精霊・魔女
「っても、どうするよアレ」
目の前の惨劇は気づけば目を覆い耳を塞ぐ程にエスカレートしていた
「あははは!あははは!いいねぇ!」
喜びに震えているのはナナミ1人だ
「ある意味彼女はもう救われていないか?」
カイが言った
確かに、もっともだとも言える
「でもあのままはなあ」
「まあ、それも確かにだけどね」
今ナナミと、勇者達の周りにはとてつもなく硬い結界に覆われている
「とりあえず・・・スペルブレイク!!」
シュウの魔法はナナミらに向かうが、その間の障壁に阻まれる
通常であれば障壁であれ、魔法で出来たものである限り影響を受ける
はずなのだが・・・
「あーやっぱダメか・・」
「竜魔法と同じく、魔女の魔法も言語その物が違うんだろうね・・芋虫に襲われている彼らに竜の回復魔法を掛けたが無駄だった。エリクサーで一時回復したのは見たけど、ほんと一瞬だったしね」
「そもそもなんの魔法かもわからないからなぁ・・・・」
シュウが考えていると
「これはね、不老不死の魔術・・・ただし芋虫に食われちゃうけどね」
ナナミがこちらに歩いてくる
「そしてこの魔法は・・魔術は術者にも早かれ遅かれ反ってくる・・だから私もそのうち」
血の涙が止まっていた・・
「正気にもどったのか?」
シュウが尋ねる
「ええ、といっても私はずっと正気でした。あれは・・本当の私だから」
「ええっと、今の話じゃナナミさんもあんな風になっちゃうんのかな」
「カイさん・・ご迷惑をお掛けしました。その通りです。でも私は解呪の方法を知ってますから大丈夫ですよ」
その微笑みはどこか儚くそして何処かへ消えていく
「なぁ、ナナミ、その解呪方法・・・不老不死の解呪だろう?」
「あはは、やっぱ繋がってただけあって隠せませんね。そうですよ、解呪して、死ぬだけです」
「それは・・・・」
「いいんです・・私はもう、生きていくことに疲れました」
それは・・わずか14か15しか生きていない少女が言っていいセリフじゃない
「はぁ・・じゃああれだ、無かったことにして・・生まれ変って生きたらいい」
「え?」
「もう日本が嫌ならさ、この世界で転生でもなんでもして生きたらいいじゃないか」
そんな事が出来るわけ・・・ない
「それとだ、魔女の魔法言語は詰まる所精霊の言語だ」
魔女は精霊と共に、精霊は魔女と共に生きている
彼女が7人目の魔女であるなら
7番目の精霊として生まれ変わったティナの出番だろう
「ティナ!」
「はいなー」
ふわりと何処からか現れるティナ
「アレ、頼むわ」
ナナミとカケル達に指を指してシュウは言った
それだけでティナは理解したのか
「お安い御用デス!」
ティナがナナミの中へ溶け入る用に消えていった
そして、7人目の魔女・・ナナミの新生と再生が始まる
薄く、赤く輝きながらナナミは蘇る
「それにしてもシュウ、なんで精霊と魔女のこと知ってたんだい?」
「ああ、そうか・・カイはアレわかんなかったんだな。ナナミと繋がっていた時に知ったんだ」
「ふぅん・・繋がってたか・・ズルい」
「何がだよ」
「ううん、なんでもないよ」
カイの笑顔にドキリとする
あれ?なんだこれ・・なんでカイを今かわいいと思ったんだ?
「ね、シュウ・・あんたもう大丈夫なの?」
「あ、ミル姉。悪かったな、心配かけて」
「カイが牧場に私を呼びに来たとき、本当にびっくりしたんだからね」
「ほら、それより始まるぜ」
そういってナナミを見る
黒かった髪は、金色に染まっていく
そしてナナミの身長はどんどん小さくなっていき、そして止まった
だぼだぼになったブレザーに包まれた彼女は、そう小学校の高学年の手前
あの事件の手前の年齢くらいだろう
これで彼女はやり直す・・事が出来るはずだ
そしてカケル達に掛けられた呪いも、無かったことになる
芋虫やオークも消えて、欠損した肉体も戻っていく
「ま、これで一件落着って事にしねえ?」
俺がそう言った時だった
グンッと辺りが闇に包まれる
アカリと呼ばれた少女がむくりと起き上がり
「ま・・・ったく・・余計な真似を」
知っているアカリと声が違う
ナナミは眠っているし、ほかの勇者も同様だ
「勇者を・・消す算段を狂わせたのはお前たちか」
アカリを操っている・・
その背後にはデーモンの姿がある
シュウの最悪の想像が一瞬で結実する
ブチンッ
「カイ、ミル姉を返しておいてくれ・・俺ちょっとガマンできねぇわ」
人間同士のいざこざ・・すれ違い・・そんな物の結果だと、俺はそう思っていた
もしかしたらナナミも、カケルやアカリ達とのコミュニケーションが上手くいってさえいればこういう事態も起こらなかったかもしれないとさえ思った
だが、そこにデーモンがいるならば話は違う
彼女達の問題だけではないからだ
「わかったよ、シュウ・・あんまりやり過ぎないでね」
そういうとカイはミル姉を連れて消えた
ああ、これが終わったら改めてミル姉の所にお礼に行こう
よし、俺は冷静だ
その目は赤く
まるで怒り狂う竜の瞳そのものだ
でもそれが冷静だと言うには無理があっただろう
「テレポート!」
ひとまず、ナナミと残っていた人を全員を安全な場所に飛ばす
アカリ・デーモンが目を見開く
「何者だ貴様ぁ・・転移魔法が使えるとは・・それもあれだけの人数をだと?」
「使えるのは転移魔法だけじゃねぇぜ」
俺は刀を抜き放つ
リキヤの持っていた刀だが、こいつは切れ味もさる事ながら不壊のアビリティを持つ優れものだ
「愚かなる人間よ、何をする気だ?いや、人ではないのか?」
「俺は人間だよ・・そしてお前を滅ぼす。転生さえさせる気は無い」
デーモンが作っている空間を、シュウの力が塗り替える
竜であり、竜からみても埒外のシュウの力が膨れ上がる
「なんだと・・我の世界を侵すとは不届きな」
「てめぇがソレを言うか、てめぇがあ!」
お前は、ナナミの彼女らの世界を侵しただろうが!
怒りで刀をギチっと音を立てて握る
「もういい、お前は滅びろ」
シュウが刀に光を宿して切りかかる
ギィン!
アカリが武装し、デーモンとシュウの間に割り込んで刀を止めた
「ふはは!愚かな、お前は勇者という存在を過小評価したのではないか?」
ギィン!ギィン!
アカリの剣戟は鋭く、シュウはその剣術を前に押されていく
デーモンの言う通り勇者の力は計り知れない
これはちょっと手こずるか・・?
「勇者は、相手の強さに合わせ強くなる存在だ。だから貴様がいくら強かろうとも人である限り倒せはしない。あの魔女でもない限りな」
なるほど・・であれば一気に強い力で倒せばいいのだが、それではアカリの身の保証がされない
シュウとて、ナナミの記憶と勇者らの記憶を垣間見ている故に、アカリには責任というものを取らせたいと思っていた。だからこそ、殺すことが躊躇われる
どうするか・・・そう思っていた時
「丁寧な説明ありがとう」
ーそれは金髪の魔女
「え!?ナナミ?一体どうしてここに!?」
「シュウさんと・・・繋がってたせいかな?なんとなく行ける気がしたの」
にこりと笑うナナミ
「ティナもいるよー!」
「ティナ!」
ふわふわと浮いてまるでナナミの守護霊の様についている
「はあ、んじゃ、この勇者頼むわ。俺はアイツをやるからよ」
赤き瞳でデーモンを睨みつける
「いこう、ティナちゃん」
「あいよー」
ナナミが魔法を唱えた
アカリの足元からバキバキと紐のように長い芋虫が生まれ、アカリに絡みつき
そのまま糸をはきはじめ、ぐるぐると巻いてアカリごとサナギになった
「バカな!」
デーモンが叫ぶ
「バカはお前だよ!」
ザンッ
シュウに切られたデーモンは光に包まれる
そしてアカリとの接続を切り、ガス状になって逃亡を図るが
「「な、なんだこの空間は!!出られん!」」
シュウが作った結界はデーモンを張り付ける
「逃げらんねーよ、お前は」
シュウは刀を握る手に力を込めると、輝きがさらに増してゆく
「「な、に、我が、消えるだ、と」」
「ふん、未来永劫消えてろ」
シュウはもう一度、デーモンを切り捨てた
残滓すら残さずにあっけなく消え去るデーモン
そして辺りの空間が正常に戻る
「っと、ナナミは大丈夫か?」
見ればサナギになったアカリの真横に立ち、マッチで火を付けようとしていた
ボシュ!
火がついた繭は一瞬で燃え上がり灰になって崩れ去る
「え?」
そこにはもう灰しか残っていなかった
「いや勇者どこいった!?」
ナナミはニヤリと笑った
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アカリと言う少女は今までの人生、順風満帆だったと言えるかもしれない
裕福は家に生まれ、勉強も出来た・・・
そんな彼女はどん底へ落される
デーモンとの接続が切れた彼女が待つものは死だけだった
その死の前にサナギ化させられたアカリは魔女ナナミの力で生まれ変わる
この・・異世界の住人として
勇者だった彼女はただの人として
強化された身体はただの人として
魔力ですら、標準の人として
全ての因果と縁から切り離された彼女は見た目と記憶はそのままで別人として新生する
ただ一つだけ新たな縁として
ナナミの監視下にはあるのだが
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何度書き直したかーーーーーーー!