、ボクが魔法でさ。でも手加減できなくて」


「なんだ、そうだったのか・・・」


「ねえ、ねえシュウ」


「なんだミル姉」


「あんたって本当に頭おかしいの?ねえ、なんで私の胸を揉んでるわけ?」


「そこに胸があるからだ」


「ほんとにもう、心配したんだから、心配したんだから、父さんが、シュウが牛舎に行ったって聞いて、私、心配したんだから」


「泣くなよミル姉」


力が入らなくなったのか、体が重くなって


「カイ、悪い。あとよろしく」


気を失ってしまった





朝起きて、先ずする事と言えば人それぞれだと思う


まだ明るくなる前に目が覚めてしまった今日の俺は、とりあえず1階に降りると親友の姿を探した


金髪のアイツだ


やっぱり


じゅうじゅうと美味そうな音を立てて焼いているのは目玉焼きとベーコンだ


「あ、おはようシュウ」


「ああ、おはようカイ」


あんな事が昨夜あったのにまったく動じていない親友に俺は


「なあ、カイ」


「なんだい?」


「お前さ、」


言いかけてやめる


「なんだよ?変だぞシュウ」


「なあ、見て回ろうぜ。この世界をさ」


え?っと言いながら振り向くカイ


「約束したじゃないか。一緒に、世界を見て回ろうって」



俺は一人ぼっちだった



「ちょ…シュウ・・もしかして記憶が?」



カイも一人ぼっちだった



「まあ、な。だからさ、この賑やかで混沌とした世界で一緒にー」




カイは、笑って



「分かったよ、前はボクがわがまま言ったからね。今度はシュウタローのやりたい事やろうか」



そう言った


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