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勇者・銭湯

ナナミと言います


私には友人はいません


良くしてくれる人と言えば、母と祖父母だけ


確か、小学校の低学年あたりまでは一緒に遊んでくれる友人は居たはずだが、もう記憶は曖昧で顔どころか名前すら思い出せない


高学年になった頃、いわゆるイジメってやつにあいまして、母のすすめで転校をしました。


人口わずか100名程の瀬戸内の島です


そこにはイジメをする人は居ませんでしたが、そもそも同じような年頃の子供も居ませんでしたから


高校に上がる時


島から通学できる学校を選びました


通学は当たり前ですが1人です


漁師のおじいさんが毎日送ってくれました


高校では、友人らしき人も出来かけましたがあまりに早く帰宅する私にあきれたのか、一緒に遊びに行くとかも一切ないまま夏休みが来ようとしていました



そんな時です



異世界に転移したのは



私は一人ぼっちだったからか、

ラノベとかアニメが好きでその中でも異世界に行って人生をやり直す話が大好きでしたから


生まれて初めてくらいの喜びに震えました



ですがー



異世界に同じように転移した、同じ高校の同級生達は勇者だ賢者だのと明らかに主人公


私は


魔女



あはは、らしいですよ!私らしい!

もうね、また、一人ぼっちで、虐められる未来しか見えないですよ!


所詮私は私のままでした



3ヶ月もした時



やはり私は予想通り一人ぼっちのままでした



もういっそ何処かに



ゆっくり静かに



もう死にたかった




私はきっと、私自身と言う物語の主人公にすらなれないまま終るのです




-----------





「いくぞ、テレポート!」


シュウが唱えた転移の魔法で魔界から人間界のアクアスの街に移動する


移動は一瞬だった


「ええええ!?こ、ここ何処ですか!?」


目の前には巨大な海が広がっている

まさか!?

いや、潮の香りはしない


島育ちのナナミにはそれが海ではないと直観的に理解した


海でないならなんだろう?波が押し寄せる姿はまるで海なのに。

もしかしてこの世界の海は潮が、塩辛くもないとか?


「ライン湖だよ。世界最大の湖さ」


様子を見ていたシュウが言った


「へぇ・・・すごい。ファンタジーですね!」


「あはは。なんだって今頃そんな感動してんのさ。もうずっとここに居たんだろ?」


ずきんと


胸の奥が痛む。私がいたのはずっと王都の中で隔離されていました

魔女だということで


そう言えず、ナナミは黙る


やっぱり、いじめられていたというのは人に言うのには抵抗感がある

変わらなきゃと思うけど、そうそう変われるものでもない


「っと、そういやなんか問題だったな・・孤児院に行ってみるか」


シュウはナナミを連れて孤児院に行った


そこにはなにやら数人の冒険者と、浴場で働く子供たちとの間でモメているようだった


「いいからさ、この銭湯作った奴だせよ!」


「そうよ!勇者様がおっしゃってること分からないの?」


うわぁ・・・威圧的な奴らだな・・・

てか、勇者?


「だから今いないって言ってるでしょ!いつ帰ってくるかも知らないの!」


孤児院の双子が応戦中か

ライアとサーシャはいないのかな


「だったらよぅ、この風呂で稼働している魔道具、俺らが貰ってってもいいよな?強制徴収ってやつだ」


ニヤニヤと笑う顔は完全に上から目線だ


「あ・・・リキヤ君・・・」


それを見たナナミがぼそりと呟いた


「ん?お仲間か?」


「え・・あ、はい・・同級生なんですけど・・勇者の」


ああ、やっぱり勇者召喚できた勇者様ね

んでなんでそんな風呂に固執してんだよ・・・


「おい!俺が作った銭湯に何か用か?」


シュウはツカツカとリキヤの前に出る

ナナミはスっと姿を隠した

素早いな


「おお!アンタがこの銭湯の魔道具作ったのか!俺らのアギレスの国にも銭湯が欲しくてな!」


「自分でつくりゃいいじゃねえか・・」


「それが出来ないからこうやって来てんだろ?ああ、そうそう何もタダで貰おうってんじゃないぜ。物々交換だ」


そう言ってリキヤは何もない空間に手を突っ込み、その交換する道具を取り出す

おお?あれはアイテムボックスみたいな魔法か??


「コレだ、これが何かわからんだろう?最近王都で俺が作って大ヒットしてる物だ!これと交換してやろうって事だ」


そういってドヤ顔でリキヤは言ったが


「なんだ、ポンプじゃねえか。いらねーよそんなもん」


「なんだと!?」


何故知っているって目で見られてもなぁ・・・


「よ、よしじゃあこれはどうだ!髪を傷めずに洗髪できる液体でな、その名も・・・」


「シャンプーとかリンスとか言うんじゃねえだろうな・・・」


「ふべ!?」


「おお!お前面白い顔ができるな?あははは!」


「な・・なんなんだテメェ!まさかお前も召喚か転移してきたのか?」


コイツ・・面白いな


「転移?なにそれ・・テレポートのことか?」


「ハッ!なんだ違うのかよ・・・ってテレポートってなんだ!名前からすると好きなとこに一瞬で行けるのか!?」



「それより、なんでお前そんな銭湯に用があるんだよ?」


「ふん、NPCに理由言ったとこでわからんだろ。まぁいい、カオス値が上がっちまうが力づくでも貰っていくか」


そう言ってリキヤは刀を抜く



-転生者vs召喚勇者-



「おいおい、穏やかじゃないな」


「人殺しさえしなければまだロウ値戻るからな・・・少々痛い目に合ってもらうぞ」


リキヤの後ろにいるウィザードからリキヤをめがけて付与魔法が飛ぶ

息の合ったパーティみたいだ


こいつの言う少々痛い目ってのがわからないが、少なくとも手足の一本も切り落とそうとしているのだろうか鋭い剣がシュウを襲う


「スキル!HP残し!」


リキヤがそう言って切りかかる


ふむ、こいつらの目には何か別のものが見えているな

LAWとかCAOSとか・・・HPか・・それも見えているのか

それとスキル・・そんな技能は普通は持ってないから誰かが与えたのか?


ひらりと刀を交わして、シュウはそのまま空振りしたリキヤの刀を地面へ押し込んだ


「くっ!?なんだこいつ!ただの鋼の冒険者のくせに!」


やっぱなんか見えてんな

今冒険者タグは服の下に入れているにも関わらずにわかることじゃない


「なぁ、お前何が見えてんだ?ひょっとしてステータスとかか?」


ゾクリ


リキヤの背中に冷たい汗が流れる

なぜその事を知っているのかと


「やっぱりお前は転移者だな!!!」


リキヤは叫ぶ


「いいや、違うね」



俺はそう言うとリキヤにかかと落としをお見舞いしてやった


ズシン


軽く地響きが起きるほどの威力だったが、勇者としてのおかげか、スキルの恩恵かリキヤは気を失うだけで済んだのだった

それを見ていた後ろの女ウィザード二人は慌ててリキヤを連れて逃げていった


それにしても・・・召喚されたやつらは全員ステータスなんかが見えるのか?



そんなありもしないものをなぜ作ったんだ?



「あの・・大丈夫ですか?」


「ああ、ナナミか。大丈夫だよ・・・なぁ、ナナミもステータスとか見えるのか?」


「えっと・・見えます」




ナナミの説明によれば、見れるステータスは自分の物だけではないらしい

ステータスサーチにより、目の前の相手一人も見える


そしてLAWとCAOS・・


これがいわゆる、善と悪システムのようで悪に偏れば周りからの評価もさがるし善だと評価はあがる


まるでゲームの様に


「一体誰が・・」


「女神様です。この世界に私たちを呼んだ」


「は?女神?」


「ええ、ご存じないのですか?そういえばこの街にはディオネ様の女神像もありませんね?」


この国は地母神信仰だったからか?



「そもそも召喚された目的はなんなんだ?」


「えっと、確か帝国の向こうにいる魔王の討伐だとか」


「でもかなり南だぞ?帝国は。なぜこんなとこに勇者がいるんだ」



ナナミは何も無い虚空を見つめている

おそらくはステータスをみているのだろう


「ああ、これかな?クエストが発行されてたみたいです。アクアスの南にモンスター討伐依頼が出てますね」


「そんなのがあるのか?」


「はい、ギルドの情報が纏めてありまして・・・勇者は冒険者ランクが白金ですから、その依頼にあったものをこなしてるんです」


話を聞いていた双子が


「うん、アクアスの冒険者ギルドが本格的に動いてるから多分南にいたオークキング討伐依頼がでたんだよ」



なるほど


「あれ?そういやティナはいないのか?呼ばれてきたのに」


「多分ライアお姉ちゃん達を探しに行ったのかな?」


そう言えば師匠も居ないな


「まあいいか、とりあえずさっきの勇者さまをもう少しとっちめとくか」


NPC呼ばわりしやがったからな


あ、刀を忘れていってやがる


地面に刺さったままの刀を抜く


「おお!日本刀か!」


それを聞いていたナナミが


「やっぱり日本人なんですか?」


そりゃ聞くよなあ


「まあ、元だけどな。今の俺はこの世界で産まれ育ったシュウだよ」


とだけ、言っておいた

先ほどの勇者くんは俺が鋼の冒険者だと知っていた

ということはつまり


「なあ、そういえば他の人のステータスとかも見えるのか?」


「えっと、はい。名前と種族と、職業・・あとはHPと状態とかでしょうか」


「ふうん・・・じゃあ俺のも見えてるんだ?」


「そうですね。シュウ、人間、鋼の冒険者・・HP500、状態:健康ですね」


なるほどな、それくらいわかれば問題なく戦えるよな・・他のステータスまで見えていたらちょっとドン引きされてたかもな


「自分のステータスはもっと細かいんだろ?」


「は、はい。攻撃力や防御力とか、スキルや魔法なんかも書いてます」


「それと、さっき言ってたクエスト発行か」


「はい、便利ですよ。私は使って居ませんが」


さて、とりあえず揉め事は以上か


「あ、お兄ちゃん!あれ?もうあの変なのいない・・・」


ティナが帰ってきた


「とりあえず蹴ったらどっかいった。あ、たぶんどっかの宿屋かなんかにいるからついでに探してくれないか?聞きたいことがあるんだ」


「うん、いいよー!行ってくる」


そういってスッと消える

いつも思うんだけどどこに行ってるんだろ?

四次元的な世界?


「あ、ライアとサーシャだ」


「なんだ、もう片付いてたのか」


「ああ、ほんと今だけどな」


「そうか・・さすがシュウだな!」


「ひさ、しぶり」


ライアとサーシャも駆け付けたのか

でもあいつらとやり合わなくて良かったよ・・・あの勇者ってのなかなかの動きだったし


「銭湯が荒らされたと聞いたのでな、ちょっと見てくる」


そう言ってライアとサーシャは銭湯に行った


「んじゃ、俺らは勇者くんのとこ行きますか」


「え?どこか分かったんですか?」


「ああ、今ティナが見つけたよ。この先にある倉庫だそうだ」





---------


ガラリッ


その扉を開けると中は魔法の明かりに照らされていた


ウィザードの女二人が勇者であるリキヤを介抱しているようだった

シュウとナナミが踏み込んだことで、一瞬戦闘態勢をとるが勇者を倒した俺には敵わないと悟っているのか手にしたロッドをからんと落とした


「な・・なによ!まだ何かやる気!?この人勇者なんだからね!あまりやりすぎると国を挙げて貴方を追うことになるわよ!」


おお・・なんたる脅しだ!許しがたい


俺は女ウィザードの真後ろにテレポートし、そのまま胸をモミモミして即元の場所にテレポートする


「ひゅあああ!?」


女ウィザードが後ろを振り向くが俺はもうすでに戻っている


「あの・・シュウさん?」


ナナミがひどい目で俺を見る


「なんだいナナミ君。その目はなかなかに厳しいよ?」


「ああ、別に何かしようってわけじゃない、勇者くんに話が聞きたいだけだ」


俺は見なかったことにして女ウィザードに話しかける


「なあ、あんたらはどうしてこの国にきたんだ?」


女ウィザードがだるそうに髪をかきあげながら


「ここから南でモンスターが暴れてたの、キェン村って所が襲われてるのを助けに行ったのよ。そこでこの国の噂を聞いたリキヤ様がどうしても行きたいって言って」


「噂を?」


「ええ、セントーって言う入浴場があるって言う噂」


なるほど、確に筋は通るか

ナナミが言ってたクエスト

さらに銭湯の噂。日本人なら飛びつくか


「分かった、まあそれはいいや。それよりそいつはなんなんだよ。やたらでかい態度、威圧的ってかあからさまに殺しにきやがって」


それには俯く2人の女ウィザード

ナナミが言った


「だんだんと、態度が変わっていったんです。リキヤ君だけじゃなくて皆ですけど」


え?皆?


「勇者ですごい力を持ってますし、実際に帝国の将軍とやらを撃退したりしましたから周りが放っておかなくて・・・私は、参加してませんでしたから詳しくは知りませんが、城でもパーティが開かれてました」



あ、話の最中に女ウィザードが勇者担いで逃げようとしてる

俺は近くにあったロープで3人をぐるぐるまきにして転がした


「まあ、おだてられてだんだん調子に乗っちまったんだな。まだガキだから仕方ないだろうが、もちっと自重して欲しいなぁ」


俺はリキヤを起こし、ヒールをかけてやる

くそ、俺のヒールは女だけに使いたかったのに!


「ん・・・はっ!?な、なんだこれ!?動かないぞ?くそっ!ロープか!」


「起きたか?お前さ、ちょっと調子乗りすぎだよ。銭湯の魔道具が欲しいんなら普通に交渉してくりゃ問題にもならなかったのに」


「う、うるさい!俺はこの世界を救う人間だぞ!勇者なんだ!」


「はあ、だからどーしたよ。俺は別に救ってくれとか頼んでねーし」


「あぐっ」


「それにしても、異世界チート楽しんでるようでなによりじゃないか」


俺が呆れた目で見ていると、リキヤが俺のそばに居たナナミに気がついた


「ん?お前ナナミか、何してんだよこんな所で。まさかあのクエストに来たのか?でもお前が来ても役にたたないだろうが。死なないように城に引っ込んでろよ」


「・・・・・」


ナナミが怯えた様に俺の後ろに下がる


「くそっ!銭湯さえ作れれば俺の株が上がったのに!!」


どういう事だ?


「株が?何のために上げるんだ」


「うるせえよ」


あ、あかん。キレそう。


パンパンパンパンパン


とりあえずリキヤを叩いておく


「で?」


涙目になって顔が腫れたリキヤが素直に話し出した


「し、シズクって賢者の女がいて、復活(リザレクション)の魔法が使えるんです」


なー


リザレクションだと!?

ンなモン使えるわけがないだろ!?


「あ、その魔法が効くのは俺達勇者だけなんだ。村人に使っても生き返らない」


なるほど・・・

何か条件付きか


「そいつ、俺に惚れてるんですが、手土産にと」


「お前が惚れてるんじゃないのか?」


「いや!そんな事はない!俺の事を好きって言ったんだ!他の人に内緒ねってキスもしたんだ!」


内緒にできてねぇなそれ

つかリア充め!


「まあいいや、いいカッコしたかったんだな」


リキヤは頭を下げ


「はい」


そう呟いた


「とりあえず、解放してやるけど変な気を起こすなよ。今度は手加減しねぇからな。あとナナミに謝れ」


そう言って解放する


リキヤは素直にナナミに謝り、そして帰って行った


まったく・・・・


あ、日本刀返すの忘れてた

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