復興to銭湯
陽の光を反射して輝く湖に照らされて、街並みは輝いている
美しい街並みはかつてのアクアスその姿だ
いや、細部を見ればかつてよりもまだ美しいかもしれない
ラインフォードからの調査団は総勢30名が居る
その中には、元アクアスに住んでいた者が実に八割に上る
それはそうだろう、呪われた祖国を救いたいから解呪研究に名乗りを上げたのだから。
だが成果は出ず、諦めることも出来ずに年月だけが過ぎていたのだった
そんな調査団が、当時の姿そのままのアクアスを見て感動しないはずはなかった
「おお・・・こ・・・れ・・・は・・・」
「おい!俺の・・俺の家があるぞ!?どういう事だ?壊されていたはずなんだ!」
「城を見ろよ・・・あり得ない・・昨年来たときはボロボロだったんだぞ」
まるで時が巻き戻ったかのような姿だった
調査団がはしゃぐのもむりはないだろう
調度品こそ壊れていたりするが、いや、一部の調度品には修繕された跡がある
一体これはどういう事だ?
俺たちは・・20年前に戻ってきたのか?
そんな調査団に対し、メイミが姫様を連れて現れたのだからさらに混乱が増した
「はい、みなさん落ち着いてください。呪いはもう解けているのか?それを調査しに来たのですよ?」
メイミが手をパンパンと叩いてまるで引率の先生のような口ぶりだ
「なっ!?メイミ様!?それにディアナ様まで!?」
当のディアナはきょろきょろろして辺りを見ている
「うわぁ・・・綺麗な街ですね。凄いです」
「だろ?そこの噴水なんかは力作だぞ」
「噴水ですか!?行ってみましょう!シュウ、早く連れて行って下さい」
そんな二人を目にして、メイミはため息をつく
確かに危険はないのは確認済みだけれど、あのはしゃぐ様はまるで子供の様だ
もう20歳にもなっているし、そろそろ結婚しないとダメなのに・・・
いや、もう遅いくらいであるのに
「姫様はほっておいて、調査団の方々は早急に調査をお願いします」
メイミはそう言うと既に復旧が終わった城の中に入っていく
一週間前、復旧の開始されるところまでは見ている
その日の夜にカイからテレポートを習い、そしてラインフォードに帰っていたのだ
調査団の到着する今日、再びアクアスを訪れたのだ
何も聞かされていない調査団はまず最初に街の中に入り修繕が済んでいる街並みや城に驚いた
そして先ほど、テレポートでやってきたメイミとディアナに驚いたのだ
そういえば、メイミにテレポートを教えた際に
「確かに消費魔力は多いですが・・・簡単に覚えれますね・・コツもいるようですし。これは広まると大変なことになるので、できれば今後覚えたい人がいれば審査して教えるかどうかを決めたいと思います。既に教えてしまっているサーシャさんも同様に、むやみに使うことを控えて誰にも教えないようにしてください。ああそれと、ゴーレムの魔法も同じです」
そんなながーい小言を言って帰った
他に隠している魔法はないかと言われたが・・なにがダメで何がいいのかわからないからないと答えておいた。ちなみに教えてくれた師匠も、もう居ないと言うことにしておいた。実際いないけど。
さて、調査団が色々な魔法術式により解呪が出来ているのを確認できるまでは夕方まで掛かったが、相当早かったと言える
その間俺とカイは孤児院を修復という名目でグレードアップをしている
結局、アクアスの街にいた14歳未満の孤児は20名もいたからだ
今まで10人も居なかった孤児と神父さん
厨房は狭いし、10歳にもなれば男女雑魚寝も問題あるだろう
そこで、俺は前世の知識をフル活用してグレードアップしてみることにした
先ずは水道設備
タンクを据え置くやり方にした
タンクは木で作り、屋根に置いた
水の組み上げはポンプを作りたかったが、魔法で補充することにした
孤児の中には水魔法が使える子が何人かいたからな
さらに部屋の拡張だ
流石に足りないので倍に増やした
二階建てに改築だ
庭には、滑り台や鉄棒などの遊具を完備
さらには各教室を作り、知識を得れるようにした
読み書きはできないとな
あとは裁縫に体育館だ
先生役は神父とティナ、師匠の予定
ゴーレムも駆使したので夕暮れまでには全て終わっていた
今は裁縫室でカイが孤児達の為に清潔な服を作っている所である
「またやってくれましたね?」
「え?メイミ怖い。どうしたのさ、あ、女の子の日かな?」
顔を真っ赤にしたメイミが
「この孤児院の事です!デリカシーのない変態ですね!!なんですかこの住み心地の良さそうな場所は!しかもラインフォードの貴族学園ですら、城ですらこんな設備はありませんよ!」
「ああ、水道か。便利だろ?」
「あとあの建物は何ですか?」
「温泉だな。銭湯とも言う。俺が入りたかったから作った。湯は2千メル地下から汲み上げた湯だぞ」
孤児院の目の前には銭湯を作り上げた
ゴーレムが居なくなるとこれからの復興は、人の手だ。汗をかいたら入りたいだろ?
水浴びだけだと疲れがとれないからなぁ
「ああもう!温泉!?2千メル!?一体どうやって!」
地下に向けてドリル型ゴーレムを伸ばしたのだが?
それにより魔力供給さえしておけば湯は常に補給されるのだ
「もはや貴族がいくら出してもかまわないと言いそうな魔道具じゃないですか・・・・冒険者やるよりも稼げるんじゃないですか?」
「え!?売れるのあれ!?」
「売るな!!そして秘密にしておきなさい!まったくもう・・目を離した隙になんてものを・・・」
メイミは頭を抱えている
「ちぇー。金儲けのあてができたかと思ったのに」
「ええ、貴方がたは城だけでなく城下町全てを直し、さらには食料事情まで解決。それどころか新しい魔道具まで開発!全てを無償で?そもそもその時点で・・びっくりしてるのはこっちです」
頭抱えているメイミの元に、姫さんがやってきて
「メイミ!銭湯と言うものは最高ですね!シュウ様、あのサウナと言うものは癖になりそうでヤバイですわ!!ラインフォードの城にも作って下さいまし!」
そう言ってぴょんぴょん跳ねている
あ。またメイミのこめかみがピクピクしはじめている
「サウナ?」
えーと、その、サウナっていうのは…
何も悪い事はしていないのに何故かメイミにこっぴどく叱られてしまった
「そういえば・・・この施設はどこかで見たことがありますね・・はっ!アイナの村!そう、あの湯治で有名なアイナの村にこれと似たような施設があったのを覚えています!!」
「ああ、それ俺が作ったやつだ!10歳の時に・・・・て、メイミさん?なんで睨んでるの!」
メイミにどう言ういきさつかを説明した
「ええ・・・そうでしたか・・シュウ様とカイ様は・・はぁ、あの村の出身だったのですね」
「そう、そうなんだよ。だからね、ほら作れるんですわ・・・・・って痛い!引っ張らないでー!!ちがう!そっち女湯だって!俺はおーとーこーゆー!!!」
説明しなさいというメイミに引っ張られて女湯に入るところだった。つーか入れば良かったわ
結局ライアとサーシャが風呂に入るタイミングだったので、一緒に入ってもらった事で事なきを得た
「シュウ、温泉できたの?相変わらず好きだね」
「ああ、カイ。そりゃ風呂は大好きだからなー。一緒に入るか?」
「え?い・・いや、その・・ボクはあとで一人で入るよ。一人のほうが好きなんだ」
「そういえばそうだったな。じゃあ俺入ってくるから例のものよろしく頼む」
「ああ、用意しておくよ」
そう言って俺は温泉にダッシュした
中に入ると、調査団の人が居た
ああ、彼らにも入っていいって言っといたんだ
「おお、シュウ様。この温泉は素晴らしいですな!アクアスが復興したら名物になるかも知れません」
「お。そう?いやー銭湯が広まるのはいいよなぁ、うん。」
「そう言えばシュウ様、この施設は無料なんですか?」
「え?そのつもりだったけど・・・ダメかな」
「ダメではないんですが、シュウ様が居なくなると掃除ですとか、湯の汲み上げに使う魔力とかいろいろと必要なことがあるではないですか」
「あーそうか。てことは誰か雇うのがいいかな?」
「そうですね、入浴料を頂いて運営するのがいいかと思います」
そうか、それだと値段いくらかとか色々あるなぁ・・・
あとで神父さまにでも相談するか
「あとそうですね、湯治に訪れる冒険者も多いでしょうから宿や食事処も併設されているとなお良いですなぁ」
「おいおい、そりゃそこまでとなるとお前さんの希望だろ?だけどそうだな、考えておこう」
孤児院に居られるのは14歳までだ。その後の身の振り方を考えるにはいい就職先かもしれないな
ライアとサーシャは冒険者以外の選択肢はなかったから、冒険者になったのだろうし・・・
そうなると善は急げだな。明日から取り掛かるとするか
銭湯から出て目の前の孤児院に戻る
カイが例のものを用意してくれていた
「はい、シュウ牛乳だよ」
「おお・・ありがてぇ・・んーーーー!うまい!やっぱ風呂上りには冷えた牛乳が一番だな」
「それにはボクも同意するよ」
「ふう・・・いいお湯でした・・・・」
メイミ達も風呂から帰ってきたようだ
「あ、メイミさん達もどうぞ、牛乳」
そう言ってカイはメイミに牛乳を手渡す
「ありがとうございます・・・はぁ・・・美味しい」
おお・・・・!!!!
湯上りのメイミは超色っぽいな!はっ!そうだ、肩でもお揉みしよう!
俺はメイミの後ろに回り、ぽーっとしているメイミの肩を揉む
「ああ・・・気持ちいい」
おおおお!!いろっぺえ!すげぇよ!
うなじからいい匂いがするわこの角度は胸の谷間が・・・・
「ん・・・・?シュウ様?」
あ。不味い
話題!話題だ!
「どうだった、温泉は」
必死にひねり出したが、ちょっと声が上ずってしまった
「ええ、良いものだということはよくわかりましたよ。あ、もう少し強めにお願いできますか」
「でしょ!あ、はい。強めにですね。それと、調査団の方と話していたら維持費の為にお金をもらってはどうかと言われましたよ」
「当然です。ラインフォードからアクアスへの移住が進めば、きっと大勢の人数が訪れますからね。既に調査結果をもって冒険者ギルド協会、商人ギルド協会は動き出しましたし、不動産関連でも貴方が持ち帰った書類を元に、元の持ち主に土地は返還されるでしょう」
「おー!早いですね」
「それでこの変態はいつまで私の肩を揉む振りをして胸を覗き見ているんでしょうね」
俺はとりあえず土下座した
「それでは、私は一旦ラインフォードにアホ姫を連れて帰ります。くれぐれも余計なことはしないで下さいね!!!」
「は・・はい」
俺とカイは何故か釘を刺されてしまった
皆喜んでいるのに何故だ・・・
「テレポート!」
メイミと姫さんは帰ってしまった
「さて、んじゃ寝るか!明日からも忙しいぞー」
「え?シュウ、まだ何かやるつもりなの?」
「ああ、温泉の周りに宿泊施設と食事処があるといいんじゃないかとアドバイスを貰ってな、んで孤児院の子供達の将来の勤め先になればいいなと思ってるんだ」
「なるほど、シュウはさすがだねー。そんな先のことまで考えてたんだ」
「孤児院出たら、みんな冒険者になるしかないとかおかしいだろ?」
「そうだね、僕も協力するよ」
「それならば私も手伝おう」
ライアが言った
「私も、やりたい」
サーシャもだ
なんだかんだ、ライアもサーシャも孤児院改修の手伝いをしてくれていたしな
ちなみに、ライアの妹たちの経過は順調で目が見えることに慣れてきたらしい
サーシャの呪い・・も、かなり良くなってきている
「じゃぁ、とりあえず今日はもう寝て明日からに備えよう」
それから一か月が経った頃、ついに元アクアスの国民達が帰ってきた
むろん、全員というわけではない
ラインフォードで職に就いていたものはそのまましばらくは帰らないそうだし
帰国を夢見て亡くなった人も沢山いる
住民登録によれば概ね半数が帰ってきているということだ
空き家は新しく移住したい人の為に抽選で割り当てられると言うことになった
そしてアクアスの主産業だった漁業も再開され、新鮮な魚が市場に並ぶようにもなった
そう、船職人が帰ってきたのだ
俺はチャンスとばかりに船職人に弟子入りをして、技術を教えてもらったりしていたのだ
これで船を作ることができるぜ!
村にはなかったからなー船がいるような場所が
それと温泉と宿、食事処は早くも賑わいを見せ始めている
孤児院運営ということで最初こそ皆不安がっていたが、なるようになるものだ
特に元浮浪児の子供達は逞しく風呂上がりの冷えた牛乳を売りに行っている
仕入れ値を差し引いても良い小遣い稼ぎになっている様だった
「さて、ひと段落したなぁ・・・一旦ラインフォードに帰るか」
「え!?かえっちゃうのお兄ちゃん!?」
「そりゃまぁなぁ・・色々旅に出るのが目的だったし・・ラインフォードにやり残したこともあるしな」
やり残した事・・それはダグダートの屋敷だ!そこに俺専用のメイドが居るはずなのだ!
「ふぅん・・ティナも着いていこうかなー」
「え?お前孤児院の先生はどうするんだよ」
「ライアちゃんとサーシャちゃんが代わりにやってくれるわよ」
ああ、そうか。彼女たちはなるべくして冒険者になったわけじゃなかったな・・
だから働き口が出来たので危険を冒してまで出稼ぎの必要は無いからな
「んーカイどうする?」
「いいんじゃない?彼女残していくわけにもいかないよ。そろそろティナ姫じゃないかって噂も出てるしね」
「ああ・・戻ってきた中には昔の姿から面影を見つける人も居るだろうしな」
「よっし!じゃ、私も着いていくね」
「帰りはゆっくり馬車で帰ろうか」
美しい湖畔を眺めながら旅をするってのはおつじゃないかって思うんだ
一度は滅びかけたアクアスの国は、かつての賑わいの大半を取り戻したのである