メイドと執事・天使と悪魔
屋敷に入り、ニーナに出会ったその日の夕方
「初めまして、シャルロットと申します」
「初めまして、ベイガーと申します」
家にメイドと執事が来ました
シャルロットは中年の女性で、それはもうスタイルも素晴らしく、豊満な・・・・
多分俺三人分は有ろうかと言う体重で
ベイガーはまさに老執事で素晴らしいシルバーの白髪で
筋肉モリッモリの執事さんです
「ぐふぅっ」
なぜか目から水が・・・
「シュウ、そんなに嬉しかったの?」
「ああカイ、そうだな」
ああああああ!
誰だメイドは若い女だと言った奴は!
スタイル抜群のいやらしいメイドだと言ったやつは!
ご主人様の願いではあればなんでも致しますとかそう言う健気なえっちなメイドは何処にいるんだ!!
「ぐぬぬぬっ」
「さて、そんじゃ掃除しようかね。しばらく放置してたから汚れがついちまってるね」
先ほどと比べ、うって変わってにこやかな表情をみせるシャルロット
そこにカイが、
「シャルロットさんは前もこの屋敷にいたんですか?」
「ああ、そうだよ。私のことはシャルロット、略してシャロでいいよご主人様」
「じゃあシャロさんで。ボクのこともカイでいいですよ」
「それはちょっとねえ・・・じゃあカイ様と・・シュウ様だね」
あははと早速仲良くなってるカイ
「それでは、私は馬房の清掃と馬の手入れを・・・終わりましたらお茶にしましょうか」
そう言って馬房に行こうとするベイガーに
「シャロ!!ベイガー!!!」
大きな声が屋敷に響く
ニーナだ
「え・・・えええええ!?ニーナお嬢さん!?」
シャロが目を見開く
ベイガーも持っていた荷物をばたんと落とした
ニーナは走ってきてシャロに抱き着いて
「おかえりシャロ!ベイガー!!」
「おおおおお・・・お嬢様・・」
「なんてこった・・・ニーナお嬢さんがなんでここに?」
ニーナはちらりと俺を見て
「シュウがね、一生面倒見てやるからって!」
おおおお!?ちょっとまて。語弊がある
いや、ないのかでもそれちょっとまって
あ・・ほらシャロとベイガーの表情がしぶいじゃん!めっちゃ睨んでるやん!
絶対ロリコンだと思われてるーじゃん!?
「それは・・・ようございました・・・」
シャロとベイガーはその険しい表情のまま泣き出してしまった
「お嬢様、私共はずっと探しておりましたが、ついぞ今日まで見つけること叶わず。諦めたままお屋敷に戻ったのですが・・・まさか・・まさかここにずっと居られたとは」
「ええ、しかも旦那様まで見つかるとは・・・わたしゃ嬉しいですよ!シュウ様、よろしくお願いいたしますね!!」
ちょーーーーーーーーーーーー!
ハメられた!?
「それにしてもお嬢様、このひと月どう過ごされていたのですか?」
そういえばそうだな、今のシャルとベイガーの話ではこの子は一人で今日まで生きていたことになる
兄は盗賊になってたが
「ほら、着の身のまま放り出されたでしょう?だから質屋に行って、全部売り払ったのよ。もちろんドレスもね。多少の宝石は身に着けていたのが役立ったわ」
「さ・・流石ですお嬢様・・」
「そう?でもずっとこの屋敷の新しい持ち主に会いたかったからずっと奥の屋敷の部屋でまってたのよ。焼けているとはいえ誰もこなかったかし、屋根も壁もある部屋が残っていたから大丈夫だったわ。でもこの屋敷のカギだけはどうしても手に入らなくて・・・」
「なるほどでございます。このベイガー感激しております。それでは新しい主人の元、お嬢様はまたアレを?」
「ええ、恩があるの。シュウには、返しきれない恩ができたの」
そう言って頬を赤らめるニーナは年相応に可愛く見える
「そうでございますか。不肖このベイガー、今まで以上に全力で仕えたい所存でございます」
「あたしもだよ・・・ニーナ様の恩人なら命だってかけれるね!」
そう言って二人は俺の方に頭を下げた
いや・・でもまぁ・・なんとなく恥ずかしい
「そ、そういえばアレって何なんだ?」
「ほう、シュウ様は知らずにニーナお嬢様を保護したのですかな?」
「え?」
「あのね、ニーナお嬢様は・・・天才・・なんだよ」
なんの天才なんだ?
「商売の天才ですな。そもそもダグダート家は元々名家にでしたが、それでも貴族となるには全く見込みもないものでした」
「そうさね、あの旦那様がニーナ様を連れた奥方と再婚したのは今から8年程昔かね」
そうー
それはあのダグダート家が待ち望んだ才能だった
アクアスの名家だったニーナの実家は、20年前ラインフォードに移り住んだ
ダグダートと縁があり、家族そのまま屋敷内に住むことを許されていた
だがー10年前、ニーナの父親は死んだ
それは呪いやケガでもなんでもなく、ただの昔から病んでいた病気で
その後、元々病弱だった母も体調が思わしくなく、不安に思った母はまだ幼かったニーナをダグダート家の養子とした
別に、おかしな話ではない
ラインフォードに移り住み、孤児になるのを避けるべく養子になった子供は少なくない
だが、ダグダートの場合は狙いはニーナそのものだった
幼かったニーナだが、最初は普通に学問を学んでいただけだった
ダグダート家の、家庭教師から
数年経った頃に家庭教師は諦める
教えることを。すべてを吸収したニーナが必要としなくなってしまったからだ
そして、ダグダート家の家業であった不動産、また商売を手伝い始めた頃から様子が変わる
一切合切の不正を行っていた従業員すべてを割り出して追放
結果、売り上げは3倍以上に上った
才能を欲したダグダート家は都合よく旦那の居なくなったニーナの母親に持ち掛ける
優秀な子供故、我が養子にどうかと
それまでも、養子同然に扱ってくれていたこともあり、母は快諾する
それは自身の病弱さもあっての事だが
ニーナを手に入れたダグダート家は躍進する
それは貴族となれた結果が証明しているだろう
「なるほどなぁ・・・でもそれ、ニーナは望んで居たことなのか?」
「ええ・・それこそお母上の為に・・」
そうか・・・でも、嫌なら・・・
俺はニーナの部屋に行く
そして
「なぁニーナ、嫌だったら辞めてもいいんだぞ」
「ひぇ!?な、何を!?私やっぱり出ていかなきゃいけないの!?」
いきなり叫んだ俺にびっくりするニーナ
あ、説明しなきゃ
えと、確か商売の才能を利用されてたんだったか
「ああ、なんだその事なの。好きでやってるだけよ、あの親父が結果的に利用したみたいになってたけど、私には頭が上がらない程度には立場が上だったの」
「なんだ、そうだったのか。まあ俺はお金あんまりいらないんだけどな」
「ああ、シュウは欲があまりないんだっけ?性欲は凄いのに」
ちょっとまて、誰だその事言ったのは
メイミか?メイミなのか?
「そ、そんなことないぜ、お金は大好きだ」
「そんな人がアクアスの復興を僅か一ヶ月で、しかも無償でやるわけないでしょ!」
「ちょっと待て、その情報は何処からだ」
「ついさっきから本格的に動こうと思って、情報集めしてたの。すぐに集まったわよ?」
「なん・・だって」
「不動産屋のミオさんが教えてくれたわ」
あの女性か!確かに知ってはいそうだけど
「まぁ、お金をに興味無いのは分かったから、最低限残して売却するけどね。あまり手を広げるのは怖いから」
「何が怖いんだ?」
「そりゃね、今までは権力のある家が後ろ盾だったけど今度はそうはいかないかなって。多分力ずくって輩もいるだろうし」
あー、裏のヤクザみたいなもんか
「まあ、好きならやればいいよ。気にすんな」
「そう?まああのバカ親父が不良債権かなり隠していたみたいだからそれは処分しなきゃね」
不良債権と言う言葉にビクッとする
こわい・・・
「まあ、あまり無理すんなよ」
そう言って俺は部屋を出た
夕食後
カイとティナと一緒に、シャロが掃除した部屋で、ベイガーが入れてくれたお茶を飲んでいる
本当に有能な執事とメイドで、カイも絶賛している
「シャロとベイガーさんは、ずっとニーナに着いて来てたんですか?」
アクアスからと言う意味だ
「いえ、私はラインフォードで雇って頂きました。まあシャロに紹介されてですが」
ベイガーが言った
「私はずっとニーナ様のお家に仕えてたんだよ」
シャロはそうなのかー
「ね、シュウ、次は何処に行ってみる?シャロさん、ベイガーさん良いとこ知らないかな?」
カイが次の旅先を決めようと言ってきた
シャロとベイガーにオススメを聞いて、参考にしたいみたいだなー
「ふむ、私は南のグランフォールの滝ですかな。しかしグラニ国に許可を貰わないといけないのですがね」
ふむ、良い案だなーたしかこの世界最大の滝だったな
「あたしゃザッカニア渓谷かねーでも今は帝国が治めてるから行きにくいかもねぇ」
あー、たしか雨の渓谷か。年中雨が降る不思議な谷
だがカイは、有り得ない行き先を提示する
「シュウ、この間のデーモンの件、片付けに行かないか?」
「うん?どこにだ?」
「アグニア火山の南、フィル・ダガさ」
おい、そこはこの世界の奴は誰も知らないだろ・・・
と、思っていたら
ベイガーが片付けようとしたカップをガチャんと落として割った
「うわっ、ベイガーさん大丈夫か?」
俺が慌てて近寄ろうとすると
低い、低い声で言った
「カイ様、そこがどんな所かご存知なので?」
しかしカイは意に介さず
「ああ、ダイにあるセントの泉も見てみたいね」
まてカイ、それもまた行き先としてどうなんだ?
俺がカイに言おうとした瞬間
「カイさん、本当に知ってるのかい?」
今度はシャロが怖い表情をする
そんな2人の態度に俺は
「おいカイ、これはどういう事だ?その地名は魔界と天界だろ?なんでこの2人が反応すんだよ」
そう言うと
「そりゃ、2人の出身地だからじゃないかな?多分だけど」
なるほど、そう言う事か!分かったわー
と笑うとティナが
「あの、天界と魔界って本当にあるの?」
「ああ、あるよ。でも行き方は普通には行けないからなー」
「へえ、行ってみたいです!」
行きたいかーなら、行くかな。まずは魔界でデーモンの件を片付けてからか
なんて思っていたら
「シュウ様もですか?あなた方は何者ですか」
ベイガーが割れたカップを片付けながら言った
その顔には汗がだらだらと流れている
「お、そういやカイなんでそんな事言ったんだ?」
この世界では、一部を除き天界と魔界は馴染みがない。特にラインフォード、アクアス、さらには近隣の国ですら知らないだろう
それなのに何でだ?なぜこの執事とメイドは知っている雰囲気を出している?
「なんで、ニーナを悪魔と天使が見張ってるのか気になったからさ。あの子には何があるんだい?」
カイが言った
ベイガーとシャロは
「事を、荒立てたくないのですが仕方ありませんね。あの子は天使と悪魔の祖先を持つ最後の1人です。我々はそれを見守って居ます」
「見守るか・・・信じても?」
こくりとベイガーは頷いた
「はあ、ベイガー言っちまっていいのかい?まあ、私は天使側の監視役だよ。と言ってもニーナ様の祖先の上級天使に恩があって自主的に守ってるのさ」
「私も似たようなものですな。立場は悪魔側ですがね。悪魔と天使は対立していますが、私とシャロは昔からの付き合いですがね」
そう言った
ああ、なるほど。分かった
「あー、なるほどな!ベイガーとシャロがそのニーナの祖先か!」
俺がそう言うと
「シュウ、シャロさんとベイガーさんが隠してたんだからさー」
ビクッとする二人
「ああ、ごめん。隠してたのか・・・カイ、なんでこの2人の正体が分かったんだ?俺は人間にしか見えないんだけど」
「逆に私がお聞きしたいですな、お3人は人間にしか見えないのですが?」
「ベイガーさん僕らは人間だよ。ただちょっと普通の、ではないだけ。分かった理由は、よく見たら分かったからだよ」
はい?よく見たら分かった?
言われて俺もシャロとベイガーを「よく見た」
ら、確かにその魂は天使と悪魔のものだった
「あ、本当だ。よく見たら違うな」
「え?お兄ちゃん分からなかったの?私最初見た時から分かってたよー。敵意がないから気にしなかったけど」
ティナったら!教えてよ!
「ちょ、ちょっと待ってくれるかい?ティナ嬢ちゃんも分かってたのかい!?シュウ様もよく見たら分かったって意味がわからないよ!!」
慌てるシャロとベイガー
「まあ、良いじゃないか。ティナが人間に見えるのは仕方ないかな?有り得ない存在だし。シャロさんはティナに見覚えあっても良いんだけどなあ」
「ティナ嬢ちゃんをかい?そう言えばその名前は死んだアクアスの姫様と同じだね・・・・って見た目もよく似ている気がするね・・・いや、まさかね。死んだ人間が生き返るわけ・・・」
や、俺を見るなカイ。シャロさんもつられて見てるじゃないか
「そうだよ、私はそのアクアスの姫様だった存在だよ。でも生き返ったわけじゃないけどねー」
「うん、ティナは精霊として生まれ変わっただけだしね」
カイが言った
「なにを・・・バカな事を。精霊が肉体を持つことなど出来るはずがないだろう?そもそも人間が精霊に生まれ変われるはずなどない」
ベイガーさんごめんなさい。
俺のせいです。有り得ました
「まあ、それはいいんだけどね。とりあえずシャロさんとベイガーさん、ニーナの関係性がちゃんと分かったから。安心して旅に出れるよ」
「あ、そう言う事か!」
やっとカイの真意が分かった
「とりあえずベイガーさんにお願いがあるんだけどさ、フィル・ダガを案内して欲しいんだ」
「人間が行けば殺されますぞ?」
「それは大丈夫かな?まあ、ベイガーさんが居れば大丈夫でしょ」
まあ、ベイガーも高位の悪魔ぽいしなー
「お見通しと言うわけですな、宜しいでしょう。執事としてご案内致します」
こうして、次の行き先が決まった
魔界の中枢
フィル・ダガ
かつてこの世界に来る前カイと、眺めていたあの悪魔の国だ
悪魔と魔族、言い方に悩みますねー
まあ違うと言えば違う存在ですが